第十二話 ユースケ 初戦① 不安を乗り越えて
目標、風見砦を取り仕切る怪鬼の殲滅。
腕っぷしで長となっている大将を獲れば、体制は瓦解し魔物は去っていく。
自分達では勝てないと悟るのだとか。
石を積み上げて作ったような屋内、丸太の柱がぐるりと周囲を囲っており、正面もしくは裏の門から突っ込むしか出来なさそうだ。
だがm幸いこちらには応用の利く魔術を持った面々が揃っている。
散らばって作戦を行う為に別れる。
別動隊のシンイチとミツルが小さく手を挙げ、作戦開始の合図を告げる。
しばしの待機。
緊張で皆の顔が強張っている。コウメやアミは想像通りだ。
落下するユースケ達を魔術で捕らえゆっくり降ろす、とかいう一番初めに大きなことをやってのけたタマキでさえそうなのだ。
きっと、オレもそうなんだろうな。あぁ、情けないな。
と、気落ちしそうになったユースケ達の肩を、順番にぽんぽん叩いていく男。
当然ハルカだ。こいつは口数は多くないが、その強さに裏打ちされた度胸は既にユースケ達のずっと先を行っている。
「俺がいる。だから、大丈夫だ」
先のユースケが言葉を尽くして、言い方や抑揚を演説するみたいに気をつけたというのに、ハルカの言葉はとてつもなくさっぱりしていた。
女子陣だけでなくユースケまで安心させるのだから、凄いもんだよな。
そんな乙女チックを感じながら待っていると、砦の方に変化があった。
ミツルの調薬した睡眠剤は、衝撃を与えると空気中に飛び散る。
それを取り付けたシンイチが高く放たれた。
一番高所の見張り台を見事狙い、昏倒する魔物を確認した彼らの合図を見て、
「行くぞ!!」
気炎をあげて裏門に突入する。
コウメの召喚した青灰犬の牙とハルカの抜き放った長剣が、通り抜けざまに小鬼を屠っていった。
砦に突入すると、大きな空間が見えてきた。
やぐらで既にこちらを見つけた弓持ちの小鬼が数体構えるが、対応してタマキが即座に前に出て片手を突き出した。
彼女は世にも珍しい風魔術を扱える。
魔力で発生した風の起こりが向かって来る矢をことごとく逸らし、明後日の方向へ突き刺さった。
そこから彼女は短剣を抜き出し、魔力を乗せて投擲する。
糸で繋がっているかのような正確さで小鬼達の眉間を貫き、素早く回収する。
「おみごと」
「へっへーん!」
神業染みた動きは何度見ても目を見張ってしまう。
何が起こったか分からず逝った小鬼たちの亡骸を通り過ぎ、扉を突き破って中へ。
蠟燭などは灯っておらず、日はまだ高い所にあるのに急に薄暗くなった。
吹き抜けの広間から慌てたように顔を出した犬人が、伝令するように大声で吠えた。
「さぁ行けユキマル、リュウゾウ!」
コウメの指示で一目散に駆けて行く赤と青の二頭が、壁や手すり使って駆け上がり鋭い爪や牙で一掃した。
サファイア・ウルフと紅蓮闘犬は、精鋭の召喚術士が扱える上位の使い魔だそうだ。
格の差を見せつけた二頭は獲物を見回しながら彼女の下へ戻ってきた。
しかしこの広間には外に繋がる扉が三つもある。
上に集中していたせいで近場の扉が音を立てるのに気がつくのが遅れてしまう。
なだれ込む三体の犬人が、石の短剣と自らの牙を使って低い姿勢で向かってきた。
「ふんっ」
いの一番に気がついたハルカが長剣で素早く切り払ったが、猛威を潜り抜けた一体がユースケに接近していた。
『押さえ込んで』
頭に浮かびあがった言霊に従って丸盾を構えた。
見失いそうになる程の速さで迫る獣の猛攻を防ぐ。
次第に押されるが、素早く犬人の後ろに回り込んだアミの斧槍が仕留めた。
目の前で息絶えていく犬人の悲鳴に、ユースケの中で罪悪感が膨れ上がった。
徒党を組んで命を奪っているという事実に、良心が潰れそうになった。
対面したアミが振り抜いた斧槍を見つめ、顔を強張らせた。
自分が何をしたのか、彼女も今理解したのかもしれない。
魔術組はあまりそうでもなさそうだ。直接手に感触の残らないタマキやコウメには……分かりづらいのかもしれない。
なぁハルカ、二回剣を振っただけで二体も倒したオマエはさ、なんでそんな平気なんだ?
「くそっ」
毒づいてしまうが、気は全く晴れない。
胸中でうずいた重く暗い色のもやもやが喉元までやって来る。
吐き気を催しかけるが、なんとか持ちこたえる。
「うっし、成功やな」
三つ目の扉から慎重に入ってきたシンイチとミツルと合流した。
この砦の構造は大きな一階と中くらいの二階、見張り台の意味合いが強い小さな三階と三段ケーキのような構造になっている。
シンイチ曰く、時々ターゲットは最頂の見張り台に姿を現したとのこと。
ここから登っていく必要がある。
「ハルカとオレが先頭。
アミとコウメで後ろから来てる奴らを発見してくれ。
ミツル、タマキ、シンイチ君は真ん中。とにかく周囲に気を配ってくれ」
了解、という仲間の声に気持ち悪さがマシになった気がした。
階段を登った先の扉を開け、構造上、外から三階に昇る必要があったのだが……
待ち伏せを喰らった。奴らは人ではない、魔物だ。
小鬼は自身らの背の低さを活かし物陰から上手く飛び出してくるし、犬人に至っては壁も地面のように駆けあがってくるのだ。
タマキの風による逸らしがなければ大打撃を受けていただろう。
接近してきた魔物はほとんどがハルカの刃で吹き飛んでいったのだが……
「っ、この……!」
小鬼の潜伏にまで気を回せなかったのか。
三体の見えざる突進でハルカが吹き飛ばされ、外の広い空間に突き飛ばされてしまった。
「ハル君!」
「おい、ハル!」
思わず大声がでて、咄嗟に手を伸ばすも……空を切るだけに終わってしまう。
「先行け。追いつく」
ハルカは動じず、ただそういった。
痛みでわずかに顔を歪めてはいたが、彼は驚きなど一切見せなかった。
空中に投げ出されたまま平然と言い、そのまま見事に一回転して着地。
向かって来る魔物たちに向かって冷静に構えた。
「ハルちゃん!」
「行け!」
コウメがすぐに二頭を向かわせようとしたが、厳しい口調で言い放たれてしまう。
「ハル君! わたしも」
「いい。こんな数に負けるか」
放たれた矢をさも当然のように刀身で切り払い、迫る小鬼の群れを難なくいなしながら、彼にはこちらに呼び掛ける余裕があった。
タマキが心配そうに飛び出すか迷っていたが、
「おい!」
シンイチの怒号が、彼女の足を止めた。
「狼狽えんな! おれらの目標は怪鬼や、ソイツさえ倒せばええねん」
「でも!」
「あいつに露払いさせる! ハルカばっかに頼って、これから先生きていけるんか?!」
そうだ。
肝心な時、ユースケ達に訪れた命の危機を例外なく救ったのは彼だ。
とっくに誰か死んでいたかもしれない。
……それはこれからもあるのかもしれないのだ。
シンイチの言い分は、未来を見据えた正論であった。
大きく息を吸い、はっきり告げた。
「ハル! 全て倒せ。代わりにオレ達で終わらせて来る」
めったに笑わない彼が口の端を吊り上げた。
それを機に、彼はいつぞやの鬼神の動きで魔物たちに長剣を叩き込んでいく。
時には片手だけで屠り、拳や蹴りも混ぜ入れ、小鬼を踏みつけて飛び上がりながら多くを相手取っていく。
その姿を見てユースケは確信した。
彼を心配したのではなく、彼がいないチームの事を考えて、不安から狼狽えたのだと。
「行こう」
勝って、変わろう。友達に、少しでも並び立てるように。




