EP12.決着!
それから幾時間が経ったのだろうか。
二人の魔力はとっくに尽きかけていた。
互いに体中の魔力回路が焼け付くような感覚に襲われ、残された力はわずかだった。
そして、二人は土煙が舞い上がる荒廃した高原で殴り合いをしていた。
肉がぶつかり合う鈍い音が響き、互いの息遣いが荒く、激しい消耗が伝わってくる。
「しぶとい…ぞ」
クロウリーの拳は明らかに軽かった。
その一撃一撃には力がこもっておらず、ただ惰性で振り出されているかのようだった。
「お主こそ…いい加減に諦めるのじゃ」
トルティヤも負けじと殴り返す。
その拳は震え、視界もかすみ、体は既にボロボロで、まともに立っていることすら困難な状態だった。
「嫌だね…俺は…諦めがわるい…んだ」
「奇遇じゃな。ワシも…諦めが悪い…のじゃ」
そして、申し合わせたかのように、二人が一気に距離を取る。
呼吸を整える間もなく、互いの視線が交錯した。
「ふん…だったら、ほんとの本当の…とっておきを喰らいな」
クロウリーが残された僅かな魔力を杖に貯める。
その杖の先端には、最後の輝きを放つかのような微かな光が集まり始めた。
「迎え撃ってやるのじゃ」
すると、トルティヤは手元に魔力を貯め始める。
その手のひらの上で、黒と白の光が微かに瞬き、彼女の全身から最後の力が絞り出されていくのが感じられた。
周囲の空気が再び重く、張り詰めていく。
そしてほぼ同時だった。
「塵沌魔法-無へ還す者の一撃-!!」
「無限魔法-真・堕天撃滅砲-!!」
残りの魔力を互いに放つと、灰色のキラキラと輝く光線と、黒と白の螺旋状のレーザーが再び激しくぶつかった。
高原の中央で二つの極大の力が衝突し、空間が軋むような音が響く。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
クロウリーが白目を向きながら雄たけびを上げる。
その全身からは血が噴き出し、血管が浮き上がる。
すると、クロウリーが放つ光線がレーザーをわずかに押し上げる。
「…ワシは…負けぬのじゃああああ!!」
トルティヤは全身から黒いオーラを放出させる。
そのオーラは、彼女の体を包み込み、まるで黒い炎のように揺らめいた。
その圧倒的な魔力の奔流が、ぶつかり合う光線をさらに強く押し返す。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!まだまだ!!」
クロウリーが更に魔力を高める。
肉体が限界に達し、体中から血が噴き出る。
その皮膚は赤く染まり、地面に滴り落ちていく。
「いい加減に…するのじゃ!!」
更にトルティヤがギアをあげる。
それはあまりに強烈だった。
彼女の体から放たれる魔力が、空間を震わせ、大気を引き裂く。
「ドドドドドドドドド!!」
トルティヤのレーザーがクロウリーの光線を完全に飲み込み、そのままクロウリーに向けて一直線に放たれた。
それは、空気を切り裂き、轟音を響かせながら、抵抗する術を失ったクロウリーへと寸分の狂いもなく迫った。
「…畜生が」
クロウリーには防ぐ手立ても魔力も残っていなかった。
「チュドーン!!」
クロウリーが立っている場所で大爆発が起きる。
凄まじい光と轟音が周囲を包み込み、大地が大きく揺れ動いた。
煙と土砂が舞い上がり、彼の姿は瞬く間にその中に消えた。
「はぁ…はぁ…」
トルティヤの肉体も限界だった。
呼吸は荒く、全身の力が抜け落ちている。
「次の魔法攻撃は耐えられない」そう確信していた。
やがて、砂煙が晴れていく。
「ガハ…」
そこには大地に仰向けに倒れ、白目を剥き、気を失っているクロウリーの姿があった。
「ふっ…ワシの…勝ち…じゃな」
トルティヤは勝利を確信すると高らかに勝利を宣言した。
その声はかすれ、震えていたが、確かな喜びと達成感が込められていた。
そして、クロウリーにゆっくりと近づく。
その足取りは重く、一歩進むごとに体が軋むようだった。
「…死んではおらぬな」
そう確認すると、トルティヤは最後の魔力を絞り、魔法を唱える。
「無限魔法-聖なる羽衣-」
すると、トルティヤとクロウリーを水色の光のベールが優しく包み込んだ。
「まったく…久々に手ごたえのある奴…じゃったわい」
トルティヤはそうつぶやくと、体の力が尽き果てたように地面にドサッと倒れ、そのまま目を閉じた。
彼女の顔には、激しい疲労と、同時に満ち足りたような穏やかな表情が浮かんでいた。
こうして、壮絶な戦いはトルティヤの勝利で幕を閉じた。