1.突如として現れた謎のチャンネル。
――とあるSNSでのこと。
数名のダンジョン配信愛好家が、新しいチャンネルが立ち上がったことに気付いた。最初こそ注目を集めいない有象無象と思われていたが、しかしあるアカウントの投稿が流れを変える。
『あれ……これって、もしかしてドラゴン?』
ダンジョン配信初心者の相手として、適切なのは蝙蝠型の魔物であるバットなどだ。それらについては、少しばかり大きなコウモリというくらいなもの。物干し竿で殴っていれば、そのうち勝利できる。しかしそれ以上――例えばスライムなどのファンタジー色の強い相手は、一筋縄にいかない。
それ相応の準備と経験が必要となり、そもそもドラゴンと相対した配信者はいないのだ。
だが、そこに映っていたのは――。
『間違いない。ドラゴンじゃねぇか!?』
『嘘だろ、どうして一人でそんなの相手にしてるんだ……!?』
『ローブ羽織ってるだけで、手にしてるのは杖……?』
『逃げろって! 誰か運営に問い合わせしろよ!!』
にわかに盛り上がりを見せるコメント欄。
だが、その大半は困惑や恐怖といったものだった。このまま放置していては、映し出されている少年の身が危ないと考えてのもの。
しかし、いくら問い合わせても返信はない。
何故なら――。
【配信場所が不明】
この映像が、いったいどこのダンジョンのものなのか。
そもそも運営サイドすら、認知できていなかった。
◆
「キミは隠れているんだ! このドラゴンは、ボクが片付ける!!」
「で、でも……!?」
魔法使いの少年は、杖を片手に叫んだ後に呼吸を整える。
配信のカメラがあると思しき場所には、一人の子供が尻餅をついていた。彼らはどういった経緯か、ダンジョン内に取り残されてしまったらしい。
そして、魔法使いは冒険者の類なのだろう。
一生懸命に、子供を守ろうとしていた。
「あり得ません! 単身でドラゴンを相手にするなんて!?」
「――ははは。あまり、ボクを舐めないでね」
「……え?」
子供の訴えに、魔法使いは小さく笑みを浮かべる。
その後に面を上げると、そこにあったのは――。
「これでもボクは、魔法学園の主席だったんだからね!」――と。
自信満々な表情。
直後に、彼の杖から光が放たれた。
そして足元には光り輝く魔法陣が展開され、ドラゴンの咆哮が響き渡る。
「いくよ、フレア・トーネード!!」
魔法使いが叫んだ。
すると、ドラゴンは炎の渦に巻き込まれて――断末魔の叫びを上げた。
周囲一面が赤く染まる中で、子供はその光景を目に焼き付ける。
憧れ、そして畏怖のこもったその眼差しで。
「さて、これで……一件落着、かな?」
魔法使いの少年は、あどけない笑顔を浮かべて。
呆気に取られる子供に手を差し伸べた。
◆
――配信はそこで途切れた。
SNSは困惑に包まれ、しかし同時に妙な盛り上がりを見せる。
『これって、合成じゃないの……マジ?』
『いまのはさすがに、どうなんだ……』
『もし、嘘じゃないなら――』
そして、誰もが突如として現れたチャンネルに注目した。
『この【異世界体験チャンネル】って、なんなんだ……?』
その日、ダンジョン配信の世界は一つの転換点を迎えたのだ。
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