#14「公開会見#11——祝祭・入札の開札/第三層〈名〉の残り、“面を押さえる手”」
朝の湖は、薄い雲のベールを一枚まとっていた。光はやわらかいが、輪郭は甘やかさない。掲示板の合言葉は**「面は場所、期間は呼吸。」。水晶投影は三分割——王都広場の会見台、祝祭委員の開札室、そして“祝祭面”の実測図。端にはいつもの二択投票**。
二択
A:来場熱量の測り方(試行の参照線)
B:第三層〈名〉の段階(残りの役割→氏名)
扇の骨を膝で一度。拍。場の呼吸が揃う。数字が置ける。
「証言は最後、数字は先に。本日は開札と、**第三層〈名〉**の残り。“面を押さえる手”を短く切り分けます」
ルカが白墨で大書する。
合言葉:名は刃、退路は柄。
刻印札の抽選が終わり、二択の第一次集計が上がる。
A 55%/B 45%。
「先に来場熱量の参照線から」
《来場熱量:試行版 参照束》
1)灯りの微振動(青硝子)→人の密度
2)足音の拍→通過量(二拍=前進)
3)影の伸び→時刻補正
4)風の刻み→天候補正
5)重なり検知→雇われ人流の“同相化”を分離(拍が揃いすぎは異常)
「盛り上げ要員は否定しません。広告ですから。ただし拍を揃えすぎると異常として補正。——自然は嘘が下手」
王都の開札室に切り替える。木箱に封蝋の封筒がずらり。財務局の若い官吏が深呼吸をして会釈した。『二封筒方式、開けます。意匠点→価格点の順』
私は短く拍を置く。ナナが面の実測図を掲げ、オズが規格を二行に短く読み上げ、アメリアが返礼文言禁止をもう一度大声で確認。子どもが来場棒を抱えて走り、老人が影の伸びを指でなぞる。影は時計。町は拍で動く。
《開札(抜粋)》
・噴水面・前七日:「学童詩枠」(価格点0/意匠点満点)→採択
・王城外周・後七日:パン職人組合(意匠:小麦の風)/価格:適正→採択
・学園正門・当日:“再編団体”傘下 べニエ会——意匠点高/価格異様に低/資格停止に抵触→失格
・外周・前七日:港の灯台工(意匠:青い拍)→採択
拍が小さく弾ける。パンの香りが漂った気がしたのは、気のせいではない。数字は時々、匂いを連れてくる。
ここで、水晶の端が黄色に瞬く。
《異常:噴水面で雇われ人流の同相化(十人一組が同じ二拍で旋回)》
私はすぐ重なり検知を上げ、来場熱量から異常分を減算。
「盛り上げは可、同相は減算。——拍は自由の総量ですわ」
王都の枠で、監査室長バレンが頷く。『後払い補正、この指標で行ける』
次長リュシエンヌが短く付け加える。『短く書け』
《後払い補正・式(試行)》
補正率 = 1 + clamp(実測熱量 − 予測熱量, −0.2, +0.2)(異常同相は除外)
開札は続く。学童詩枠の原稿が水晶にふわりと載り、広場の端から小さな歓声。詩は無料。無料は、強い。
二択の第二回。
A(来場熱量)47%/B(第三層〈名〉)53%。
「では第三層〈名〉の残り、“面を押さえる手”。——**段階①(役割)**を先に」
《“面を押さえる手”——根拠束(簡)》
・予約簿の欄外に同じ**“止め跳ね”**
・掲出面の面積配分が返礼冷蔵の袋の動きと同期
・足音:一拍割り(灰通路未遂系)
・扇香の微量付着(鍵座と一致)
「段階①:祝祭支援連盟・面管理主事」
ざわめき。私は保護鍵を回し、灰通路を先に開ける。静域は六間。二鍵一致、良し。
「段階②(氏名)——二鍵一致」
「マティアス・クレマン。面管理主事。退路は灰。講座の受講権も同時付与」
マティアスは静域へ入り、顔を上げた。『……面を押さえておけば、顔が並び、寄付が来る。そう教わった。面は誇りの棚だと』
「誇りは値札じゃありません。面は公共。入札で棚を作り、拍で満たす。——処遇は二択」
質問#1
Q1-1:マティアス(入札講座+公開補助/資格停止一年)
Q1-2:欄外記号(第一次:記録に止める/第二次:名を連結)
集計。Q1-1:講座+補助 63%/Q1-2:第二次へ 57%。
「欄外は記号でも言語です。第二次で名を連結。——ただし退路を先に」
ここで、開札室から短い報。
《学園正門・後七日——王都印刷工組合と沿岸詩会の共同提案が繰上》
私はうなずき、板に短く添える。
《功績は共有、恥は分割。共同は強い。》
開札を締める前に、来場熱量の途中値を出す。
《来場熱量(中間)/噴水面》
・予測:880
・実測:1,020(同相除外後)
・補正:+0.16(後払い)
《外周》
・予測:1,400
・実測:1,310(風強の補正)
・補正:−0.06
「風が強い日は、熱量が下がります。風は無料。無料は、強いが、冷たい」
王都の枠で財務官が小声で笑う。『詩枠、評判がいい』
「評判は数字にしにくい。だから拍で見るのですわ」
証言の時間を宣言する。最初にマティアス。
『面配分の裏帳は、アドリアンの企画書から降りてきた。わたしは欄外で止め跳ねを付け、面積を仮と確に分けた。“仮”は寄付が来たら確へ。匿名でも』
「匿名は公開匿名か職務匿名のみ。偽装匿名は没収。——裏帳は第一次:写しへ」
次に、祝祭委員の書記。
『駆け込みは、面を押さえるための呼吸合わせだった。拍を揃えれば熱量が上がると……』
「同相は減算。合唱は歌、広告は競。混ぜない」
開札は一気に終章へ。私は結論の板を貼る。
《本日の結論(速報)》
1)来場熱量:灯り・足音・影・風で参照束確定。同相は減算。
2)開札:学童詩枠採択/再編団体系は失格/共同提案を推奨。
3)第三層〈名〉(残り):マティアス・クレマン(面管理主事)—講座+公開補助。
4)欄外記号:第二次で名を連結(退路先置き)。
5)後払い補正:実測−予測の短式を採用(±0.2の枠)。
6)注記:面は棚、拍は中身。棚は入札、中身は無料。
拍を二度。王都から返拍。拍は、橋の揺れを吸う。
会見を閉じると同時に、学童詩枠の板が広場に立った。子どもたちが“二拍で読む”を試し、老人がはねを直し、王都の子が水晶越しに払いを褒める。褒めは無料。無料は、強い。
午後は後払い補正の実装。ナナが参照灯の芯を替え、オズが式を板に清書し、ルカが評価表に同相検知欄を増やし、アメリアが規格をさらに短く。「長いと眠くなる」。エドは面の角で邪魔する手を遠くから見張る。近視眼の熱は、距離で冷める。
その最中、水晶が赤く点いた。
《異常:面管理主事の控室にて、未登録の“仮→確”印を押す試行》
私は二鍵一致のログを呼び出し、印面の歯型と溶媒反応を照合する。——一致せず。偽印。
「第三次〈手〉は漂白だけ。これは偽装。——講座と公開補助を停止、再試験へ」
王都の枠でリュシエンヌが短く言う。『短く処置』
「短く。——偽印は没収、台帳に写し」
夕刻、後払い補正の第一回が走る。噴水面の詩枠は**+0.14**、外周の灯台工は**+0.05**、正門の港パンは**±0.00**。数字は淡々。淡々は、強い。
王家財務から短い紙が届いた。
《祝祭・入札 開札結果 承認/後払い補正 試行続行》
角の幼い字。
《詩、二拍で読んだ。すき。》
私は端に添える。
《注記:好きは偏り。偏りは拍で均す。》
領主館に戻り、机の波を紙で均し、今日の決算を書く。
《本日の決算(詳細)》
・現場還元:来場棒 10/詩枠板 3/参照灯芯 6
・公共:開札箱 2/後払い補正の算盤 1式
・積立:白風基金 +48.4(補正差の端数は未計上)
・運営:公会線端末に同相検知・束ね判定の連携
・注記:揃いすぎは不安の影。わずかなズレが、群れを群れにする。
エドが窓辺で短く言う。「第二次(名)の欄外記号、明日か」
「ええ。段階で。退路は先に。第三次(手)は——漂白だけ」
ナナが詩枠に青い糸で拍点を縫い、ルカが共同提案の表に星印をつける。オズが砂時計をひっくり返し、アメリアが湯にすこしの塩を落とす。甘い。塩は正直。返礼みたいな余計な味はしない。
最後に、明日の板を貼る。
《次回予告》
公開会見#12:欄外記号・第二次〈名〉——“仮→確”の印/来場熱量・本実装
・二択:「名の連結(印面/筆致)」or「補正の常用化(式の短縮)」
・合言葉:“棚は入札、中身は無料。”
扇でひと拍。拍は靴紐。結んだまま眠れば、朝すぐに走れる。数字は短い。短い数字で面に秩序を、拍に自由を、名に柄を。柄のない刃は政治。柄のある刃は運用。
運用は、明日もたぶん、おいしい。パンの匂いが、静かに肯定した。