EP2.知ってる?
サージャス公国 パムにある、木造の宿。
店内は、旅人たちのざわめきと、肉が焼ける香ばしい匂い、そして時折響く陽気な笑い声で満ちていた。
「ダイオウ豆のスープパスタお待ちどうです」
恰幅の良いドワーフの男性が、深緑色の熱いスープがたっぷりと注がれた料理を運んでくる。
「待っておった!これじゃ!これ」
トルティヤは待ちわびたと言わんばかりに、湯気で少し潤んだその料理に目を輝かせる。
それは、鮮やかな緑色のスープに、つるりとした黄色い麺が泳ぐように入った麺料理だった。
中には、翡翠色の唐辛子が丸々一本、湯気を吸ってほくほくとした丸くカットされた芋、そして香ばしい匂いを放つ何かのモンスターの肉がゴロッと鎮座していた。
「食べるのじゃ!」
トルティヤはにんまりと笑みを見せると、フォークを取り、湯気を纏う麺を掬い上げる。
そして、ふーふーと息を吹きかけ、そのまま口に入れる。
「んー!やっぱ、サージャスのダイオウ豆のスープパスタは絶品じゃのぉ!」
トルティヤは目を閉じ、満足そうに頬を緩ませる。
口内にダイオウ豆の濃厚で風味豊かな味が広がり、舌の上でとろけるようだ。
そして、同時に清涼感のあるスパイスの風味が鼻腔を突き抜ける。
「この麺も…もちもちしてたまらん」
トルティヤは至福の表情で麺を咀嚼する。
その時、隣の席にいた、埃を被った革鎧を身につけ、疲労の色を滲ませた冒険者の男と、小さな猿のような獣を肩に乗せ、時折優しく撫でている獣使いの女、そして先端に宝石が埋め込まれた杖を大切そうに抱えた魔導師らしき男女の話が耳に入る。
「聞いたか?北部の遺跡の噂」
「あぁ、知ってる。なんでもやばいモンスターがたくさんいて、危険な場所らしい」
「私達で行けるかな?」
「やめとこうぜ。命の方が大事だ」
三人がそんな会話をしていた。
「(北部の遺跡…何やら怪しいの匂いがするのぉ。行ってみるか)」
トルティヤは最後の一滴まで器に入っていたスープを飲み干すと、満足げに席を立つ。
「ごちそうさまなのじゃ」
トルティヤはレジに手のひらに乗るほどの白貨を6枚置く。
「まいどあり」
そして、勢い良く扉を開け、店を後にした。