緑の腕輪
友人に贈る小説
『人妻に恋をする男と絶対に振り向かない人妻』です。
『聞いてくださいよ、いやね誰かに話したい気分なんです。意気地なしで情けないくたびれ男の愚痴だと思って聞いてくださいや、旦那。
好きな方がいたんですよ。その方はねぇ本当にお綺麗で、いつまでもお綺麗で、つるりとした緑の肌がピカピカひかるお人でした。
いつも茶色い、ゴツゴツした老爺の木に巻き付いていてね、ああそいつを旦那と呼んでいましたね。柔らかくて少し低い声で、甘く囁くような、木の葉のこすれるように話す方でした。
でもねぇ巻き付いた木は大木とはいえ老爺だったもんだから、先日の落雷もあっておっちんじまったんですよ。あの人はほら、誰かに巻き付いてなきゃ生きていけない御方だから。困るじゃあないですか。
だから俺は言ったんですよ。
俺といっしょに行きましょう、俺が貴女を生かしますからって。
だのに……ああ、あの女。あの女は、あんな老爺に操を立てて……あの女!この俺が!こんなにも丁重に丁重にお願いしたというのに!断りやがりましてね。
そいでそのまま、折れた大木に巻き付いたまま、この間ひっそり──枯れてしまいやがりましたよ。
……はは、すみませんついつい熱くなってしまって。
ところで旦那、暖かいでしょうこの焚き火。
老爺の木をね、斬って、よぉくよぉく乾かしたらよく燃えるんでさ。ははは、ああ、よく燃える。こんなに燃えるなら、あの女をさっさと引っぺがして燃やしてしまえば良かったなぁ──』
長い長い話を吐き出すようにした男の腕には、木の腕輪が光っていた。
それはとても美しい緑色で、たおやかな女の顔が焚き火に照らされてピカピカと──光っていた。