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第十五話 タマキ 洞窟にいこう① 騒がしい道のり 

 一行はムートを出た。

 ハルヒコ、瓶腹リーダーのマクノ、アダルティなラフレ、口髭のドガス。

 四人を加えた十人という中々の大所帯で、馬車の通る為に舗装された道を丸一日かけて栄光都市レミフィアに到着した。


 しっかりと踏み固められた土の道は快適で、少し逸れれば広がる草原が運ぶ薫風(くんぷう)が、荒んだ心を少しだけ澄みきらせてくれる。

 傾斜もほとんどなくなだらかで、新調したブーツがよく馴染んだと思う。


 しかし、真の快適さはなかった。

 タマキに与えられた力が教えてくれるのは様々で、離れた位置にいる人をいくらか察知することが出来る。

 少人数のムートの兵士がタマキ達を尾行していたのだ。

 唯一ハルカだけがそれに気づいていた。


 「……ねぇ?」

 「おぅ」

 言葉なしに伝わっちゃった。なんだろ、阿吽の呼吸ってやつ?

 ちなみに大人たちに揶揄(からか)われた。

 べ、別に照れてないし。


 話を戻して……タマキたちに自由はない。

 勝ち取れる日が来るのかは、分からなかった。


 さてレミフィアだが、門の外からでは全容がはっきりとはしなかったのだが、平原に広く面積を取った平べったい街並みだった。

 際立って背の高い建物は数えるほど、集落がいくつも重なり合って出来たのを強引に土壁で囲ったように見えた。

 さすがに大国に数えられるムートのような石壁など在りはしない。


 四方にやぐらが立ち並び門には関所が設けられていた。

 瓶腹マクノが取り出した紋章(エンブレム)を見せて衛兵に見せて、タマキ達のことを説明したので入ることが出来たのに少し安心する。


風見(カザミ)の塔、レミフィア(ココ)からでも見えるんですね」

「あんな高い塔、いつからあるんだろう?」


 アミが指差した遥か遠くにある塔だが、地理的にはそこまで離れていない。

 ムートを中心にして北東に進めば風見の塔、そして風見砦。

 レミフィアは南だ。

 

 遠くに来たと思ったのに離れられない距離、先日の凄惨な光景は、すぐに消えそうにはなかった。


 用があるのは厳密にいうとレミフィアではない。

 気になったが、少しだけの休憩を取った後に再び歩き出す。


 町を出てすぐの道は舗装されていて、立ち並ぶ小屋を見送った先に大きな地下空間への入口があった。

 梯子や台車が用意されていて、多くの人がこの洞窟に潜り挑戦していったのが分かる。

 風の通りが生き物の遠吠えのように足元を伝っていく。


 「今更やけど、閉所恐怖症の奴おらんよな?」


 奥を覗けば一定間隔で松明が設置されている。

 入口付近は完全に攻略されていて子供でも安全に通れる道となっているが、未踏の地はそうではない。

 そこから先が本番である。


 「地下二階までは完全に攻略済みだから、気は張らんでいいぞ」

 そんなことを言われたので、反響する洞穴でいかに高音を出せるか、みたいな遊びも出来た。

 地面に突き立てられた鎖のロープを伝って高い段差を降り、小さな穴がいくつも掘られているところを慎重に歩きつつ、見えてきたのは商業施設や魔術師の小屋の集まりだった。

 まるで秘密基地に踏み入っていくようなワクワク感があった。


 「宿、酒場、鍛冶場、雑貨屋。まるで地下都市ですね。あー暑い」

 ミツルの言う通り炉がいくつも並んでいて、金槌を打ちつける音がひっきりなしに聞こえてきた。

 舞う火の粉が風に乗って熱気が溜まる第二階層に、顔をしかめてしまう。

 革ベストのボタンをはずし、下のシャツをつまんでパタパタと風を送る。


 僅かに入って来る空気で涼んでいると、アミが耳打ちしてきた。

 「タマキさん駄目です。目に毒です」

 あ、胸ね。


 ちらっと見れば男性陣が目を逸らしていて、いや中学生か。

 ていうか親世代のハルヒコ達も見てるって、なんだかなぁ。

 

 「あら、見せつけてくれるじゃない」と関心した様子のラフレ。

 「すっご、デッカ」と羨ましそうなコウメ。

 恥ずかしかったので「アミのが大きいですよ?」と巻き添に。


 「なぁに!?」

 「それは確認せなアカンな」など食いつきの良すぎる反応に笑いながら(アミは顔を真っ赤にしながら憤慨していた)、一番反応に困っていたハルカが空気を変えてくれた。


 「地下はどれくらい深いんですか?」

 「誰も確認は出来てねぇが、書物によれば第七階層まであるらしい」


 法の神マ・チャルが趣味で残した彼の住居に関する書物で、そういう記載があったらしい。

 誰がそんなものを持ち帰ったのかは知らないが、


 「皆さんはどこまで進めましたか?」

 「第四階層。ここから先は死ぬと思ったわね」


 今回は人数多いしなんとかなるでしょ。

 楽観的なラフレに同調したのはシンイチとコウメ。向こう側は全員だった。

 反して頼られる割合が圧倒的に多いハルカは、そっぽを向いていた。

 見れば心底嫌そうな顔をしていて、覗き込んでしまったので目が合っちゃった。



 長旅の疲れを癒すために一行はその後、彼らの間借りしているギルドの宿泊施設に格安で泊めてもらうことになった。


 旅で消費した物資を買い入れつつ屋台で食事をしている内に、財布の中はすっからかんに。

 当然夜遊びができるはずもなく、三人部屋を六人で使うことに。


 「っべーなー。マジに明日稼がんと、おれら路頭に迷うで」

 「だいじょうぶ、シンちゃんが奴隷になればいいんだよ!」

 「そうですね。悲しい決断になりますが、必要な犠牲かと」

 「血も涙もないんかおまえら! つかミツル、一丁前に話すようになった思たら、ここぞとばかりに弄りおってぇ!」


 二人の頬をつねるシンイチを眺めつつ、タマキは一枚の羊皮紙を囲んで話すハルカとアミの卓に向かった。

 ぱっと見て、蟻の巣に見える図だった。

 丁寧に書き込まれていた地図で、明日挑む戦士喰いのモノらしい。


 そういえば彼が代表でマクノから預かっていたっけ。

 「えっと×印が罠で、ん? 罠ってなんですか?」

 「なんだっけな。床にスイッチがあって、押せば奥の壁から毒矢が射出されたとか」

 「ここの〇に×が入っているのが、進入禁止でしたっけ? 足場が崩れそうだから、近づくなって言われてましたよね?」

 「あぁ。お子様とタマキがほいほい進まないか見ておかないとな」

 「ハル君? わたしのこと猪かなんかと勘違いしてない?」


 さっきシンイチがやっていたみたいに頬をつねってみる。

 ……お、おぉ触っちゃった!

 「小回りの利く猪だと思ってる」

 と、何の反応も見せずにもがもが言うハルカの動じなさに、ちょっとだけいらっとしたの。

 ショートカットくらいに伸びた髪の毛をわしわしと弄ってやる。

 

 「タ、タマキさん? 先輩困ってるから。ていうか、その、近すぎません?」

 承知の上ですけどぉ!?

 ようやく恥ずかしそうにしたハルカだが追撃の手は止めない。


 「お前なぁ。ていうか事あるごとに髪を触るな。触り返すぞ」

 「え、ケダモノ?」

 「あぁ男女差ってほんっと腹立つ」

 結局されるがままになっているハルカ。

 ようやく「らしい」会話が出来たことに安心した。


 ここの所、虚空を見つめ悲しそうな顔をするハルカを見ていられなかった。

 こんなスキンシップでも彼の気持ちを紛らわせてくれるなら、いくらだって。


 「奥には失われた文明が眠っているんだよね?」

 ハルカが頷く。

 次元を越えた大船の技術も、この遺跡から発掘された技術で完成したそうだ。

 つまり、戦士喰いの攻略は元の世界に戻る為の手段が眠っている可能性が高い。


 財宝なら持ち替えって換金してしまえるし、行く価値は十分にある。

 壁に立て掛けてある武具を見た。いくつかは新調されていたが……

 「ユースケさんの剣、使うの?」

 変わらない物もあった。


 地下では長剣を自由に振り回せないと考え、ハルカは似たような盾とユースケの扱っていた剣をそのまま担いで来た。

 狭い天井に剣が刺さるのを見たくないので良いのだが、

 「まだ、使えるからな」

 そう呟いた彼の表情が見ていられなかった。


 空気が重たくなりそうだからと視線を逸らした先にあったのは、アミの右手の子印。

 「そういえば、アミの力でこう、思い出を振り返るみたいなことは出来ないの? 愛用の物とかだと効果あるって言ってなかった?」

 「そ、それはその、確かに出来なくはないかもですけど」

 「あんまり仲間にそういうのを勧めたくない」

 ハルカが口を挟んできた。


 「たしか物の記憶を読むときは、所有者がその物を使った中で特に心に刻まれているモノが呼び起こされる、だったよな?」

 何度も試したアミの手紙の力。

 寄宿学校の時に机に彫られた落書きに触れた時は面白かった。


 身分違いの恋心を抱いてしまった少年の名前と少女。

 二人の名の間に描かれた木。共通の知り合いが彼らの仲を発展させようと奮闘していた光景が呼び起こされたとアミから聞いた時は、なんとも心躍ったものだ。


 「あいつはもう弔ったんだ。そっとしておいてやろう」

 「でも、なにかが」

 「死んでいった奴の心を暴いて、面白いか?」

 突き放すような言い方だった。


 彼が心から人を非難しているのではないというのは、この一ヶ月でなんとなく分かった。

 わざと冷たくしているだけなんだと。


 一切こちらを見ようともせずにハルカは話を打ち切った。

 もう話すことはないと。ただ、必死に彼の死を遠ざけようとしていて、そのくせ遺品を持ちたがる。


 今、彼は何を思っているのだろう。

 もっと、明るい顔になってほしいな。

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