EP11.全身全霊!
「風魔法…」
トルティヤは魔法を唱えようと口を開きかけた。
しかし、その声が音になるより早く、漆黒の稲妻が凄まじい速度でトルティヤに向かって飛来した。
「(早い…!)」
トルティヤが魔法を唱えるよりも先に漆黒の稲妻が直撃する。
全身を痺れさせるような激しい衝撃が走り、彼女の体は宙に浮き上がる。
「ぐぅぅぅぅ…」
「やっと当たってくれたな!」
クロウリーはにやりと笑みを浮かべる。
「ふ、ふん…これくらい…蚊に刺されたようなものじゃ」
トルティヤは電撃で煤だらけになりつつも、激しい痛みに耐えながらクロウリーに鋭い視線を向けた。
彼女の体からは微かに焦げた匂いが漂い、髪の毛の一部がチリチリと縮れている。
「強がりは…体に毒だぜ!閃光魔法-黄金の大雄牛- !」
クロウリーが魔法を唱えると、足元の地面が黄金色に輝き、地中から巨大な雄牛の姿をした光の塊が隆起した。
それはまばゆい光を放ちながら、トルティヤめがけて猛然と突撃してくる。
「強がってなどおらぬわ。無限魔法-氷雷虎- 」
それに対してトルティヤは魔法を唱え、冷気を纏った巨大な氷の虎を生み出す。
「ガウッ!!」
氷の虎が、黄金色の雄牛と大地を揺るがす轟音と共にぶつかる。
衝突の瞬間、氷の結晶が周囲に飛び散り、閃光が迸った。
「はぁぁぁっ!!」
「まだ終わらぬのぉ!!!!」
二人はさらに魔力を込め、互いの魔法を押し合った。
「ドコーン!!」
だが、互いの魔力が拮抗していたためか、氷の虎と雄牛は同時に粉々になった。
巨大なエネルギーが四散し、爆音と共に周囲に衝撃波が広がる。
「面白い…久々だ。こんな奴に出会ったのは…」
クロウリーは口角を釣り上げ、瞳を輝かせながら楽しそうな表情を見せる。
「ふん…くだらぬ。お主を片付けてワシは飯を食べに行くのじゃ」
トルティヤはクロウリーの言葉を一蹴した。
「そうかいそうかい。だが、その前に、俺のとっておき…お前に見せてやる。泣いたって知らないからな!」
そう告げると、クロウリーが魔法を唱える。
その周囲には灰色のオーラが集まってくる。
「よかろう…次で決着じゃ」
トルティヤは魔法を唱える。
その体から溢れる魔力がさらに高まり、周囲の地面が微かに震え出した。
そして、ほぼ同時、互いが同時に魔法名を口にする。
「塵沌魔法-無へ還す者の一撃-」
「無限魔法-真・堕天撃滅砲-」
そして、クロウリーから放たれた灰色のキラキラと輝く光線と、トルティヤから解き放たれた黒と白の螺旋状のレーザーが空間の真ん中で激しくぶつかった。
凄まじい光が周囲を飲み込み、視界は真っ白に染まる。
「お主」
「お前には…」
二人がありったけの魔力を込め、互いの力を限界まで引き出した。
「負けない」
「負けぬ!!」
二人がそう決意した瞬間、互いの魔力が限界を超えて膨れ上がり、周囲の空間が微かに歪み始めた。
「ボーン!!!」
次の瞬間、高原に空を貫くほどの巨大な爆発が発生した。
それは、巨大な光の柱となり、天に向かって立ち昇るほどだった。
その爆発はサージャス公国内からでもはっきりと見えていた。
「ルーデン山脈の方からだ!!」
「すごい爆発だ!」
「あれは…魔法なのか?」
爆発を見た人々が驚きと畏怖の声を上げ、それぞれの場所で空を見上げてざわめいた。
街中では、その爆発の話題で持ちきりとなり、人々は恐怖と興奮がない混ぜになった表情で語り合った。
そして、その中心地にトルティヤとクロウリーはいた。
彼らの周囲には、爆発によって抉られたクレーターのような跡が広がり、地面は黒く焦げていた。
お互いに着ているローブの一部は焼け焦げ、爆風の影響なのか体の一部が傷ついていた。
「へ…やるじゃねぇか…けど…ごふっ…まだ終わらない」
クロウリーは口元から鮮血を吐き出しながらも、途切れ途切れに言葉を発した。
「大した…こと…うっ…ないのぉ」
トルティヤはクロウリーと比べると幾分か余裕そうだったが、その表情は深い苦悶に満ちていた。
こうして二人は、荒れた草原の只中で、互いに傷つきながらも、再び向かい合った。