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第十九話 ハルカ 立て直しだ

 「タマキ、どこだ返事しろ! タマキ!」


 自分の声が何重にもこだます。


 第七階層は地下とは思えない豪奢な造りで、光の射す大聖堂のホールのような荘厳さは目を見張った。

 異邦の全体図らしきジオラマにも驚いたが、それどころではない。


 埃の溜まった書庫を探していた時だ。

ミツルとコウメが血相を変えてハルカの所にやって来た。


 彼らに導かれ陣を渡った第七階層の先に、タマキはいなかった。

 磨かれた石床の代わりに置かれたポストカードの文面を見て、血の気が引く思いがした。


 『水瓶の君は預かった』


 黒一色の葉書に書かれた内容を見てすぐに飛び出して声を張り上げた。

 コウメが二頭に指示して捜索させるも彼女はどこにもいなかった。


 頭に過った風見砦での、友の無残な姿。

 今度は、それがタマキに起こるというのか?


 「コ、コウメが、コウメが悪いの」

 「すみません、すみません。少し、目を離してしまっただけで、その」


 顔を青くして頭を下げる二人。


 なだめながらも動揺は隠せなかった。

 

 ……分かっていたじゃないか、奴らはどんな所にも現れる。気を抜いた先であざ笑うように現れ命を奪うのだと。


 ……仲間がまた死んでしまう?


 焦りと恐怖が心音を早め、息が荒くなるのを抑えるのに必死だった。


 『要求は一つ。夜、牡羊の君を迎えに行く』


 それ以上の細かな事は書いていない。

 怒りに任せて破りそうになったのをなんとか抑え、どうしたものかと頭を掻く。


 マクノ達も一緒になって探してくれているが、見つかるとは到底思えなかった。


 「ブラックテイカーの仕業だろうな」


 何度も襲われた黒服と鉄仮面という特徴を聞き、マクノは思い当たる名があったらしい。


 「本当にいるとは思わなかった。各国の要人を暗殺し、歴史の進退にいつも関わってきた者、と言われているが」

 「まさか、君たちに関わりがあるとは思っていなかったわ」


 彼らはハルカ達に比べまだ冷静だった。

 焦る子どもと一緒に慌てていてはどうにもならない。どうにか落ち着かせようとしてくれていたのだが、


 この時はどうかしていた。


 「関係ないって言い草だな」


 当然そんな訳はない。なるべく理性で喋っているだけだろう。つい口から出てしまった狭量な物言いだったが、それでも止められなかった。


 「あんたらは俺達をアテにしているだけだもんな。信頼関係なんて当然ある訳がない。命よりも戦力が減ったことの方があんたらにとっては重要なんだろ?」


 「ハルさん!」


 聞いたことのないアミの厳しい声色にハッとさせられる。


 俺はいま何を口走っている?


 慌てて訂正しようとするが頭が真っ白になってしまい、何も言えずに立ち尽くしてしまう。


 「ごめんなさい。急にこんなことになるとは思ってなくて、その、動揺してしまって」


 アミが代わって謝ってくれなければ、争いに発展したかもしれなかった。


 背中を彼女に叩かれ反射で頭を下げたが、ひりついた空気はどうにもならなかった。


 「ダメだ、こっちにはいなかった。って、なんだいこの空気?」


 姿を消していたハルヒコ(きっとタマキを探していてくれていたのだろうが)が、一触即発の中で戻ってきた。


 怒りで息を荒くするハルカを見て、彼が何を考えたのかは知らない。


 「怒った所でなにも変わらないぞ? はいリラックスリラックス」

 「ちょっと黙ってくれないスか?」


 笑顔で和ませようとしたかもしれない。

 反射で殴りかかろうとしたのをシンイチが止めなければ、間違いなく向こうから血が流れていただろう。


 シンイチも声を震えさせていなければ、振り払っていたかもしれない。


 「ハルカ君、君は強い。今までで見たどの剣士よりも研ぎ澄まされていて、その剣の冴えは正直に言うと頭が下がる思いだ。

 だからこそ哀れだ。与えられた才能を振りかざして大物ぶって、癇癪起こした子どもみたいに振舞う君が、とても可哀想に見える」


 移動するなら声を掛けてくれ。

 そう言って第七階層を調べに行ったマクノ達を見送ることしか出来なかった。


 「よう言うなぁあのおっさん。ハルカおらんかったら第五すら越えれんかった雑魚の癖に」


 完全に見えなくなったあたりでこぼしたシンイチにぎょっとする。


 全員の刺す視線もなんのその、彼は本当に面倒臭そうに、苛立ちで足を組み替えながら言った。


 「ずっと思っとったけど、おまえら気遣い過ぎ。あのおっさんらの味方せんとこれから先マズイんか?

 今回は何も知らんおれらに付き添ってくれただけで、足手纏いやぞあんなん。

 早い話、奴ら全員がくたばってもおれらに支障は無い」


 階層を経るごとに募っていたなんとも言えないモヤモヤを、シンイチが全てすくい上げで発散させた。  

   

 ハルカには到底できないぶっちゃけに肝を冷やしかける。

 全員が口をつぐむ中、シンイチが続ける。


 「それよりも大事なんはタマキや。

 どこから来るか分からん連中に加えて、足引っ張る奴らに気ぃ取られてるヒマないぞ。しゃんとせぇハルカ」


 肩をがっしり掴んだシンイチが言ってきた。

 のらりくらりと皮肉る彼のことは、正直あまり好きではなかった。


 だからそんなはっきりと投げかけられるとは思わず、唖然としてしまう。


 「冷静、ですね。シンイチさん」

 「アホ。おまえがパニくってるからやろが。おれに仕切らせんな」


 ガラちゃうわ。


 そうこぼすシンイチだったが、なんだろう。意外にも彼がまじめな事を言う姿に違和感はなかった。


 目を瞬かせるハルカにため息をついて、彼はそのまま話し始める。


 「ユースケは殺された。でもタマキは違う。これはなんでや?」


 彼は疑問を口にした。

 たまたま隣にいたミツルがすぐに答えた。


 「子印ではなく、選定印を持っているから」

 「やろなぁ。で、今さっき起動したこの世界地図? で説明された世界の成り立ちとかを見るに、ハルカもタマキもおれらとは背負ってるモンが違う。そやろ?」


 頷く。

 ハルカに宿る牡羊アーリも教えてくれた。


 世界が縮小し、滅びの道を辿ろうとしている。

 それをなんとかするのがハルカの与えられた役割で、それを可能にする才が、剣と剣に宿る魔力ということ。


 「ブラックテイカーやったっけ? 奴らはおれらが異邦に来る時から襲ってきた。完全にロックオンされとるし、逃げるのは不可能やな。つーことは、おまえはどうすればいい?」


 再びシンイチの目がこちらを向く。正確には、ハルカの背負っている剣に、だ。


 「返り討ち、ですね」

 「おう、それでええんや。おまえは考えるの向いてないから、切った張っただけやればえぇ」


 どん、と胸を叩くシンイチ。

 怒りと焦りは完全に収まったとはいえないが、幾分かは冷静さを取り戻せた。


 熱くなっていた額を押さえながら、もう一度自分を落ち着かせるために頷く。


 「ホンマに明日の夜に黒服共が来るかは知らん。けどまずは立て直そうや。

 タマキがやられたのも、戦い続きで集中力切らしてたからかもしれん。急いで地上に戻って対策を練る、これに尽きるやろ」


 「シンちゃん、なんだかユーちゃんみたい」

 コウメは感心していたが、複雑そうだった。


 彼の気持ちは分からないが、それでもハルカばかりが決めなくてはいけない状況が変わってくれたのは、少し安心する。


 「でも安心しました。ようやくハルさんとシンイチさんが喋ってるのが見られて」

 「おいアミ、なにキモイこと言うてんねん」


 アミの安堵の溜息にシンイチがなんともいえない顔をする。


 しかしその通りだ。

 思えば彼と腹を割って話したことはない。


 彼の言葉には妙な安心感があった。

 怒りが冷めることはないが、さっきまでは完全に頭に血が登っていた。


 冷静になれた、と思う。


 「今のハッキリ言ってくれるシンイチさんなら、好きになれそうです。純粋についていきたいって思えますよ」


 ぎょっとして見返す男性陣。

 女性陣は喜色を滲ませていたが、一体どういう反応だそれは?


 「なんで急におまえ爽やかなん?」

 「ハルちゃんは素直な良い子だもんねぇー」


 状況は決して良くはない。

 しかし、凹んでいるべきでもない。


 煮えたぎる怒りは来たるべき時に解き放てばいいのだ。


 来てみろ鉄仮面ども、一人残らず根絶やしにしてくれる。


 来る戦いに内側で吠えているアーリを感じつつ、心の下で刃を研ぐのだった。


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