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NANASE  作者: 白桜 ぴぴ
39/63

向かい風 01

 PM 11:13

 ベッドに寝転がり、携帯電話で七瀬の番号を呼び出す。

 七瀬に電話するなんて、久しぶりだ。大体の用件はメールで済ませちゃうし、そのメールすら、あのオーディションの日以来全くしていない。理由は色々あったけど、最近の一番大きな理由は綾美との仲がこじれたせいだ。七瀬は綾美の側についているから、学校では何となくお互いに話しかけづらいし、家に帰れば、私は藤井や紗知達とばかり電話をしているし…。

 電話の目的は、あくまでもダンスのレクチャーを引き受けてもらう事だったけど、改めて彼女にアクセスするならば他にも聞きたい事は山程あった。右足の怪我は本当に治ったのか、オーディションに落ちた事からは立ち直れたのか、そして、今でもコーイチの事が好きなのか…? 最後の質問は出来ないだろうけど…。それに、綾美の事だって聞きたかった。

 3回めの呼び出し音が終ったあたりで七瀬に繋がる。『真由美?』と聞いて来る少しトーンを落とした声。久しぶりのせいか、それともこれから切り出す話題のせいか、妙に緊張する。…どうしよう? どうやって話そう? とりあえずはレクチャーの件から話そうか。…どうせ断られると思うけど…。いや、むしろ断って欲しい。藤井には悪いけど、七瀬が快く引き受けたところで、他のクラスメート達の気持ちを考えると、とても上手く行くとは思えない。万が一七瀬が引き受ける事の方が、想像するだけで怖い…。

 ごちゃごちゃと考え込んでいる私に向かい、

『どうしたの? 久しぶりじゃん』

 と、やけに明るい声で七瀬が言う。

「うん、あのね…ちょっと聞きたい事があるんだけど…」

 私は、そんな風に話を切り出し、やっぱりそのまま言葉につまってしまう。 いつ

までたっても本題に入らない私に焦れたのか、七瀬が先回りをして聞いて来た。

『もしかして、アヤミンの事? …でしょ?』

 それは私が5番目に聞きたい質問だった。が、七瀬は私が返事もしないうちに、

『私も事情は聞いたけど、アヤミンのことに関しては真由美は悪くないと思うよ…』 

 と、驚いた事に、柄にもなく慰めてくれた。

 それが、ひどくくすぐったい感じがして、ついでになんだか嬉しくて、

「綾美ちゃん、私の事何か言ってる? 相当怒ってるんじゃない?」

 …と、本題を横に置き、七瀬に甘えてしまう。七瀬は少し考えながら答えた。

『この話をしてた時はちょっと怒ってたみたい。でも、今は何も言わないよ。言わないけど、悩んでるらしい雰囲気は伝わって来る。真由美の話は全然しないけどね』

「きっと、今でも怒ってるんだよ。目も合わせてくれない」

『怒ってるって言うかさ…』

 そこで、七瀬は言葉を切った。

『怒ってるって言うか、あの子、真由美に迷惑かけたくないのかもよ。ほら、あんたの真面目な友達のために…』

「…!」

 それは、思いもよらない言葉だった。

「…そんなこと言ってるの? 綾美ちゃん」

 正直言って、ショックだ。

『言ってないって。言ってないけど…何となく、そんな気がするだけ』

「それが、もし本当なら、そんなの気にしなくていいのに…」

『そういうわけにはいかないよ』

 七瀬の言葉もやけに意味深に聞こえる。

「…まさか、あんたもそんな風に思って私に近付いて来ないわけ?」

『冗談…!』

 そう答えると、七瀬は軽く笑った。

『私は、あんたの真面目友達より、アヤミン達といる方が楽しいからあの子らといるだけ』

 それを聞いて少しだけホッとしたが、心の片隅に何かスッキリしない物が残る。

「もし、綾美ちゃんがそんな事思ってるなら、気にしないでって伝えてよ」

『分かった。もし、アヤミンがそういう事を口に出したら伝えとく』

 そして、それから…私達はしばらく黙りこくってしまった。2人で電話してると、時々こんな間が有る。そういう時は、お互いにテレビに目をやったり、音楽を聞いてたりするんだけど…

「ところでさ…」

 私が口を開いたのと同時に七瀬も何か言った。でも、同時だったから何を言ったのかが、聞き取れなかった…。

「何? 何か言いかけた?」

 私が聞くと、向こうも

『何? そっちが先に言ってよ』

 と、言う。譲り合いしてるのもなんだから、

「別にたいした事じゃないよ。ダンスの練習してるの?」

 言いかけた事を言う。すると、

『今は休んでる』

 との返事。

「もしかして、足、まだ、治ってないとか?」

 聞きたかった質問の2つ目をクリアする。

『ああ。それはもう全然平気』

 七瀬の答は、やけにあっさりしていた。しかし、本当に治ったというのなら、何故練習を再開させないんだろう? 私は思ったままを口にした。

「だったら、何で練習しないの? まさか、もう、ダンスやめるとか?」

 すると、しばらくの沈黙の後、

『実は、やめようかどうか迷ってる…』

 と、七瀬が答えた。

「え? そうなの?」

 ちょっと、驚く。当てずっぽうで言ってみた事が図星だったからだ。それに、まさか七瀬の口から『やめようかどうか…』なんて言葉が出るとは思ってもみなかった。常に強気で、諦めるなんて知らない子なのに。やっぱり、オーディションに落ちた事は相当なショックだったんだろうか? 立ち直ったように見えるけど…。

「ねえ…なんで、そんな心境になったの?」

 用心深く聞いてみだが、

『うん。まあ、色々とね…』

 と、曖昧な言葉を返される。

「そっか…色々か…」

『ごめん。そのうち話すよ…』

「分かった…」

 七瀬は何も言わなかったが、何となく予想がついた。大方、コーイチの関わり有る事なんだろう。もしかして、彼女はコーイチが自分を遠ざけたかっている事に気付いたのかもしれない。いずれにせよ、これ以上聞いても無駄だろう。七瀬が『そのうち話す』と言うのだから、その時を待つしかない。

「でも、それじゃあ、無理よね…」

 私は、あっさりと話を変えた。

『何が無理なの?』

 七瀬の訝しげな声。

「うん、実はね…」

 ここで、私は、ようやく七瀬に電話した本来の目的、つまりダンスのレクチャーについての話題に触れる事ができた。

「実は、今度の文化祭でやるクラブの為に、七瀬にダンスのレクチャーを頼もうって、藤井と相談して決めていたの。クラブをやる側がダンスを全く知らないっていうのもなんでしょ? けど、七瀬がダンスやめるつもりなら、引き受けてもらうのは無理よね…」

 『ああ、そんなの無理に決まってるじゃん』…当然のようにそんな答が返って 来ると私は思っていた。ところが…、

『…委員長がそんな事を言ってるの?』

 七瀬は予想外の反応を示す。

「うん。でも、嫌でしょ?」

 …お願い、嫌って言って。そう思いつつ念を押す。ところが、私の願いも空しく、しばらくの沈黙の後彼女が返して来たのはこんな答だった。

『ううん。…やるよ。私、やってみる…』


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