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冷たい自分

作者: Sebastian

「俺はこの世の中が不公正だと思う。何で俺には彼女がいないのだろう。小学校の時は中学受験のために勉強していた。だけど、女子は毎日一緒で楽しい日々を送っていた。今となっては男子校にかよっているため、女子と話すことすらなくなってしまった。なんで男子校に入ってしまったのだろうか。さすがに男子校に入っていても彼女を持っている人は持っている。だけど、俺にはいない何故だろうか。いや、ただ単にきっかけがない、と言ってしまえば、それは紛れもない事実である。」

いつものように学校からの帰りの電車の中で翔太はこんな考え事をしていた。翔太は来年、高校三年生となるのに未だに彼女を持ったことなど一度もないのだ。小学生時代、全くもてなかったわけではない。いや、むしろ平均よりはもてたのではないのだろうか、というぐらいだ。そんな翔太は高校生に入って女のことで悩むなんてこの当時は思ってもいなかった。だから、男子校に入っても問題ないなんて思っていた。現実はそういうわけではないと、今、自分でしみじみ感じている。

「どうにか彼女ができないだろうか。友人の紹介であればいいのだが。いや、だけどそんな見知らぬ人と付き合うなんて俺のプライドが許さない。なんていうか、愛のない恋愛になってしまいそうだ。俺はどちらかといえば劇的な愛のある出会いがいいな。困っている時にお互いが助け合える、そんな愛がほしいのだ。なんで世の中、愛のない男女の付き合いがはびこっているのだろうか。俺には信じられない。顔だけで人を選ぶ、お金が欲しいから付き合う、そんな愛があっていいのだろうか。」

と、いろいろ考えているうちに翔太は駅についた。暦の上では立春を迎えたものの北風のおかげで夕刻の電車のホームは冷えていた。冷たい風の中、ホームの階段を下りていく翔太。向かい側の階段から降りてくる人を眺める。

「誰か知っている人、いや、女子いないかな。小学校以来の再会があってもいいじゃないか。」

翔太は地元の駅についてやることといえば小学校の時の同級生探しなのだ。中学校から地元の学校を離れた翔太にとって、今となっては小学校の同級生、特に女子は翔太の最も欲するものなのだ。ただ、一目見るだけでもいい。とにかく翔太は女子に飢えていた。普段の生活では、部活が忙しいからとか、時間やお金がかかってしまうから、などと言い訳をして女子のことなど頭にない素振りを周りにみせている。だが、本心はそうではなかった。

とその時、翔太の目には小学校の時の同級生、しかも女子の姿が目に入った。それは由実であった。由実は翔太ととても仲がよかった。廊下がすれ違う度に由実が話し掛けてくれていた。翔太はそれを適当に相槌を打つような感じで返事をしていたのだが、内心はうれしくて、照れていて、うまい返事ができなかったのである。だが、時がたって卒業が近づくにつれて、由実は翔太に話をかけてこなくなった。それは、翔太の返事が由実に対して不快感を与えていたからだ。そのことに気づいた翔太はとき既に遅し。自分から離れていく由実に対して、翔太は何も出来ずにいた。

その由実が向かい側から降りてくる。だが、視力の悪い翔太の目ではそれが由実であるという確信は持てなかった。

「あ、由実だ。いや、由実か。よく見えないな・・・。いや、もし由実だったら話し掛けてくるだろう。あの時の由実だったら・・・。」

由実が自分から離れていった、そのことを思い出さないようにしながら翔太は少しだけ期待をしてしまった。相手の女子も翔太をちらっと見る。しかし、すぐ目をそらしてしまった。

「そうだよな、由実じゃないよな。俺はつくづく女運が悪い。いいや、大学生になったら彼女を作ればいいんだ。小学校の時の同級生なんて俺のことを忘れている、俺のことなんて・・・。」

翔太にとって由実は初恋の相手ではないものの今でも思っている相手だった。小学校の時は両思いだった時期もあった。これは確かである。だが、時がたってしまえばただの小学校の時の同級生。いや、むしろただの男女である。その女子が由実であるか由実でないか確信を持てずにいた自分に対して、そんな誰かわからない女子に対して期待してしまった自分に対して、もしかしたら由実とまだ付き合える可能性があるんじゃないかって思ってしまった自分に対して、そんなすべての自分に対して虚しさを感じてしまったのだ。そんな虚しさに翔太は気分が落ち込んでしまう。

結局、女子が誰かわからずに改札を後にした翔太。駅の外で自分を待っていたのは夕闇だけ。夕闇の中に身を潜める翔太。冷たい風が吹く中、駐輪場に向かう。今の時点で翔太の頭の中には由実のことなど頭になかった。何も考えたくなかったからだ。自転車に身を乗せる。

冷たい風の中、翔太は自転車を力強くこぐ。いつも以上の速さで家へと向かう。翔太自信でも何故、こんなにスピードを出しているのかがわからない。ただ、自分の思うがままに自転車をこいでいるだけなのに。冷たい風を感じる。

「俺は多分、この冷たい風を感じるたびに思うのだろう。由実のことを。そして、未だに彼女がいない自分の焦りを感じるのだろう。いや、だけどいいんだ。恋愛に没頭している人にはこの冷たい風がわからないのだ。この冷たい風の気持ちよさがわからないのだ。自分と同じようなこの冷たい風の気持ちよさが・・・。」

翔太は冷たい風と同化していたのだ。



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