EP14.ナグサイ名物
「お!街だ街!めっちゃ久々だな!」
トルティヤとクロウリーはサージャス公国の国境を抜け、トリア帝国の首都である「フェズグリーク」を目指し、長く険しい道のりを進んでいた。
二人は、その途中、ナール川のほとりにある都市「ナグサイ」に立ち寄っていた。
眼下には、川の流れに沿って広がる街並みが広がり、活気ある人々の声が微かに届き、街全体に賑やかな空気が漂っていた。
「はしゃぎすぎじゃ」
はしゃぐクロウリーをトルティヤが静かに宥める。
ナグサイの街には街の生命線とも言えるナール川が流れ、水上には果物や野菜、魚を売っている露店船や、観光客向けの小さな客船等が浮かんでいた。
川沿いの店はおしゃれなカフェやレストランが並んでおり、風情を感じさせるものであった。
「とりあえず、腹が減ったらからのぉ。飯じゃ飯」
トルティヤは川沿いの道を歩きながら呟く。
「どこか目当ての店があるのか?」
クロウリーはトルティヤに尋ねる。
すると、トルティヤの足がピタリと止まる。
「…あれじゃ」
そう言うとトルティヤは一件の店を指さす。
「いらっしゃい!!ナグサイ名物!ナグサイサーモン丼だよ!!」
そう口にするとトルティヤは一件の店を指さす。
その指先が示したのは、周囲の洗練された店々とは明らかに異なる、素朴な佇まいの建物であった。
「…あれか?」
クロウリーが目を点にする。
「…文句あるか?」
それに対してトルティヤは静かに問いかける。
「いや…もう少しおしゃれな店を選ぶのかなと」
クロウリーはトルティヤの意外なチョイスに驚くばかりであった。
「この店がワシの持っている「大陸グルメガイドブック」に載っておるのじゃ」
トルティヤが懐から使い込まれた様子がうかがえる分厚い一冊の本を取り出す。
「そんな本が…俺の知らないことばかりだぜ」
「分かったなら行くぞ…お腹がペコペコじゃ」
こうして、トルティヤとクロウリーは店に入って行った。
「らっしゃい!空いている場所に適当に座ってくれ!」
店に入ると前掛けをつけたワイルドな店員が二人に声をかける。
「ナグサイサーモン丼を2つじゃ」
同時にトルティヤは店員に目当ての品を注文をする。
「あいよ!!ナグサイサーモン丼二つ入りました!!!」
威勢の良い声が店内に響く。
カウンターの向こうで調理をしていた別の店員が、「ありがとうございます!」と活気の良い声を返し、すぐに調理に取り掛かる音が聞こえてきた。
そして、二人が席につきしばらくすると、件の料理が運ばれてきた。
「お待ちどうさまです!ナグサイサーモン丼になります!!」
店員が二つのどんぶりをテーブルに置く。
「おぉ…なんて美しいのじゃ…」
その見た目にトルティヤは目を奪われる。
彼女の瞳は輝きを放ち、普段の傲慢な表情は鳴りを潜めていた。
どんぶりには艶やかなオレンジ色の脂がのったサーモンが隙間なくたくさん載っており、更にイクラもかなりの量がドンと盛られていた。
そして、横には茶色いソースが別皿で添えられていた。
「確かに美味しそうだな…」
当初は疑問視していたクロウリーも、どんぶりを目の前に唾をのむ。
「よし…食べるのじゃ!!」
トルティヤがそう声を上げると別皿のソースを上からかけ、ためらうことなく食した。
「もぐもぐ…」
咀嚼していくうちにトルティヤの目に笑みが浮かんでくる。
その顔は、至福に満ちていた。
「うーん!脂が乗って絶品じゃ…噂通り美味じゃのぉ…」
口いっぱいに広がる旨味に、彼女の表情はとろけていく。
「確かに美味いな…この赤い卵?みたいなのもプチプチとした食感がいいな」
クロウリーもその美味しさに舌鼓をうっていた。
彼もまた、トルティヤと同じように、その味に夢中になっている様子であった。
こうして、トルティヤとクロウリーはナグサイにて食事を楽しんだのだった。