#12「公開会見#9——“芽”と“扇”の名/灰通路封鎖未遂」
朝の湖は薄い錫板みたいに光り、風は控えめで、拍を刻むにはちょうどいい。掲示板の合言葉は**「怒りは板へ、拳は灯りの外へ。」。水晶投影は三分割——王都広場の会見台、“月桂館”地下の青封庫、そして灰通路の鍵座。端には、いつもの二択投票**。
二択
A:名の出し方(段階/保護条件)
B:地下会計・第二層(口座の連結)
扇の骨を膝で一度。拍。呼吸が揃う。数字が置ける。
「証言は最後、数字は先に。本日は、第二次〈名〉です。——“芽”と“扇”、そして灰通路封鎖未遂の“名”。名は短く、退路は確実に」
ルカが白墨で枠を書き、上に**“名の出し方=段階×保護鍵”**と添える。段階がない“名指し”は、刃に柄がない。
《第二次〈名〉——段階設計(短式)》
1)名の短化:肩書き→役割→氏名の順で段階公開
2)保護鍵:公開のたび二鍵一致(“今日の責任者”+王都側責任者)
3)退路:灰通路の事前確保(静域の延長三間)
4)相互写し:名に添える根拠は写し済(筆致・歯型・接触ログ)
5)注記:第一次は記録済/第三次は手(漂白のみ)
第一次集計。
A(名の出し方)62%/B(第二層)38%。
「先に名の段階から。——王都側の“今日の責任者”」
灰外套の老商人が杖を鳴らして一歩。『きょうもわしだ。字は下手だが、はねととめは見える』
「ありがとうございます。ソルトヘイヴン側はナナ。——二鍵一致、良し」
私は**“芽”**から始める。板に小さく芽の印を描き、横に数字を載せる。
《“芽”印——根拠束》
・筆致の呼吸:0.89一致(欄外記号/端の止め)
・歯型混在:S刻+L刻袋の伝票に同一筆圧
・接触ログ:月桂館・部屋付きの出入時刻と一致
・匿名線:**“退路を先に”**の応答受理(灰通路の鍵予約)
「段階①(役割)の公開——“月桂館・部屋付き”」
ざわめき。王都広場の空気が一段、下がる。私は扇を半分だけ開き、静域の拍を落とす。
「段階②(氏名)へ——二鍵一致」
老商人とナナが鍵を合わせ、枠がわずかに光る。私は短く読み上げた。
「イザベル・トーン。月桂館・部屋付き。——退路は灰通路に用意済」
人波の端で、扇の影が小さく震えた。イザベルは前へ一歩出て、灰拍三つに合わせて静域へ入る。顔色は良くないが、足は真っ直ぐだ。
『……“芽”は私です。匿名の帳に目印を付けました。返礼冷蔵の袋が戻るのを、見えるように』
「第二次は名。第三次は手——漂白のみ。あなたの行為は可視化。漂白ではない。保護の条件は、供述の写しを二名一組で残すこと」
イザベルが頷き、相互写し台の前で口述を始める。相方は写字生組合の若者。呼吸を合わせ、誤りを即時に報で直す。罰ではない。報は膨らむ。
私はもう一方の板へ移る。**“扇”**である。
《“扇”——根拠束》
・贈与ログ:金箔の蔓杖扇の移転(“再編団体”→門副官→後援席返送)
・広告面の無届掲出と同一意匠
・扇骨刻印:王造局の微刻に上塗り痕(溶媒反応)
・接触ログ:ボーモン侯周辺の控室に三度
「段階①(役割)——後援会会計補佐」
ざわめきが波打ち、王都の空で扇が一つ止まる。
「段階②(氏名)——二鍵一致」
鍵が光る。
「カミーユ・ドレ。後援会会計補佐。扇の移転記録に署名」
カミーユは扇を閉じたまま、青拍二つで静域へ入る。『……移した。返礼の道具として。匿名に混ぜれば冷えると、そう思っていた』
「冷蔵は保存ではなく、誤魔化し。——返礼は投資へ分ける。寄付には返礼ゼロ。二択で問います」
質問#1
Q1-1:カミーユの処遇(会計再訓練+公開補助/資格停止一年)
Q1-2:扇の扱い(広告入札へ没価転用/安定化へ没収)
集計は速い。Q1-1:再訓練 64%、Q1-2:安定化 57%。
「会計をやり直すことで返礼を返済。扇は安定化へ」
王都前列でボーモン侯が扇を半分開き、低く言う。『彼女は命じられた』
「第一次は記録で見ました。——命令の名は、第二次の後半へ」
ここで、灰通路の鍵座が赤く点滅した。封鎖未遂の“名”だ。私は短く表示する。
《灰通路封鎖未遂——根拠束》
・鍵座に触れた指の塩粒スペクトル(扇香の揮発痕同定)
・足音の拍(灰通路沿いの二拍を一拍で割る癖)
・資格停止“再編団体”の徽章糸(青封に付着)
→ 段階①(役割):“再編団体”実行係
→ 段階②(氏名)(二鍵一致):ジュール・サンティ(掲出無届で停止中)
王都広場で、細身の男が顔を引きつらせ、灰拍三つの外側で止まる。私は静かに言う。
「第三次は漂白のみ。あなたは封鎖未遂。名は出す。手は落とさない。——二択で処遇」
質問#2
Q2-1:灰通路違反(呼出+講座/資格停止延長)
Q2-2:再編団体(冷却一年/解体第二次へ即進)
Q2-1:呼出+講座 55%、Q2-2:解体第二次 61%。
「団体は名の連結へ進めます。人には退路と講座を。——逃げ道を作ったのは、怒りではなく続けるため」
ここで、二択の第二回。
A(名の出し方)49%/B(第二層)51%。僅差で第二層。私は板を切り替える。
《地下会計・第二層(口座連結)》
・外郭口座:友の会→文化振興会→研究会の三層連結
・ハブ:“月桂館修繕費”名目の中継財布(実在せず)
・歯型:二年度混在が連鎖(袋単位で家系図)
・参照:門の待ち短縮の山が寄付直後に立つ(2σ超)
「ハブは名前だけの部屋。中継財布は空気。——空気は余白、余白は嘘の巣」
私は連結図の上に二択を重ねる。
質問#3
Q3-1:ハブの扱い(即時閉鎖/猶予三日で台帳移送)
Q3-2:外郭三層(第二次:名へ一括進行/第一層から段階)
集計。Q3-1:猶予三日 60%、Q3-2:段階 57%。
「猶予は秩序の安全弁。段階は欄干。——三日で台帳移送、第一層から名」
その時、水晶の端に短い線。匿名。
《“芽”は二人でした。もう一人は写字生上がり。保護を》
私は即答する。
「保護鍵——灰通路を延長、静域を六間に。退路が先」
王都の枠で監査室長バレンが低く頷いた。『第二層の連結は監査院がやる。理由は公開する』
次長リュシエンヌが短く付け足す。『短く、だ』
「十六字で」
《監査告知(案)》
外郭三層は段階で名。台帳移送は三日。理由は公開。
結論を貼る。
《本日の結論(速報)》
1)“芽”:イザベル・トーン(部屋付き)。名公開/退路確保/供述の相互写し受理。
2)“扇”:カミーユ・ドレ(会計補佐)。再訓練+公開補助/扇は安定化へ没収。
3)灰通路封鎖未遂:ジュール・サンティ。呼出+講座/団体は解体の第二次へ。
4)地下会計・第二層:ハブは三日猶予で台帳移送/第一層から段階で名。
5)保護鍵:静域を六間へ一時拡張/灰通路の二鍵を強化。
6)注記:名は刃。柄は退路。——柄なしの刃は使わない。
拍を二度。王都から返拍。拍は、橋の揺れを吸う。
会見を閉じると同時に、地下の相互写しが進む。一致率が少しずつ上がる。
《一致率:0.81→0.86(第三巡)》
数字は短い。短い上昇は、信頼の段差を低くする。
午後は運用の手当。ナナが静域布を縫い足し、オズが案内板の文をさらに短く、アメリアが質問票の字をさらに大きく。ルカは外郭口座の連結図を見やすい階段にし、エドは灰通路に立って、必要なときだけ杖で石を二度叩く。叩く数は少ないほど効く。
その最中、水晶が赤く光る。
《異常:王都祝祭委員の口座に**“中継財布”からの駆け込み入金**》
私は即時に冷却フラグを立てる。
《緊急運用》
・三日猶予の範囲外入金→一時凍結
・返礼兆候監視を強(処理時間2σ監視)
・注記:駆け込みは確認の兄弟。兄弟は並べて座らせる
王都の財務官が頷く。『凍結、承認』
夕刻、王家財務局から短い紙。
《外郭第一層・名の公開:“月桂友の会”理事 ラウル・グレイス 他二名。——第二層は明日》
角に幼い字の付箋。
《名前は刃だけど、灰の道があれば握れる。》
私は端に小さく書き添える。
《注記:握る手が震えるとき、拍で支える。》
領主館へ戻り、机の波を紙で均し、決算を書く。
《本日の決算(詳細)》
・現場還元:静域布+灰・青のリボン 60尋/相互写し台の芯 2
・公共:台帳移送の封筒(青封)80/保護鍵座の補強
・積立:白風基金 +48.4(扇没価・凍結利息の没価分)
・運営:公会線端末の名段階UI更新
・注記:名を出す日は、退路を先に。退路は逃げではなく、秩序の安全弁。
エドが窓辺で、青い灯りをひとつ指差す。「明日、第二層に入る」
「ええ。段階で。第三次(手)は——漂白だけ」
ナナが青封の余りで小さな芽の栞を作り、子どもがそこに“返礼ゼロ”と書く。老人がはねを直し、王都の子が水晶越しに払いを褒める。褒めは無料。無料は、強い。
最後に、明日の板。
《次回予告》
公開会見#10:外郭・第二層〈名〉——“中継財布”の連結/祝祭委員口座の凍結審問
・二択:「名の段階の続き(第二層→第三層)」or「祝祭の広告入札(面×期間)」
・合言葉:“名は刃、退路は柄。”
扇でひと拍。拍は靴紐。結んで眠れば、朝すぐに走れる。数字は短い。短い数字で欄干と退路を作り、名を正確に置く。置き場所が正しければ、刃は人を傷つけず、仕組みを切り分ける。塩の匂いが、薄く、賛成した。