EP15.罠
ナグサイにて食事をしたトルティヤとクロウリーは、連なる山々を背に、フェズグリークに向かって歩みを進めていた。
道中、二人の間には以前のような張り詰めた空気はなく、穏やかな時間が流れていた。
「水魔法-断罪の礫-!!」
「闇魔法-冥府の雷-」
「ギャオオオオオ!!」
突如、茂みから飛び出してきた虎型のモンスターを二人は手慣れた様子で撃退したり…
「ありがとうね…」
「いえいえ!!お安い御用ですよ」
「(まったく…お人よしじゃ…)」
坂道で立ち往生している、商人の荷車を力を合わせて押してあげたり…
小さなトラブルに見舞われながらも、そんな感じで二人は道を進んでいた。
そして、4時間くらい歩いた頃、空が茜色に染まり、あたりはすっかり夕暮れになってきた。
陽は西の空に傾き、長い影が道に伸びている。
「なぁ?さっきから同じところを歩いている気がするんだが…」
クロウリーが周囲を見渡す。
「うむ…確かに変じゃな。予定ではフェズグリークの街並みが見えてくるはずじゃがのぉ…」
クロウリーの言葉にトルティヤは頷いた。
それもそのはずで、二人はかれこれ30分くらい同じ景色の場所を歩いていたのだ。
道の脇に生えている草木や、転がっている石の位置までが、まるで過去の映像を繰り返しているかのように寸分違わなかった。
「これ、もしかして何かの魔法にかかったとか?」
クロウリーが可能性を答える。
「恐らくじゃが、空間魔法の一種じゃろう…随分とふざけたことをしてくれるのぉ」
トルティヤが静かに呟く。
その時、森の方から「ガサガサ」と、物音が聞こえた。
「トルティヤ…!何か来る!!」
クロウリーは咄嗟に杖を構えた。
「分かっておるわい!!」
トルティヤが物音の方に視線を向けた途端。
「…」
四方八方から地面が盛り上がり、 人型を模した泥人形がおぞましい姿で現れた。
その表面はどろどろとしており、見る者に不快感を与える。
そして、棍棒状の手を振りかざし、二人に襲いかかってきた。
「(泥人形!?)閃光魔法-煌めく兵団-!」
クロウリーは光り輝く人型のゴーレムを生成し、泥人形を迎撃した。
「ほう。泥魔法か…それなら」
トルティヤは魔法を唱える。
「無限魔法-永遠の風-!!」
風魔法に烈風魔法を合わせた技が炸裂する。
目に見えないほどの速さで回転する風の刃が、泥人形の群れをなぎ払っていく。
「…!!」
泥人形の攻撃はトルティヤとクロウリーに届くことなく消滅した。
「どこの誰だか知らんが、俺たちに喧嘩を売ろうなんて百億光年早いぜ!!」
クロウリーが周囲に向かって叫ぶ。
「馬鹿…百億光年は星への距離じゃろうが…」
そんなクロウリーにトルティヤは呆れたようにツッコミを入れる。
すると、地面が大きく揺れた。
「なんだ?」
クロウリーが地面の揺れに目を丸くする。
やがて、振動は次第に大きくなり、遠方から迫りくる巨大な存在を予感させる。
「来るぞ!!」
トルティヤが叫ぶ。
「ズシンズシン!!」
地面を揺らし、森の中から周囲の木々を押し倒しながら、巨大な泥人形が現れた。
その姿は腕が6本に顔が3つという、まるで鬼神のような姿だった。
「へっ…随分とデカイのがきやがったな」
クロウリーが不敵な笑みを見せる。
「ふん。見かけ倒しじゃと思うがな…」
トルティヤは余裕たっぷりの表情で巨大な泥人形を見つめた。