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第二十話 ハルカ 仲間の声①

 シンイチがマクノ達との橋渡しになり、来た道を戻りレミフィアに帰還した。

 

 魔物の牙や爪、またかつての冒険者が残した遺品や第五階層の壁や天井から突き出した水晶なんかを削って持ち帰った。


 「蜥蜴人(リザードマン)の尻尾はそこらの材料とはワケが違うで?

 尖った先端は削りだせば強い毒にもなるし、効能を弄れる材料があればたちまち魔術の水薬に早変わり、そんな手間が面倒なら形を整えるだけでえぇ。

 切れ味抜群の刃包丁から護身用のナイフ、そこらの金属よりも軽いから携行にぴったりの武器になるんやで、お買い得やろ?」


 強調するところをはっきり、抑揚やアクセントの効いたシンイチの文句はかなり達者だった。

 帰りがけに話していたマクノの予想金額を越える金額を叩き出した。


 「これが大阪出身の力か」

 「あいやー、生まれた所は関係ないと思いますけど」


 シンイチの値切りに拍手を送る。

 苦笑混じりだったが、アミも続いて拍手していた。


 レミフィアは魔物退治の冒険者が揃う町で、それ専門の買い取り屋も多い。


 雑貨屋、金属類を扱う店や水晶を売るため宝石店など多くの店をはしごした結果……シンイチの援護射撃も込みで、かなりの稼ぎだとマクノ達はホクホク顔。


 出発前に決めていた「報酬は五分」に従って、得られた銀貨の半分は渡した。


 向こうはそれ以外に遺跡の書物や部品を拝借していたので、それ以上の儲けがあるのだろう。


 そちらは分けられない約束だったのでゴネたりはしないが、腹立たしい。


 ……シンイチの言う通り、戦力だけアテにされ美味しい所は持っていかれた気分だ。


 加えてこちらはタマキが誘拐されている。

 向こうに痛手はこれっぽっちもない。


 その事実が今すぐにでも縁を切りたいと思わせた。取り分を確実に分け、もう去ろうとしたところで、ハルヒコに呼び止められる。


 「ごめんねぇ、大人げなくて」

 「いいんスよ。こっちも馬鹿が要らんこと言うてすんません」


 誰が馬鹿だ。

 言ってやりたかったが、話したくない人を代わりに相手してもらっているので文句はない。


 悪く思わないでね、というハルヒコの謝罪だが、ハルカは謝らなかった。


 思っていることは言ったつもりだったからだ。


 「それじゃまた縁があれば。忘れるなよハルカ」


 彼らは得た報酬で今から飲み屋にでも繰り出すのだろう。

 こちらは問題が山積みだというのに気楽なものだ。


 あぁ思考がどんどんマイナス面に傾いていくのが分かる。


 最後に付け加えられた名指しの確認にも胃が痛くなる。昼下がりで照りつける太陽が今日は妙に鬱陶しかった。


 「ハルちゃん?」

 下から見上げてくるコウメの邪気の一切ない信頼の視線が痛い。


 隠し事をしている自分が酷く情けなく思えてくる。

 父に口止めされているのでどうにもできず、目を背けてしまう。


 「夜までそんな時間ないからとっとと用意するで。まず消耗品や、武具の新調にミツルの手持ちの薬を増やさんと。

 というか疲労もピークに近いし、休まなマズイな」


 本当なら分かれて買い物を済ませた方が効率的なのだが、もう狙われるのは勘弁だ。


 張り切って皆を先導するシンイチについていく。


 今更ながら鉄仮面(ブラックテイカー)たちは選定印、いや黄道十二刻印コウドウジュウニコクインを狙っているので仲間たちは無関係な筈ではないか? 


 「お前達は狙われていない。なら、隠れていた方が……」


 自分一人が狙われるなら別に。


 タマキが一人いないだけでぐらつく心のせいで思ってもいないこと、いや言うまいとしていたことがぽろりと出てしまった。


 ただでさえ聞き取りやすいと言われるハルカの低音は、間違いなく前を歩く仲間の耳に入った。


 「僕らの事、そんな薄情者と思っていたんですか」

 「ハルさん。それ、侮辱っていうんですよ?」


 あからさまに気分を悪くしたミツルとアミの責めるような口調にたじろいでしまう。


 乾いた笑いを浮かべるシンイチが近づいて来て、唐突に腹に拳を叩き込んできた。


 「やっぱ、おまえの事嫌いやわ」


 吐き捨てるような口調でさっと戻っていく。


 代わる代わるでアミやミツルからも叩かれ、更にはコウメまでもが突進してきた。身長差もあって鳩尾を的確に狙われもう苦しいのだが、


 「ユーちゃんと、約束したもん」

 今にも泣きそうなコウメに困惑してしまう。


 不安なのは当然ハルカだけではないのだ。

 自分のせいで彼女が消えてしまったと、コウメは何度も泣きそうになっていた。


 背中に手を回す手は思ったよりも力が込められており、少し痛い。


 魔物と相対した時とは全く違う意味で、荒んでいた心にじわりと染み入るものがあった。


 とはいえいつまでも話している場合ではない。買い物を済ませ、宿屋に着いた頃には日も傾き始めていた。


 誰よりも先頭に立ち続けたハルカの疲労はそこで限界に達し、心労もあってすぐに眠りこけてしまった。



 起きたのは完全に夕暮れが空を埋め尽くした頃だった。



 横で寝ていたコウメを……ん? どうして隣り合って寝ているんだ?


 訳が分からないが起こさないようにベッドから出て、ぼやける頭を捻る。


 「お目覚めですね」


 しっかり汚れを落としたらしいアミが、いつでも装備をつけられるような恰好で椅子に腰かけていた。


 部屋はまた六人で泊まれるように広めの部屋で、他の者はそれぞれのベッドで眠りこけている。


 そろそろ起こさないとなぁと彼女はこぼした。


 顔を洗い、汗を落とすために浴場を借り石鹸で臭いを落とす。茜色の陽が射し込み、温水で体を流せることの穏やかさに心が落ち着き、目は完全に覚めた。


 彼女が淹れてくれた豆茶を冷ましながら同じ席に着く。


 丸テーブルを挟んで二人、常に六人で行動していたから、こうして一対一で話すのは久しぶりだな、懐かしさを覚えた。


 「アミはしっかり者だよな。自分では女子力がどうのこうの言っていたのに」

 「おかしいですよね。当初はウチがもっと前に出て空回りする役なんだろうなぁって思ってたのに」


 控えめに笑うアミ。

 異邦に渡る前からの交流のおかげで彼女には警戒も緊張もない。


 タマキやコウメにはよく振り回されるから、穏やかな時間になれる彼女との時間は、実はけっこう気に入っているのだ。


 「ユースケと、お前といる時間は好きだった。お前達はいつも周りを気にかけてくれていたから、こっちは安心してなんでも出来る気がしていたよ」

 「その、なんですか? まるで別れの挨拶みたいな」


 彼女は何の気なしに言ったのだろう。

 だが、思う所のあるハルカはそれを突かれた思い、固まってしまう。


 アミは視線を窓から射す陽にやって、視線を外して言った。


 「片づけは得意ですか?」


 唐突に話題が変わったので困惑する。

 何のことかと思ったが、思った事をそのまま返した。


 「……片づけするほど、家に物はなかった」

 なんで貧乏を打ち明けたんだろうか。


 あはは、と困ったように笑ったアミだが、彼女は自分の話を始める。


 「ウチは片付け、苦手なんです。

 子どもの頃に集めた綺麗な石とか机の上に飾ってますし、近所のデパートで初めて撮ったプリクラは財布にずっと入れてましたし、高級そうな貰い物の箱とかずっと部屋に溜まってますし」


 片づけが苦手というより、物を捨てるのが苦手なんだろうな。


 いつまでも取っておきたい思い出が次第に部屋の面積を越えようとしているのだと。


 「先輩も一緒かと思って」


 彼女は陽を見てはいなかった。

 壁に立てかけてあるハルカの武器を指して言った。


 正確には、ユースケの使っていた剣だ。


 特別尖った造りでない真っすぐな刀身、十字の鍔、グリップだけは革紐を何度も巻き直してもらったが、この剣自体は大量生産品。

 しかし、これだけは替えの効かない大事な物。


 「ハルさん、ウチは足手纏いですか?」

 「そんな訳あるか」


 俯いた彼女が不安を滲ませる。

 さっきの会話で伝わらなかったのか、ハルカは彼女を正面から見据える為に座り直す。


 しかし彼女は制するように言った。

 「お父さんよりもですか?」


 確信を持って問われた言葉に、喉が詰まる思いだった。

 さっきまでの自信が砂と消え、急に虚ろなものに変わった気がした。


 「コウメちゃんやタマキさんはもちろん、ウチもミツル君も、先輩が大好きなんです。言葉は悪いけどきっとシンイチさんも。

 今はもういないけど、ユーさんだって貴方の事が大好きだった。

 貴方の後ろ姿を見て頑張ろうって思ったし、ハルさんに触発されてウチも自分で修業したり……貴方はユーさんと同じくらいウチらの中心だったんです」


 だから、どうかこのまま信頼させてください。彼女は頭を下げた。


 俺は、何も言えなかった。

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