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第一話 ハルカ 自己紹介せねば

 「あのー、もうここは日本ではないんですか?」


 乗組員らしき屈強な男に話しかけるタマキ。

 見たことのない板金鎧に身を包んだ男に話しかける勇気に拍手を送りたいが、慌ただしく船内と甲板を行き来する彼らには邪魔だったようだ。


 しばらくじっとしていろ。

 横柄な言い方に思う所もあるが彼らの刷いている剣を見れば誰も言い返せはしない。


 「七人」はなんともいえない空気の中、椅子に腰かけたり壁にもたれたりと距離を図り合っている。


 彼らが顔を合わすのは三回目で、人によっては名前も知らない状況なのだ。

 半年という準備時間は主に政府の用意した時間で、ハルカ達には親睦を深めるような時間は与えられなかったのだ。


 とはいえ、これから一年を共に過ごす者達だ。

 ずっとそうでは困る。

 沈黙を破ったのはさっきハルカに話しかけてきたユースケだった。


 「えっと、オレは二木(フタキ)祐輔(ユースケ)、高二です。

 訳わかんない事も多いだろうけどさ、これから結構長い付き合いになってく訳だし、みんなよろしくな」


 急になんだと訝しむ者もいたが概ねユースケは受け入れられた。

 主に隣のアミが拍手で迎え「お願いします」と返事をして、歓迎の空気を作ったのが大きかった。


 「ウチは尾崎(オザキ)亜美(アミ)です。

 静岡出身、中三、テニス部で、えっとまぁ、話すのも聞くのも好きなんで、気軽に話しかけてください。よろしくお願いします」


 多少の緊張も見せるが、はにかみながら頭を下げる彼女に悪い印象を持つ者はいない。

 先のユースケよりも少し大きな拍手で迎えられる。


 隣り合っていた二人が自己紹介していったので、自然と席順に紹介する流れになってしまった。

 最後か、とハルカは独り言ちる。


 「新村(ニイムラ)(ミツル)、です」

 華奢な体にあっさりと整った顔つき、か細い声。

 幼い頃は女子と見間違えられたことが想像できる、そんな少年。


 ミツルは見られることに慣れていないのか、手でもう片方の腕を抱いている。

 たぶん違うが、負傷している腕を庇っているようにも見えた。


 「ん、そんだけ? 歳は?」

 「14、です。あ、中学三年です」

 「ウチと一緒だー、よろしくねミツルくん」


 人好きされそうなアミの笑顔にも、ミツルは困ったように視線を逸らすだけ。

 先は長そうだ。

 これ以上続かなそうと思った次の男が、咳払いをして視線を集めた。


 「大阪出身の高三、江藤(エトウ)新一(シンイチ)や。平次ちゃうからなー」

 「あれ、キャップ持ってきてないんですか?」

 「だから平次ちゃうて。シンイチな、小さくなる方な?」


 ユースケにからかわれるのを馴れた様子で捌くシンイチ。

 本人から弄り所を提供した辺り、彼の掴みなのかもしれない。


 茶色が混じった髪や左耳のピアスから堅い性格ではないと判断できる。

 当たり前のように会話を繰り広げる辺り、フレンドリーな性格なのだろう。


「はい、矢田貝(ヤタガイ)小梅(コウメ)です! 

 中学一年になりました、座右の銘はキンゲンジッチョクです!」

「就活生かい。ていうか意味分かってないやろ?」


 次に挨拶したのは恐らく最年少の少女。

 モデルのヘアスタイルをそのまま美容院に頼んだのか、毛先がやたら整ったボブカットはどこか背伸びした印象だ。

 早速シンイチと漫才みたいなやり取りをしているが……

 歳上ばかりの空間でよく物怖じしないものだ。


 「それじゃわたしね。知ってる人もいるかもだけど、改めまして……」

 「しってるしってる。アイドル白石(シライシ)(タマキ)ちゃんでしょ? 

 うわぁ、やっぱ顔小っさ!」

 「やっぱホンマやったか。絶対自慢したろ」


 彼女の自己紹介をぶった切ってコウメが盛り上がっている。

 シンイチも興味津々といった感じで身を乗り出していた。

 

 質問を浴びせられていたタマキは謙遜することなく、むしろ待ってましたとばかりにふふんと笑っていた。


 「仕事忙しかったんじゃないんですか? よく船に乗るって決断しましたね」

 「いやいや! むしろ立候補したかったくらいだよ。

 ()()が出てくれて超ラッキーって思ってたくらいだし」


 アミの質問に、彼女は甲板で見せていた快活さが全面に出た笑顔で答えていた。

 (アザ)の浮かび上がっている手の甲を大切そうに撫でているし、本当らしい。


 しかし、出来る事なら彼女の前に紹介したかった。

 流れを作ったユースケに恨みがましい視線を送ると、彼はそれこそ握手会の剥がし役のようにタマキへの質問コーナーを打ち切った。


 「ほいじゃ、トリお願いしまーす」

 「お前ちょっと雑じゃないか?」

 ただでさえ順番にプレッシャーを感じているのに、何故ハードルを高くした?


 明らかにタマキの時より盛り下がったテンションに、少し不満を感じる。

 こほんと、緊張を紛らわす咳払いを一つ。


 「松中(マツナカ)春賀(ハルカ)。高校二年。見ての通り野球部だ、よろしく」

 

 伸びかけの坊主頭を叩いてみせる。

 シンイチやコウメがほほぅと視線を頭にやったので、注意しておかなくては。

 問答無用でジョリジョリされるのは敵わん。


 「それだけじゃないでしょ? サヨナラホームラン男」

 タマキは高校一年生だが、なにかと気安い。

 こちらの事情を知っているからか、からかい混じりに口を挟んできた。


 どういうことー?とコウメが首を捻る。

 「そうそう、ある意味タマキさんにも負けてませんよね? 去年の甲子園決勝、九回裏逆転サヨナラのツーランホームラン。動画で見ましたよ~」

 捕捉してくれたのは、アミだった。


 「オレは生で観たぜ? 自分の学校が負けてたけど、あれは鳥肌立ったなぁ」

 痣持ちを集められた会合の日。スポーツ好きを公言しているアミと、実際その場に居合わせたらしいユースケがスカイツリーのトイレ前で話しかけてきたのだ。

 かなり興奮した様子で話しかけられたのでよく覚えている。


 しかしあの場にはハルカを含めて三人しかいなかった。

 タマキはあの場にいなかったはずだが、地元のニュースで取り上げられたが東京でも話題になっていたのだろうか?

 さっき肩を叩いてきた件ではスルーしたが、どうして知っていたのだろう。


 「わたしも決勝だけは絶対録画するようにしてるから、覚えてたんだ。やっぱり本物だぁ」

 芸能人に本物だぁって言われる状況……

 ひょっとして相当なレアケースなんじゃないだろうか?


 「えっ、すっごー!」

 コウメの純粋な称賛は嬉しかったが、なんともむず痒い。


 「ハルさん自分から言わないとー。あ、まさかウチらに言わせるつもりで?」

 「違う」

 

 終わったことで騒がれてもどうしていいか分からないだけだ。

 確かに運はよかった。

 炎天下の続く夏、連投に次ぐ連投で相手ピッチャーは疲弊していたし、自慢の変化球(カーブ)を早いカウントから放ってきてくれていた。

 決め球を狙えたのもキャッチャー側が疲れリードが甘かったからだ。

 それになにより……あの日は絶好調だったのだ。

 打席に入る時から既に見える光景が違っていた。

 明確に打てるビジョンをそのまま形にしただけだ。


 「ふぅん、そりゃ相手さんトラウマになったんとちゃう?」

 面白がって話に加わるシンイチ。


 気楽な調子だが、その双眸に含まれた「面白くない」という感情は見てとれた。

 輪になって作った空気の温度が、少しだけ下がった気がした。


 「向こうも晴れ舞台やのに、完全にハルカ君の踏み台になってもて」

 「ハルカでいいですよ」


 分かり易い皮肉だが、あまり効果はない。

 入部当初から名門野球部でレギュラーを勝ち取った事で、賛美も嫉妬も同じくらい味わってきた。

 敬称なしで、というあっけらかんとした反応が余計にシンイチは面白くなかったらしい。

 既に聞き飽きた他人からの評価に関して、ハルカの心は乾いていた。


 「俺は高卒プロ入りして、速攻で億越え選手になるんで」


 子どもの頃からの夢、いや野望を口にした。

 和やかだった空気がシンとなったのが分かったが、謙遜する気は全くないので別に構わない。


 息を呑む面々が、冷たい物に触れたように距離を取ったような気がした。


 「お、んじゃサイン第一号はオレな。ちゃんとサインの練習しとけよ?」

 「じゃウチ第二号で。名前付きでお願いしますよ?」


 背中を叩くユースケがおどけてみせ、それにアミも便乗してきた。

 空気を悪くした自覚はあったので、この気遣いはとてもありがたかった。


 他人の目を気にしない性分でも、あからさまに重たい空気よりは明るい方が良い。

 目配せしてくるユースケに、心の中で頭を下げた。


キャラ紹介①

松中春賀 ハルカ 高校二年生 ふてぶてしい野球部

白石環 タマキ 高校一年生 異世界でもアイドル

二木祐輔 ユースケ 高校二年生 空気の読める陽キャ

尾崎亜美 アミ 中学三年生 快活テニス娘(巨乳)

新村満 ミツル 中学三年生 顔の良いシャイボーイ

矢田貝小梅 コウメ 中学一年生 元気娘

江藤新一 シンイチ 高校三年生 西の探偵ではない

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