#16「公開会見#13——“最初の印”の名/来場熱量の拡張(市場と港)」
朝の湖は、白紙の上を乾いた筆で一度だけ撫でたように、細い光を置いていた。掲示板の合言葉は**「保留は欄干。拍は呼吸。」。水晶投影は三分割——王都広場の会見台、面管理控室の灰通路、そして市場と港の計測台。端にはいつもの二択投票**。
二択
A:“最初の印”の名の出し方(保護条件)
B:来場熱量の外延(市場・港への本拡張)
扇の骨を膝で一度。拍。場の呼吸が揃う。数字が置ける。
「証言は最後、数字は先に。本日は二本立て。欄外“仮→確”の“最初の印”の第二次〈名〉、そして来場熱量の市場・港への拡張ですわ」
ルカが白墨で大書する。
合言葉:名は刃、退路は柄。
A or B の前に“設計”を置く
《“最初の印”・保護設計(第二次〈名〉)》
1) 退路の先置き:灰通路を八間へ延長、二鍵一致(こちらの“今日の責任者”=ナナ/王都側=灰外套の老商人)
2) 静域の強化:音拍を半分に、半径六間→八間
3) 供述の相互写し:二名一組(写字生)で同時写し
4) 免責の枠:第一次(記録)以前の“設計のみ”は講座+配置換え、漂白への関与のみ第三次〈手〉
5) 注記:保留は欄干。迷いは罪ではない
第一次集計。
A(“最初の印”)57%/B(外延)43%。
「先に**“最初の印”**から」
“最初の印”——段階で名を置く
《根拠束(要点)》
・印面歯型:初期ロットにだけある位相ズレ0.12
・インク配合:王造局標準に煤の微量混入(夜間作業の即興)
・筆致:欄外“芽”印に似た“m”の三画目が長い癖
・接触ログ:写字生工房→王造局見習い室→月桂館控所の三点呼吸一致
「段階①(役割)——王造局・刻印工房の見習い〈当時〉/月桂館・記録補助〈現在〉」
灰通路の鍵が光り、二鍵一致。静域を八間へ。私は短く息を整え、扇を半分開く。
「段階②(氏名)——二鍵一致」
「ミーナ・モラン。——“最初の印”の設計者。退路は灰。供述は相互写しで」
人波の端で、小さなざわめき。ミーナは静域へ灰拍三つで入り、深く頭を下げた。頬は青いが、声は折れない。
『……夜勤で、保留の印が欲しかった。“仮だけでは揺れる、確だけでは硬い”。だから試しに**“仮→確”を一つの印**で作った。返礼に使われるとは思ってなかった』
「設計は道具。道具は柄次第。あなたの印は、保留を短くする便利だった。——第三次〈手〉は漂白だけ。あなたは漂白ではない」
写字生二人が相互写しを開始。はね/とめを合わせ、払いは各自の癖。一致率が板に出る。
《一致率 0.83→0.91(第二巡)》
数字は短い。短い上昇は信頼の段差を低くする。
ボーモン侯が扇を半分閉じて低く言う。『設計は刃だ。君は柄を付けたと言うが、顔は切れる』
「顔は退路で守ります。柄は二鍵一致と相互写し。——処遇は二択」
質問#1
Q1-1:ミーナの処遇(講座+配置換え/資格停止一年)
Q1-2:“仮→確”印(仮/保留/確の三択制で再設計/廃止)
集計。Q1-1:講座+配置換え 72%/Q1-2:三択制 81%。
「恥は分割、功績は共有。——講座+配置換え。印は三択制で再設計へ」
リュシエンヌが短く頷く。『短く布令を書け』
「十六字で」
《布令(印)》
仮・保留・確の三択。偽装は没収。漂白のみ手。
来場熱量の“外延”——市場と港
二択の第二回。
A(“最初の印”)46%/B(外延)54%。
「市場と港へ。——祭の拍は売買と潮に翻訳できます」
《来場熱量・拡張(市場)》
熱 = 灯り×足音×値段板の更新拍 × 風補正 − 同相減算
・値段板の更新拍:上げ・据え置き・下げを二拍記法で記録
・同相:呼び込み十人一組の同相は減算(歌は除外)
・在庫指標:積み上げ高さの影で補正(夕刻の誇張を是正)
《来場熱量・拡張(港)》
熱 = 灯り×足音×荷揚げの刻み × 潮位補正 × 風向補正 − 同相減算
・潮位補正:満潮±一刻で+、干潮±一刻で−
・荷揚げの刻み:クレーン鈎音の拍/縄の張力変動
・安全弁:白風時は熱の値付け停止(記録のみ)
「後払い補正は祝祭と同じ**±0.2**。短式で読めるから守れる」
初期値を走らせる。
《市場(午前中)》
・予測1,200/実測1,310/補正**+0.09**(値段板の“据え置き連打”が同相減算)
《港(上げ潮)》
・予測980/実測1,160/補正**+0.18**(荷揚げ刻みが安定)
ここで水晶が黄色。
《異常:市場“香草通り”で呼び込みの同相——笛一丁で十人が二拍で旋回》
私は即時に同相減算を適用し、板に短く添える。
《注記:合唱は歌、呼び込みは広告。歌は減算外、呼び込みは減算》
さらに赤。
《異常:港“南桟橋”にて荷札の後書き(入港前付け替え)》
筆致と歯型を照合。——二年度混在+“t”横画上がり(副官レオン系の古癖)だが、レオン本人は拘束されていない、再訓練中。
「第一次(記録)の追補。第二次は連結名で——退路を置いてから」
王都の枠でバレンが頷く。『束ね判定を港にも適用する』
「短い式は強い。——処遇は二択」
質問#2
Q2-1:呼び込み同相(上限人数の規格/完全自由)
Q2-2:港の後書き(写し→名の段階/即時停止+罰金)
集計。Q2-1:上限規格 66%/Q2-2:写し→名 61%。
「規格は争いの冷却水。写しが先、名は段階」
“面”の秩序と“名”の続き
会見台の端で、マティアス・クレマン(面管理主事)が短く手を挙げる。『印の三択、現場へ落とす。仮→保留→確で、保留に期限二刻』
「保留は欄干。長すぎると橋になる。二刻、よい設計です」
そこで、匿名の短い紙が水晶に滑る。
《“最初の印”の責任は、わたしにもある。夜勤を割り振ったのは監事補。——名は第二次で》
筆致は**“止め”が短い**、三画目長。ミーナとは別。私は即答する。
「退路を先に。灰を八間→十間。名は明朝」
結論(速報)
《本日の結論(速報)》
1)“最初の印”:ミーナ・モラン(設計)。講座+配置換え/印は三択制へ再設計。
2)布令(印):仮・保留・確の三択。偽装は没収。漂白のみ手。
3)来場熱量の外延:市場=値段板の更新拍追加/港=潮位・荷揚げ拍追加。同相減算は共通。
4)呼び込み:上限規格を採用(十人一組超は減算)。歌は減算外。
5)港の後書き:写し→名の段階で追補。束ね判定を適用。
6)注記:保留は遅延でなく安全弁。——短い式は強いし、優しい。
拍を二度。王都から返拍。拍は数になりづらいが、橋の揺れを吸う。
午後の運用
午後はすぐ実装。ナナが印運用票(仮/保留/確)を配り、オズが市場版・短式を一行に清書、ルカが港の束ね判定の欄を広げ、アメリアが**「歌は減算外」を大きな字で板に。子どもが拍棒を持って市場と港を走り、老人が影の伸びで潮**の時刻を示す。風はメトロノーム、影は時計。町はオーケストラ。指揮者はいらない。拍があればいい。
その最中、祝祭詩枠に小さな群れ。子どもたちが二拍で詩を読む。王都の財務官が水晶越しに微笑む。『無料が、強いのは妙だな』
「無料は誇りで味付けできますの。誇りは税率にかからない」
夕刻の短い紙
王家財務から短い紙。
《市場・港 拡張の試行 承認/“呼び込み上限規格”は十人一組》
角の幼い字。
《“保留”の札、青いのが好き。》
私は掲示板の端に添える。
《注記:好きは偏り。偏りは規格で均す。》
決算
《本日の決算(詳細)》
・現場還元:印運用票 300/市場・港 計測芯 12/拍棒 16
・公共:束ね判定板(港) 2/値段板・二拍差し替え 8
・積立:白風基金 +48.4(没収冷蔵袋の一部)
・運営:公会線端末に潮位補正・値段板拍のモジュール追加
・注記:設計は道具。道具は柄で性格が変わる。柄は参照と二鍵。
エドが窓辺で短く言う。「“監事補”の名、明日か」
「ええ。第二次。退路を先に。第三次(手)は——漂白だけ」
ナナが保留札に青い糸で拍点を縫い、ルカが市場の同相検知に星印を付け、オズが砂時計をひっくり返し、アメリアが湯にほんの少し塩を落とす。甘い。塩は正直。返礼みたいな余計な味はしない。
次回予告
《次回予告》
公開会見#14:欄外記号・第二次〈名〉——“監事補”/港“後書き”の連結名
・二択:「名の段階(保護鍵の条件)」or「市場・港 熱量の常設化(税率補正)」
・合言葉:“恥は分割、功績は共有。保留は欄干。”
扇でひと拍。拍は靴紐。結んだまま眠れば、朝すぐ走れる。数字は短い。短い数字で欄干を増やし、面を光らせ、潮を読む。柄のない刃は政治。柄のある刃は、運用。
運用は、今日もおいしかった。詩とパンと、すこし潮の匂いが、静かに肯定した。