#15「公開会見#12——欄外記号・第二次〈名〉/来場熱量・本実装」
朝の湖は静かな鏡で、昨日の詩の拍をうすく映していた。掲示板の合言葉は**「棚は入札、中身は無料。」。水晶投影は三分割——王都広場の会見台、祝祭面の来場計測台、そして“面管理”の控室。端には、いつもの二択投票**。
二択
A:名の連結(印面/筆致)
B:補正の常用化(式の短縮)
扇の骨で膝を一度。拍。場の呼吸が揃う。数字が置ける。
「証言は最後、数字は先に。本日は欄外記号・第二次〈名〉、“仮→確”の印を名に連結。合わせて来場熱量を本実装しますわ」
ルカが白墨で大書する。
合言葉:名は刃、退路は柄。
刻印札の抽選を済ませ、第一次集計。
A 60%/B 40%。
「先に名の連結から」
《“仮→確”印 根拠束(第二次用)》
・印面歯型:王造局標準と0.12の位相ズレ(偽印群に共通)
・筆致:欄外の止め跳ね角度 13°(±2)
・溶媒反応:照明塔の漂白溶媒と同系(微量)
・接触ログ:面管理主事控室⇄文化振興会監事室——拍の一致
「段階①(役割)の公開——“仮→確”印の運用係」
王都の空気が一段沈む。私は退路を先に置く。灰通路の鍵、二鍵一致。老商人とナナが鍵を合わせ、静域を六間に延ばす。
「段階②(氏名)——二鍵一致」
「ロール・セルパン。面管理・印運用係。——退路は灰、講座の受講権付与」
ロールは静域へ入り、顔を上げた。『……仮を確に押すのは、ただの事務だと思っていた。扇の人が来る日は、紙の色が少し濃いだけで』
「紙の濃さは恐れの色。恐れは数字にすると小さい。——供述は相互写しで」
写字生組合が板を立て、二名一組で読みと写しが始まる。はねととめを合わせ、払いは各自の癖のまま。癖が違うほど、合っている部分が浮き上がる。
ここで、水晶の端が赤く点滅。
《異常:偽印の再押試行》
場所は“面管理”の控室、印箱の底板。私は即座に二鍵一致のカメラを呼び出し、印面歯型と指塩スペクトルを重ねる。——ロールではない。角砂糖の粉の痕。べニエ。
「第二次(名)へ。偽印を隠した手の役割を先に」
《偽印・隠匿——根拠束》
・砂糖粉(べニエ粉)と扇香の微量付着
・足音の拍:一拍割り
・接触ログ:べニエ会(失格済)控所⇄面管理
「段階①(役割):“再編団体”実行係(補助)」
ざわめく会見台。私は保護鍵を回し、退路を先に置く。
「段階②(氏名)——二鍵一致」
「マルセル・ドロワ。——呼出+講座。第三次(手)は漂白のみ。あなたは偽装、漂白ではない」
マルセルの肩が落ちる。『……面を押さえれば顔が並ぶ。そう言われた。面は名を並べる棚だと』
「名は刃。棚に刃は並べません。名は参照の端へ、小さく。面は入札、名は規格」
名の連結を終える間に、第二の二択。
A(名の連結)49%/B(補正の常用化)51%。
「次、来場熱量の本実装へ」
《来場熱量・本実装(短式)》
熱 = 灯り×足音×時間補正×風補正 − 同相減算
・灯り:青硝子の振幅→密度
・足音:二拍=前進の通過量
・時間:影の伸びで補正
・風:風の刻みで補正
・同相:十人以上の拍一致を減算(広告の盛り上げは可)
「後払い補正は**±0.2**の枠で。式をさらに短くします」
《補正率(常用)》
補 = 1 + clamp(Δ熱, −0.2, +0.2)、Δ熱=実測−予測(同相除)
王都の財務官が頷く。『短いから読める。読めるから守れる』
私はうなずき、王家布令(改)案を十六字で示す。
《王家布令(来場)》
熱は灯足影風。同相は減算。補正は短式。
そのとき、計測台から黄色の光。
《異常:詩枠前で子ども合唱が同相検知閾に接近》
私は微笑して板に短く添える。
《注記:歌は歌。広告は競。詩枠は歌——減算対象外》
分類が、争いを減らす。分類は短い方がいい。
実装の初期値が走る。
《来場熱量(本実装・初期)》
・噴水(詩枠):予測880/実測1,060/補正**+0.18**
・外周(灯台工):予測1,400/実測1,360/補正**−0.03**
・正門(港パン):予測1,150/実測1,170/補正**+0.02**
淡々。淡々は、強い。
ここで、証言へ。ロール・セルパンが静域で口を開く。
『“仮”の印は、寄付が来ると確にする決まりだった。“寄付”が匿名でも……私は確にした。返礼だとは、思いたくなかった』
「思いは思想、運用は設計。——匿名は公開匿名/職務匿名のみ。偽装匿名は没収。あなたの印は返礼に付いた。再訓練で**“仮→保留→確”の三択**を覚え直して」
王都の枠で監査室長バレンが短く頷く。『三択に改める』
次長リュシエンヌが付け加える。『短く書け』
「短く」
《面配分 印運用(改)》
仮/保留/確(匿名は保留。偽装は没収)
そのとき、水晶の端が赤。
《異常:祝祭支援連盟の倉から**“冷蔵袋”の移送試行(“詩枠”へ流入意図)》
私は即時に歯型と袋口糸を照合、二年度混在。返礼冷蔵確定。
「第三次(手)は漂白のみ。これは返礼の冷蔵**。——没収して安定化へ」
王都側が「承認」と短く返す。短い承認は、良い。
私は二択をもう一度掲げた。
質問#1
Q1-1:“仮→確”印の過去分(一次:写し/二次:名の順で追補)
Q1-2:来場熱量の本実装(即日全面/祝祭面のみ)
集計。Q1-1:一次→二次 65%、Q1-2:祝祭面のみ 58%。
「過去分は第一次(写し)から段階で。本実装はまず祝祭面に限定、周辺面は来週へ」
エドが門の方を見やり、短く言う。「門の待ちへの拍は維持か」
「維持。性能連動の参照は今日のまま」
ここで、控室の背後で氷のような小さな音。灰通路の鍵座だ。
《匿名:“仮→確”の印は、わたしが最初に作った。名前は第二次で》
筆致は“m”の三画目が長い**——“芽”の線と近い。ただし端の止めが短い。私は返す。
《退路を先に。灰を六間→八間。第二次は明朝》
退路は安全弁。弁がある鍋は、爆ぜない。
午後、来場熱量の板を常設に掛け替える。ナナが計測芯を交換し、オズが式を一行に削り、ルカが同相検知の警告印を角に、アメリアが「詩枠は歌——減算外」を大きく。子どもが拍棒を持って走り、老人が影を指でなぞる。風はメトロノーム。影は時計。町はオーケストラ。指揮者は要らない。拍があれば充分。
その最中、水晶が黄色に明滅。
《王家財務:来場熱量・短式を王都全域へ来週試行》
角に、小さな幼い字。
《“仮→保留→確”、おぼえた。》
私は端に短く添える。
《注記:保留は卑怯ではない。保留は秩序の呼吸。》
会見を締める時間。私は結論を貼る。
《本日の結論(速報)》
1)欄外記号・第二次〈名〉:ロール・セルパン(印運用)/マルセル・ドロワ(偽印隠匿)。講座+公開補助/呼出。
2)偽印:没収→写し→安定化。印運用は仮/保留/確の三択へ改定。
3)来場熱量・本実装:祝祭面で即日稼働。短式補正(±0.2)、同相減算。
4)詩枠:歌=減算外を明文化。後払い補正も適用。
5)過去分:第一次(写し)→第二次(名)で追補。
6)注記:保留は遅延ではない。保留は欄干。
拍を二度。王都から返拍。拍は、橋の揺れを吸う。
領主館に戻り、机の波を紙で均し、決算を書く。
《本日の決算(詳細)》
・現場還元:計測芯 8/警告印板 6/詩枠棒 10
・公共:印運用票(仮/保留/確) 200/相互写し台の芯 3
・積立:白風基金 +48.4(冷蔵袋没収の一部)
・運営:公会線端末の短式補正モジュール常設
・注記:短い式は強い。強いのに、柔らかい。柔らかいから、争いを減らす。
窓の外では、学童詩枠の板を子どもが二拍で読み、老人がはねを直す。王都の子が水晶越しに払いを褒める。褒めは無料。無料は、強い。
エドが静かに尋ねる。「“最初の印”の名、明日か」
「ええ。第二次。——退路を先に。**第三次(手)**は、漂白だけ」
私は最後に、明日の板を貼った。
《次回予告》
公開会見#13:欄外記号・第二次〈名〉——“最初の印”/来場熱量・祝祭外の本拡張
・二択:「“最初の印”の名の出し方(保護条件)」or「熱量の外延(市場・港)」
・合言葉:“保留は欄干。拍は呼吸。”
扇でひと拍。拍は靴紐。結んだまま眠れば、朝すぐに走れる。数字は短い。短い数字で欄干を増やし、棚をまっすぐにし、名に柄を付ける。柄のない刃は政治。柄のある刃は運用。
運用は、今夜も少し、おいしい。詩とパンと塩の匂いが、やさしく肯定した。