EP8.自称「天才」
遺跡の外は爽やかな風が吹いており、太陽が燦々と大地を照らしていた。
見渡す限りの緑と荒地が広がる開放的な空間だ。
「ワシが勝ったら有り金を全部渡すのじゃ。それでよかろう?」
トルティヤは青年に尋ねる。
「いいだろう…!」
青年はそう呟くと、迷わず杖を構える。
彼の顔には自信が浮かんでいた。
風が一瞬強くなる。
それが二人の勝負の合図だった。
「俺から行くぜ!深淵魔法-黒の奇術-!」
青年の杖から闇が凝縮され、歪な形をした黒い鳩が数羽、トルティヤめがけて凄まじい速さで飛来する。
「ただの手品じゃな。火魔法-神聖なる煌鳥-!」
トルティヤは相手の出方を伺うと言わんばかりに、指先に魔力を集め、燃え盛る火の鳥を数羽、黒い鳩に向けて放つ。
「ボボン!」
火魔法と闇魔法が空中でぶつかり、小規模の爆発が起きる。
「これで終わらんぞ!土魔法-大地の大巨人-」
トルティヤが魔法を唱えると、足元の地面がゴゴゴと重厚な音を立てて盛り上がり、巨大なゴーレムへと形を変えた。
「その生意気な小僧をひねりつぶすのじゃ」
トルティヤはゴーレムに命令を下すと、ゴーレムはゆっくりと片足をあげた。
「へぇ…アンタも複数魔法使用者ってわけね。面白い…!」
青年はニヤリと笑うと、トルティヤが複数魔法使用者であることに気づき、興味を示す。
複数魔法使用者。
通常、生物は魔法属性を1つしか持って生まれないが、ごくたまに2種類以上の魔法属性を持って生まれてくることがある。
その者らは複数魔法使用者と呼ばれ、一種の才能として世間から認知されている。
そして、青年は、次の魔法を素早く繰り出す。
「閃光魔法-光鉱の護幕-!」
青年の頭上に光り輝く鉱石でできたカーテンが猛烈な速さで出現する。
「からの…深淵魔法-黒針-!」
そして、カーテンの上に闇で象られた鋭い棘が無数に生えた。
「…」
ゴーレムの勢いが止まらず、そのまま棘が生えた壁を踏みつける。
だが、それはゴーレムの力を利用したカウンターとなり、壁の棘が突き刺さり、そのままゴーレムの足を粉々に破壊した。
ゴゴーッと土砂が崩れる音が響き、ゴーレムは塵となった。
「ほう…ガキのくせにやるではないか。お主、名前は?死ぬ前に聞いといてやる」
トルティヤは小馬鹿にするように拍手をすると、青年の名前を尋ねた。
「ガキって…お前が言うなよ。まぁいい、俺はクロウリー…クロウリー・シェルクロム!天才魔導師様だぜ!」
偉そうに腕組をしながら、クロウリーと名乗った青年が叫ぶように呟いた。
「て、天才…ぷぷぷ…」
だが、それを聞いたトルティヤは肩を震わせ、笑いを我慢している。
「な、なにがおかしいんだ!?」
クロウリーは顔を赤くしてトルティヤに尋ねる。
「天才…じゃと。アッハハハ!ワシに向かって…アッハハハハハ…!笑いが止まらぬわい!」
トルティヤはクロウリーを指さして大爆笑する。