アイドルの素性
僕には幼馴染がいる。
「みんな〜今日も私のライブに来てくれてありがと〜!!」
そう声を上げたのは愛坂七海
老若男女全ての人に愛される国民的アイドルである。
「きゃゃぁぁ!!!」
「最高ぉぉぉぉ!!」
「七海ちゃーん!今日もかわいいよー!」
彼女が声を発するたびに会場が大いに盛り上がる。
その様子からも彼女がどれほど人気なのかは分かるだろう。
そんな僕も彼女の事が好きな人間の1人である。
そんな彼女には口外できない秘密が存在するのだ…
「ただいま〜!」
「いや隣に住んでるんだよね君?」
「別にいいじゃん蒼くんに会いたかったんだもん!」
「そっかー会いたかったのか、じゃあいいか…」
いやいや普通に考えたら良くないよな…、自分の推しであり好きな人が自分の家にいるのに平常心で入れるわけがないよな…
そんな僕は今、親元を離れて一人暮らしをしている。幼馴染の七海は僕の家の隣に住んでいる、いわば隣人である。
僕は一人暮らしを通して人として成長したいと思い地元を出て東京に越してきたのだがいつの間にか隣には彼女がいた。
しかも何故かこのように僕の部屋に入り浸っている。
彼女にはもう一つ、口外できない裏面が存在する。
「まぁそんな事よりライブおつかれさま!今日も最高だったよ」
僕も1人のオタクなのでまずは彼女に感謝を伝えねばならない。
「ありがとう蒼くん!今日もかっこいいね♡大好きだよ♡」
「あは、ありがと」
見ての通り彼女は僕に対する愛がとてつもなく重いのだ。
もちろん僕も七海の方が好きなので悪い気はしないが、その重すぎる愛に少々手を焼くこともある。
「ていうか蒼くんは夜ご飯食べた?」
「あぁ食べたよ」
今はもう7時をすぎて流石にお腹が空いたので自分で作って食べた。
「自分で作ったの!?」
「あぁ、自分で作ったよ」
「ダメでしょ??私が作ってあげるの!」
どうやら僕には自分で作って食べる自由すらないらしい。
「ご、ごめんね?」
「さすがにお腹が空いて我慢できなかったんだよ…」
これ僕悪くないよね、絶対に悪くないのになんで謝ってるんだろうか…
「まぁ今日は許してあげる、これからはお腹が空いたらすぐに連絡してね、飛んでくるから」
ちょろい、あまりにもちょろすぎるぞこの娘。
本当に心配になるレベルである。
そうこうして僕はお風呂に入ろうと浴室に向かう。
「あの七海さん?なんで後ろをついてくるんですか?」
七海が何食わぬ顔で後ろをついてきている
「なんでって?私が背中流してあげようかなって」
もうここまでくるとお世話というかもはや介護かもしれない。
僕はまだそんな歳ではないんですけど…
「お風呂くらい1人で入れるんですけど…」
「えぇ、ざんねん…」
そんなに残念がられるとこっちも罪悪感が…って湧くわけないでしょ!普通に考えて年頃の男子が女子とお風呂に入るなんておかしいよね!?
「てなわけでお引き取り願いましょうか…」
「ふん」
顔をぷいってして部屋に戻って行った。
「普通にしてたら可愛いんだけどなぁ」
今の七海が可愛くないって言ってるような言い方だけど別にそんな事はない。
僕は普通の恋愛がしたいのだ。