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#9「公開会見#6——“顧問・広告”の入札化/門番記録・第二次〈名〉」

 朝の湖は、昨夜の白風の名残りを薄く撫でていた。広場の掲示板は乾き、青硝子の灯りは消しても澄んだまま。水晶投影は王都へ、端にはいつもの二択投票。


二択

A:顧問の値付け(契約方式と評価軸)

B:照明塔の保守入札(仕様と参照線)


 扇の骨で膝を一度。拍。場の呼吸が揃う。


「証言は最後、数字は先に。本日は二本立て。顧問・広告の入札化、そして門番記録の第二次——名」


 ルカが白墨で大きく書く。

合言葉:刃には柄。数字には参照。


 刻印札の抽選を済ませ、王都の枠が開く。財務局の若い官吏、監査室長バレン、次長リュシエンヌ。顔ぶれは同じでも、灯りが違えば顔色が違う。


「まず広告から短く。王家紋章掲出は広告へ分離、掲出権は入札に」


《広告入札(短式案)》

 ・単位:面×期間(広場壁・学園掲示・水晶帯)

 ・方式:二封筒(技術点/価格点)

 ・参照:来場熱量(灯り下の人流)で後払い補正

 ・禁止:返礼・優先窓口の付帯一切


「顧問は投資側。入札へ」


 二択の第一次集計が上がる。

A(顧問)61%/B(保守)39%。

「先に顧問の値付けから」


《顧問入札(案)》

 1)方式:性能連動型。固定費+成果費(参照線に対する改善幅)

 2)参照線:処理時間、参照一致率、事故率、費用対効果

3)評価:二封筒(技術70/価格30)。顔は点にならない

4)利益相反:後援会・外郭団体役員は参加不可(冷却期間一年)

5)公開:提案・得点・契約全文を台帳公開(二鍵一致で改訂)


 王都の文官が手を上げる。『“成果費”の測り方が難しい。顧問の言うことを実施したら、功績は誰のものだ』

「成果は分割。実施側と顧問、参照で按分。功績は共有、恥は分割。——うちの流儀ですわ」


 ジャレットが鼻で笑う。「按分で喧嘩になる」

「喧嘩の冷却水が参照。前日比、同業比、自然比(風・灯り)。数字は喧嘩を短くします」


 私は試しに一本、王都案件を水晶に載せた。

《案件:王都“窓口待ち”短縮》

 ・提案A:整理券の呼吸同期(人流×風)

・提案B:窓口の専門分化(難易度で線引き)

・提案C:優先枠の温存(却下)


「呼吸同期は、灯りの微振動と人流の拍を合わせる設計。自然参照は、嘘が下手」


 入札の“試し点数”を板に書き、技術点に参照設計を大きく配する。王都の官吏が頷いた。『顔が入る余地がない。いい』


 続いて広告の短い結論を貼る。

《広告:入札化。掲出権は面×期間で競り、後払い補正は来場熱量》


「次。照明塔の保守入札」


 二択の第二回。

A(顧問)48%/B(保守)52%。僅差で保守。


《照明塔 保守入札(案)》

 ・方式:定期保守+緊急復旧の二本建て

・参照:ゆらぎ整合指数(風×灯り×水面)

・義務:触媒残滓の即日提出/溶媒使用ログを刻印

・監視:写字生組合が波形の相互写しを実施(二鍵一致)

・罰則:漂白=契約解除+供給停止の三刻通知


 リュシエンヌが短く問う。『“三刻通知”は短すぎはしないか』

「漂白は破壊。短くなければ止まりません。短い言葉は、嘘より速い」


 ここで水晶の端が明滅した。**門番記録・第二次(名)**の枠が開く。老商人が王都広場でゆっくり立つ。杖の鈴が一度。


『第一次(記録)は終わった。第二次(名)だ。若い兵の顔は見た。だが——指示をしたのは、詰所の副官だ』


 王都の空気が沈む。私は短く頷き、筆致比較と接触ログを重ねる。副官——レオン・ダリ。“m”の三画目ではなく、“t”の横画が少し上がる癖。昨夜の代理署名の癖と一致。


『彼は後援会の席に顔がある』と老商人。『だが名は出す。第二次だからだ』


 私は板に貼る。


《門番記録:第二次(名)》

 ・副官 レオン・ダリ —— 箱の開閉指示/代理署名(横画癖一致)

・処分:職務停止/公開聴取/会計再訓練

・保護:若い兵は供述減罪(立会い継続)


 リュシエンヌの瞳がわずかに動いた。『甘いと言う者がいる』

「第一次は記録、第二次は名、第三次は手。——手は漂白にのみ、速く落とす。それ以外は欄干を」


 王都の枠に、レオン・ダリ本人が現れた。固い頬。『……やった。だが俺だけじゃない』

「皆は罰ではありませんの」私は静かに返す。「皆でやめるために、名は必要。顔は貸せても、顔色は灯りに任せる」


 会見の迷いが抜けたところで、顧問入札を正式に採択する。財務局の官吏が言う。『試行案件を一つやろう。“王都・門の待ち”』

「性能連動で承ります。参照は今日から灯りに刻みます」


 私は掲示板に短く貼る。


《本日の結論(速報)》

 1)広告:入札化(二封筒+後払い補正)。

2)顧問:性能連動入札(技術70/価格30/参照按分)。

3)保守:照明塔は二本建て+ゆらぎ整合指数/漂白は三刻通知。

4)門番:第二次(名)——レオン・ダリを特定。公開聴取へ。

5)写字生組合:波形の相互写しを常設。

6)利益相反:後援会・外郭役員は冷却一年。


 拍を二度。往復の拍が王都から返る。拍は数では測れないが、橋の強度になる。


 会見を閉じ、午後は試行入札の準備に入った。ナナが入札箱に刻印を、オズが入札要領を板に、ルカが評価表を整え、アメリアが質問票の字を大きく。エドは門へ向かい、若い兵の肩を二度叩いた。叩く数は少ないほど効く。


 その最中、水晶が赤く光る。

《異常:王都広場の広告面に無届掲出(返礼文言)/掲出主:月桂友の会“再編団体”》

 私は即座に入札警告を出す。掲出権はまだ入札前、つまり面は公共。


《緊急運用》

 ・面の没収(公共面へ復帰)

・文言の写しを写字生が保存(二鍵一致)

・掲出主は入札参加資格停止(冷却一年)

・注記:砂糖衣は広告でも返礼でもない。分類が薬


 王都の枠で、バレンが肩を落としつつ頷く。『やれ』


 夕刻、王都から短い紙が届いた。顧問入札の要領承認。角に、幼い字。

《“顔は点にならない”が好きです。》

 私は端に小さく添える。

《注記:好きは偏り。偏りは設計で均す》


 領主館。机の波を紙で均し、決算を書く。


《本日の決算(詳細)》

 ・現場還元:入札箱 2/評価表 12/質問票 40

・公共:照明塔“ゆらぎ整合”板 1式/門の待ち参照灯 2

・積立:白風基金 +48.4

・運営:公会線端末メモリ参照固定更新

 ・注記:値付けは値打ちではない。参照が値を落ち着ける。


 窓の外、青硝子の灯りが一つ、また一つと入り、子どもたちが入札要領の長い言葉を真似て書く。長い言葉は眠くなる。だから、私は最後に短い板を貼った。


《次回予告》

 公開会見#7:門の待ち“性能連動”実装/門番記録・第三次〈手〉(漂白のみ)

 ・二択:「並びの呼吸同期」or「窓口の難易度分離」

 ・合言葉:“功績は共有、恥は分割。”


 扇でひと拍。拍は靴紐。結んだら、走れる。数字は短い。短い数字で柄を作り、刃を使う。柄のない刃は、政治だ。柄のある刃は、運用。

 運用は、面白い。塩の匂いがそう言っていた。

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