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第十話 ユースケ いざ会議

 ハルヒコが案内すること十分。

 街の中心地から外れた閑静な住宅地に差し込み、そこから更に裏路地と小路を何回か経由することで、こじんまりとした家に辿り着く。

 賑やかな喧騒は遠く、色彩の整った街並みは雑多なあばら家などに差し変わっていき、虫や鼠が這うのも何回か見た。

 その度にアミがひぃっと顔を強張らせたのはご愛敬だ。


 中は期待できないなと思ったが、意外な事に小洒落た酒場のような内装だ。

 部屋の隅に染みている跡と、棚に並んだ空のボトル酒さえなければ居心地の良さを感じたかもしれない。

 吹き抜けの二階からこちらを出迎えてくれたのは数人の男女。

 ハルヒコが言っていた仲間は彼より若干歳下くらいの者ばかりだったが、仲は良さそうだった。


 「ほんとに連れてきましたね! またホラ吹かれたかと」

 口ひげのみを蓄えている男はドガス。

 キャミソールに見えるかなり薄着の妙齢の女性ラフレ。

 共通して言えたが彼らは異邦寄りの風体で、あまり話が通じなさそうに思えた。


 「なぁに言ってんだ。息子を見間違える訳ねぇだろ。

 しかもほら、日本から来たんだ。年号が違う日本から、こんなに」


 行きながら話した日本の話で、令和という時代が来ましたよと言った時のハルヒコの驚き様といったらなかった。

 大袈裟に見える彼らの反応も、話を伺えば頷けるものだった。


 十年前。

 謎の船から現れた男に強引に連れられたハルヒコは、次元を越えてこの国に放り込まれたのだとか。

 他の者も似たような感じだ。

 井戸に飲み込まれたとか、古池がこの町の下水と繋がっていたとか、

 差異はあったが、みんな同じ境遇であった。


 「おかしな話だが、分かるだろう?

 おれたちは君らの先輩で、肩を寄せ合って生きている。今の君たちと一緒ってことさ」


 ビール瓶みたいな腹の男性はマクノ。彼らのリーダーだった。

 栗毛は染めたのだろう、地毛らしき黒が半分くらい伸びていて見事なプリン頭だった。


 「違うのは、君らは待ちに待った来訪者。アタシたちは巻き込まれただけの闖入者(ちんにゅうしゃ)ってこと」

 階段を椅子代わりにしているラフレが、分かり易く足を組み替えた。

 すらっとしたモデルのような見た目に年上という要素、いや色気に男子では逆らえない。

 視線を感じ取った彼女はニヤニヤとこちらを値踏みする目つきで、

 ……中高生ばかりの面子としては、なんともやりづらかった。


 「息子っていうからどんなくそガキかと思ってたら、なんとも凄みのある子だ。ほんとにお前さんの子かい?」

 「うるせぇ、どう見ても僕の子だろうが。特にこの目つき」


 がははと笑い合うのを面白くなさそうに見るのは、なにも本人だけでない。

 無駄話はいつでもできるし本題に入ってもらわなければ。


 ユースケが促すと、再び瓶腹のマクノに話の主導権が移った。


 「いや、ほんとに選定印持ちを連れてくるとは思ってもみなかったんで、これでいいもんか少し迷ってたんだが……

 まぁ簡単だ。手を組まないか? 

 君らの先輩が必死こいて集めた話や技術、そういったモンをタダでくれてやろう。見返りはもちろん、(ソレ)だ」

 やはりか。

 想定内の要求だったので、ここは用意していた返答を返す。


 「お答えできません。オレ達は右も左も分かりませんが、やることがありまして」

 「借金だろう? 知ってるよ。

 賠償金だかなんだかで国に出すもん出せって言われて、それが出来ないから君らは命じられた。魔物の討伐を」


 話が早すぎる。

 何故、というのが顔に出てしまったか、彼らは騙されやすい子どもでも見たような顔で笑った。

 ……半分くらい当たっているな。


 「子印(シイン)と、選定印(センテイイン)の違いは分かるか?」

 寄宿学校で知ったことをそのまま答える。

 

 子印には収まらない特別な、異質ともいえる素養を示すもの。

 八大神の加護を色濃く受け、選定印を持った者のほとんどが英傑や賢者として歴史に名を連ねる。

 そんな、限られた印だと。


 「偉業を成し遂げる印。使命を背負う代わりに莫大な力を持つのが選定印。

 こういうの、おれたちみたいな冒険や傭兵を生業とする奴にとっては一大過ぎるニュースなんだ。

 賭けていい。ここを出てった先で君たちは似たような勧誘を受けるだろうな」


 「どんな種類かも知ってるよ。そっちのとびきり可愛い子は水瓶アクエントの選定印。

 で、ハルヒコの倅は牡羊アーリ。王宮で切った張ったをして生き残れるぐらいには強いんだって?

 アタシらじゃ、ノクターネに真実を誓っても勝てない英雄サマだ」


 ノクターネ。影や悪夢、快楽や剥き出しの心を何より好む八大の一柱。

 異邦では特に蔑まれる女神の名だ。

 こんな言い回しをするくらい、彼女は異邦に染まっていた。

 ハルヒコも含めた他の男達もそうなのだろう。


 「そういう意味では心配してないけど、特に人前では印を見せない方がいい。

 滅多に起こることじゃないが、印を光らせた日にはハイエナが寄って来るぞ」

 「え、おれら割と」

 口を滑らせかけたシンイチの横腹を肘で打つ。

 なにすんねん! と呻いていたが、そのまま黙っていただけると非常に助かる。


 「印は他人に渡せるものだってことは知ってるかな?」

 

 頷く。タマキが見つけてくれた書の中に記されていた文章にはこうあった。

 印を一子相伝の証や継承権として扱う土地もあり、上の者が次代に託す文化もあると。

 そして厄介なことに、両者の同意がなくても譲渡が可能だという。


 「早い話、殺して奪う奴は大勢いる。十中八九、王宮の奴らは君らから印を奪うつもりだったんだろうねぇ。抵抗して正解だったね」


 嫌になる。

 勝手に与えられたもののおかげで異邦に送り込まれ、そのせいで命を奪われる。

 魔術でぺりっとシールを剥がすみたいに出来ればいいのだが、そうはいかないのだろう。


 「あの、どうしてそんなことを教えてくれるんですか?」

 控えめに手を上げたアミ答えたのは、やはり向こうのリーダーである瓶腹のマクノ。


 「信用が要るだろう? 他のヤツらと協力するより、あぁ俺達と手を組んでよかったって思ってもらいたいからね。

 なにせ君たちの協力を得られるという事は、文字通り英雄サマに力を借りるって事と同義だ」


 隠す気のない魂胆はいっそすがすがしい。

 利用し合おうと言っているのだから、こちらもその気でいればいいわけだ。

 後腐れなしに考える方針にするとして……それでもユースケには即決出来ない。


 「さっきも言いましたが、オレ達には国から直々に討伐依頼を受けています」

 「そこを協力するって言ってるんだ。現場まで同行して討伐も手伝おう。これだけの人数がいるんだ。そんじゃそこらの魔物は一捻りさ」

 「マジすか! 怪鬼(オーガ)って強いって聞いてたから、助かりますわー」


 シンイチが笑って頭を下げた。

 その名を聞いて彼らが顔を引きつらせたのを見て、やはり相当無理なモノを吹っ掛けられたのかと理解する。


 しかし、彼らの善意をそのまま受けるのには抵抗があった。

 喜んでいるシンイチやアミを制して、はっきりと告げた。


 「オレ達だけでやります。でないと意味がない」


 突き刺さる視線。

 仲間のものも、相手方の方もまとめて刺さる感触に、肩が自然と重くなった。

 

 とてつもない居心地の悪さだった。この異邦に来て、老けたかもしれん。

キャラ紹介④

ハルカ 牡羊の選定印 剣士

タマキ 水瓶の選定印 魔法戦士

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