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映画「初恋暴走野郎」

「次は負けないから」


桐ヶ谷先輩は僕に冷たく言い放った。

当時まだ大学一回生だった僕は彼女のその鋭い視線に気圧され、一週間は夢にうなされた。

悪気は無かった、ただ若気の至り的な笑えるクソ映画を撮りたかっただけなのに、責任という奴はいつだって僕の肩に好んでのしかかって来やがる。


とりあえず状況を整理しよう。


僕が所属する映画サークル「映写会」は100人規模の大所帯なのだが、作る派、見る派、籍だけ派、の

3つの派閥に分かれており、中でも作る派を束ねているのが、桐ヶ谷美琴という当時三回生の先輩であった。作る派の人間の過半数は彼女の手足となって映画作りに勤しんでおり、その人数と予算にものを言わせた映画は彼女の監督としての手腕も相まって下手な邦画より高クオリティで、コンペなどでも入賞していた。

そんな中、去年一回生だった僕は、自分の作品を作りたいと思い立ち、何人かの同回生を集め、一念発起したのだが、 烏合の衆と決めつけられ、まともに予算を回してもらえず超低予算映画を作ることになった。


結果、完成したのが「初恋暴走野郎」という作品である。

内容としては高校生活をコロナウイルスのせいでまともに送れなかったばっかりに、大学生になるまで初恋を遅延させてしまった主人公、デビ男が、

ちょっと思わせぶりな事を言ってくる女の子に惚れるが、こっ酷く振られてしまい、その怒りで超能力に目覚め、大学内の人間を惨殺するという圧倒的クソ映画だった。

この映画は僕の自虐オナニー的自伝であり、はっきり言って人様に提供できるような代物ではないため、少しでも見たいと思ってしまった読者の皆様におかれましては、時間の無駄にしかならないので、回れ右してYouTubeやXで有意義な情報を頭に詰め込む作業に戻る事をおすすめする。


さて、問題はここからだ。

サークル内のルールにのっとり、外部の映画コンペにこの作品を提出する事になった。

もちろん名義は監督、脚本を兼任してしまった僕である。この歳になってまだ黒歴史を背負わねばならないのかと頭を抱えていると、全体講評が帰って来た。


「コロナ禍による若者の苦悩と青春の喪失、そして無敵の人という社会問題にも斬り込みつつ映像をチープにする事でそれらの元凶でもある日本の若者の貧困問題を風刺している。」


妙に納得感のあるメガトン級の過大評価を受けてしまった。


こうして僕の映画は、桐ヶ谷先輩の作品をおさえ、

一回生、少人数、低予算、の異例3コンボで入賞してしまったのだった。


これを面白く思わないのが桐ヶ谷先輩とその一派である。

コンペの結果発表の翌日、普段はサークル員に囲まれ、話しかける事すらままならない桐ヶ谷先輩が一人で来て僕にこう言い放った。


「次は負けないから」

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