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NANASE  作者: 白桜 ぴぴ
20/63

赤い靴 01

 カーポートの向こうに見える空は、オレンジ色がコバルトに追われ、その境目に小さな星がぽつんと光っている。

 午後6時23分。もう、日が落ちたころ。七瀬はまだ帰らない…

「ねえ、探しに行った方がいいんじゃない?」

 私は、おそるおそる提案した。なぜおそるおそるなのかと言えば、みんな待ちくたびれて、ピリピリとした雰囲気が…特に藤井の周りから漂いはじめていたからだ。

「携帯は?」

 藤井が、ぶっきらぼうに答えた。七瀬の携帯にかけてみろと言う事らしい。…またそれだ。私は、やれやれと溜め息をついた。

「だから…繋がらないってば」

 既に、もう10回も七瀬の携帯にかけてみたのだ。それで、繋がらなかったのだから、携帯を持たずに出かけたと考えた方がいいと思うのだが…。

「いいから、もう一度かけてみろよ」

 藤井がギロリと私を睨む。…怖い。仕方がないので、七瀬の番号を呼び出し、もう一度かけてみた。ルルルルル…。呼び出し音が響く。しかし、20回コールしても七瀬は出ない…。

 突然、綾美が「あー!」っと叫んだ。

「どうした?」

 藤井が叫ぶと、綾美は壁際に置いてあるゴミ箱の裏に手を入れて、ごそごそと何かを取り出した。ピカピカと七色の光を放って震えている、それは七瀬の携帯だ。マナーモードにしてあったため、音が聞こえなかったらしい。

「やっぱり…」

 私は呟いて携帯を切る。

「携帯置いて出かける奴があるかよ!」

 藤井が怒りの叫びをあげる。

「おいおい。そうピリピリすんなよ、藤井クン。禿げるぞ」

 葛谷がソファの上に寝転がって、余裕の表情で言う。藤井が殺気立った目を葛谷に向けた。

「うるせえ、遅刻常習犯!」

「あ~?」

 睨み合を始める葛谷と藤井の間に、綾美が割って入り、大きく手を打った。

「ねぇねぇ。もしかしてナナチン家出したんじゃない?」

「家出?」

 藤井が据わった目で綾美を見る。

「うん。きっとパパとケンカして、プチ家出したんだよぉ。私、しょっちゅうあるもんそういう事」

「それだぁっ!」

 葛谷が起き上がって綾美を指差した。

「間違いない! 俺もしょっちゅうやるもん」

 自分を基準に考えるのはどうかと思うが、藤井は案外真剣に2人の話を受け止めたようだ。

「なるほど。けど、あのオヤジさんの様子からは、喧嘩したようには見えなかったが?」

「でも、おじさん言ってたじゃん。ナナチンが口きいてくれないって。それ、絶対切れてるよ。私がそうだもん」

 説得力がある。藤井は、ふうんと頷いた。そして、

「じゃあ、町田。お前ならそういう時どこに行く?」

 と綾美に質問した。すると、綾美は首を傾げ傾げ答えた。

「友達の家かなぁ?」

「友達?」

 藤井がぐるりと私達を見回した。とりあえず、七瀬が頼れそうな友達は、みんなここに居るようだが…?

「分かった! コーイチさんとこだよ」

 葛谷が膝を打って叫んだ。すると、藤井は葛谷のポケットの携帯を指差し、

「かけてみろ」

 の一言。コーイチさんに電話しろと言う事らしい。…が、

「命令すんな! てめぇがかけてみろ」

 真っ赤な顔で葛谷が怒る。無理もない。

 すると、藤井が、

「かけたいのはやまやまだが、俺があの人の電話番号知るわけないだろ?」

 と極めて冷静に答えた。その、答に葛谷は妙に感心して、

「そりゃあ、そうだ」

 と頷くと、ポケットから携帯を出してカチカチとボタンを押した。つまり、葛谷はコーイチの電話番号を知っているということだ。いつの間にそんなに仲良くなったんだろう?

「つながるかなー?」

 葛谷は、髑髏の模様の入った紫色の携帯を耳に当てて、不安気につぶやいた。しかし、それは取り越し苦労で、すぐにコーイチに繋がったらしい。

「あ! もしもし、コーイチさん? …そうです。葛谷です。すいません、いきなり。で、えーとですね。そちらに、ナナさん行ってません? …はい? ああ、ああ。そうですか。札幌ですか。分かりました。すいません…」

 ピッ!

 葛谷は携帯を切った。そして、こちらを見て言った。

「コーイチさん、今、札幌だって」

「ふぅーー」

 一斉に溜め息をつく。そして、それきり全員無言になってしまった。私もだんだん腹が立って来る。…一体、あのバカどこに行っちゃったのかしら? まったく人に心配ばかりかけて…。

 しばらくの沈黙の後、唐突に葛谷が叫んだ。

「あー! 踊りてぇ!」

 あまりの声のでかさに圧倒され、藤井も、私も、綾美も、葛谷を見た。葛谷はソファの上で上半身だけ揺らしながら、

「煮詰まった時は踊りてエ! それが、ダンサー!」

 と、ラップみたいな調子で言った。まったく、いつでもどこでも真面目さにかける奴…。けど、煮詰まった時は踊りたい? それがダンサー? 七瀬もダンサー…。

「あぁっ!」

 そこまで考えて、私の頭に閃くものがあった。

「それよ!」

 私は、葛谷を指差し叫ぶ。3人が一斉にこちらを見る。私は注目を浴びながら、興奮して叫んだ。

「七瀬はきっと、踊りに行ったのよ!」

「…そうか!」

 葛谷が膝を叩いた。

「さすが、よっちゃん! きっと、そうさ!」

「けど、どこで?」

 綾美が鼻に掛かった声で聞いて来る。それで、私は答えた。

「きっと、あの公園よ。10日前の夜、あの子が踊ってた…」

 私の言葉が、終るか終らないかのうちに、藤井が部屋から駆け出していた。

「ちょっと、委員長!」

 綾美が追いかけて行く。

「なんだ、なんだ?」

 きょとんとしている葛谷に向かって私は叫んだ。

「いいからついて来て!」

 そして、私も綾美達の後を追って部屋から飛び出して行った。


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