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プロローグ ときめくような幕開け

お初の方は初めまして。

オルクスロッドから読んでいただいて、こちらにも目を通してくれた方はお久しぶりです。


二作目です。

投稿頻度がまちまちなるかもしれませんが、こちらもしっかり完結させる所存です。

どうぞ、よろしくお願いします。

 満天の夜空なんて初めてだ! 


 ビルの明かりや工場が昼夜関係なく世界を照らすせいで、今や滅多に暗い空を見上げる事をしなくなった子どもが、この空間にはいっぱいいた。


 木の柵をしっかり握り込んで飛び跳ねる女の子も、

 大きな瞳に星の海をしっかりと残そうと見上げる少年も、

 ニヒルを気取っていた年頃の青年も声をあげる。


 こんなにも空を間近に感じたことは無い。

 青年ハルカも諸手を上げて大空を全身で味わっていた。


 「やべぇ、やべぇよ! なぁハル!?」

 右隣の青年が愛称でハルカの名を呼びながら、吹っ飛んだ語彙で感動を表している。


 「マジで、これだけでも来た甲斐あったよなぁ!?」

 頷く。

 当初は決して思わなかったが、重たい腰を上げた甲斐があったというものだ。


 どんなもんなんだよと値踏みして臨んだハルカの気持ちはたった数分で覆され、あっという間に感動に飲み込まれ「来てよかった」と零してしまう。


 「魔法の絨毯でも、こんな夜空は味わえん」

 成人男性を大きく越す高身長、ほとんど坊主頭に近いショートカット。

 怖いと評される(男前と言われたこともあるが)ハルカの口から、とても似合わないメルヘンチックな言葉が飛び出た。


 隣の青年が噴き出す。

 「ちょ! オマエそんな恥ずかしい事言うタイプなのか?」


 今度は左隣の少女が声を上げた。

 「イヤイヤ、分かりますよぉ! 大分ポエミーでしたけどね!」

 その声色はこちらの興奮に負けないくらい大きい。


 左右でからかわれるが決して茶化すような態度ではなかった。

 同じ気持ちを味わっているのだ。

 水を差しに出た言葉ではないのはすぐに分かった。


 「まぁでも、気持ちは分かるな!」

 人懐っこい笑みを浮かべる青年は、二木悠輔(ユースケ)

 しっかりセットした今どきの人気ヘアスタイルは、叩きつけてくる冷たい風で崩れていた。

 それも気にならないほどの興奮具合だったが。


 「もっと笑った方がいいですよ先輩! 絶対そっちのがいいです!」

 恥ずかしげなく持ち上げてくれる少女は、尾崎亜美(アミ)


 人柄がそのまま現れているような垂れ目の優しげな目。

 健康的に日焼けした快活な笑みは、話しているだけで癒しを与えてくれる。

 あと、上背の割にシャツを押し上げる胸元が……いや、それはいい。


 「もっと前行って来る」

 構ってくれる友人二人にそう言って、ハルカは胸に沸き上がる衝動に従った。


 ここは甲板、文字通り船の上だ。

 横断幕を縦にして比べてもずっと大きい帆が突風を受けばさばさと音を立てる。

 あらゆるものを置き去りにする速度で、特別な、とある海を進む。


 それは星の海、つまり夜空を波に見立て、遮るものがない世界を真っすぐ進む。

 高度故の普通じゃ考えられない突風もなんのその、てっぺんから船底まで木造のソレを淡い光が包み、あらゆる衝撃から守っている。


 空を進む船なのだから既に普通ではない。

 インターネットであらゆる知識を得られるハルカ達現代人では及びつかない。

 全く知らないテクノロジー「魔術」がそれを可能にした。

 

 飛行機から身を乗り出すような体験だ。

 こんなのに興奮しない人間はいない。


 ハルカはわずかに軋む船上を進み、突き出した船首に近づくために階段を駆け上がる。

 誰よりも前でその興奮を味わうために、だ。


 ありったけの喜びを得る為に軽い足取りで向かうと、先客がいた。

 「ふわぁ! 風と、一つだぁ!」


 意味の分からない奇声をあげているが、誰もが似たような感じなので気にしない。

 というか絨毯だなんだと口走ったハルカには言えない。


 「代わってくれ」

 「もうちょっと待ってぇ!」

 聞こえるように声を張るが彼女は見ずに大声で返す。


 青と白、金も混じった夜天の中で一際光を強く放つ半欠けの月が彼女の横顔を映す。

 風でたなびく黒の直毛が、薄暗く輝く闇の中で最も暗かった。

 混ざる色もない純粋な髪の持ち主は、そんな幻想的ともいえる後ろ姿を真っ向から崩すような奇声を発している。


 充分感動を堪能したらしい彼女が振り向いた。

 およそ万人が望む美貌。

 顔の造りが大きな評価を分ける世の中で彼女ほど良い扱いを受ける者はいない、そう思わせる美しい容姿。

 あどけなさが少し残るが、それが余計に新雪のような侵しがたさを思わせる。


 「やっぱり前来るよね?」

 「まぁな」


 短いやりとりなのは、すぐにでも夜景と風を味わいたいからではない。

 異性に関心がなく、他に優先すべき物があり疎かにするハルカでも多少の緊張があったからだ。


 焦ってボロを出さないように素っ気なく返しただけ。

 目の前の美を体現した彼女はそんな感情を知ってか知らずか、どうぞー、とうやうやしく船首に促した。


 彼女は白石(タマキ)

 名前だけなら誰でも聞いたことのあるアイドルグループで、何回もセンターを務めたことがあり、今をときめく芸能人だ。

 妹のヒナが熱心に見ていた音楽番組で彼女がちょうど映っていて、画面に映っていた回数が他よりも明らかに多かったのを思い出す。

 地上波を歌とダンスで独占するような特別なグループでも優遇される、そんな遠い場所にいる彼女と話すなんて、良い土産話ができたな。


 交替で船首からの光景を堪能する。

 しばらくして甲板全体に声がこだます。

 名残惜しさにない後ろ髪を引っ張られつつも、二人で階段を降りていく。


 「楽しみだね。異邦(イホウ)


 弾ける笑顔で言われたそれに、なんともいえない顔で首を捻った。

 おぉい、と肩を叩かれる。

 その友人に対して行われるスキンシップに心奪われる男子は大勢いるだろう。

 しかし、ハルカは苦言をこぼしてしまう。


 「すまん、右肩は」

 「あぁごめん!」


 ころころと変わる表情の方がいいな。笑って、いいよと返すのだった。


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