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ダクト  作者: 静夏夜
5/8

「上」


 噂の真相が、人目を気にして存在を隠そうとする用意周到な行動からしても、人に知られてはマズイ何かとまでは判ったからこそ、気になる事が二つ在る。


 中学当時に聞いた噂では、人体実験をしていた部屋が在るのを大学の卒業生が懺悔に告白したと云う話だった。

 けれど俺と和希が見付け、今正に高野と見ている光景から推測出来るのは、今尚何かをしている部屋だ。


 推測通りに噂の人体実験が行われているなら、積荷は人もしくは献体と言えるのか微妙なので検体と言うべきか、どういう経緯で持ち込まれたかは分からないが遺体である事に他ならない。


 二つ目の気になる点は、目の前に在る建物から下りるとして、どれ程の地下施設が広がっているのか推測出来る対象物が無いだけに分からない。


 高野と調べた際にも、地下施設とはいえ換気口や排水処理設備がなければ凡そ血生臭い匂いや病原菌類の発生に感染の可能性を考えるだろうし、洗浄も必要だろう。

 それ等を考えても近くに排気口が何処かにあると踏んで探してみたが見当たらなかった。


 それは逆に、広大な地下施設の可能性を示唆する事にもなる。

 

「中に入らないと何も分かんねぇ……」


 俺が漏らした言葉に高野が、やめておけ。とばかりに肩に手を置いた。


 カメラのフォーカスを手動で開放にして待ち構えるが、中々出て来ない。

 中学の時は和希に肩車してもらってトラックの運転席を覗いたりと、何かをしていた分だけ時間の経過が早かったのかもしれないが、エアコンの効いた部屋が窓を開けてるせいか少しモワッとしていた。



――KATYANN――


「アキラ!」


 ムービーを覗いていた高野が小声で叫ぶ。

 何かが観えたのは判るが、何を観たのかは判らず目を細めて覗き見る。

 と、運転席に来てエンジンをかけ直し再びヘッドライトを点灯させた。


 建物の中でストレッチャーに乗せる何かが見えるが、ハイビームにやられて良くは見えずも、何かを乗せる音が視界不良を補うように聴覚で解らせる。


――GAKKONN――

――GARARARARARA――


――GAKKONN――

――GARARARARARA――


――GAKKONN――

――GARARARARARA――


 何かを三回トラックに積み込み扉を閉めた。


――BATTANN!――


 後ろで何かを話しているようだが、あの日と同じくエンジン音で聴こえない。


「河野さんもこれで報われますね」

「いやいや、尾見さんの熱心な研究有ってこそですから」


 トラックに乗り込もうと脇で話し始めてようやく聴こえた声に、河野と言う名前が出て来て思い出した。


〈あの日聞いた名前の人だ!〉


 興奮なのか感動なのか良く判らない自分の感情に胸の高鳴りが治まらず、心臓がバクバクと鳴り出して聞きたい声が聴き取れない。


 少し深呼吸して胸の辺りを擦りながら呼吸を整えるが、吐く息を殺しながらでは苦しくなるばかり。


「来年の今頃は世界も変わってるでしょうな!」


「後はまあ、政治家先生達の腕次第ですよ!」


「金次第の間違いでしょう?」


 不穏な会話と笑い声が案外平然と聴こえて来る事に拍子抜けするが、相変わらず遠目でも判る尾見の卑しい目がギラついていて不穏な感じは抜け切らない。


「それじゃ、仏心に世俗を地獄へ!」

「ナーム・ナイト!」


――BURORORORORO――


 トラックが走り去って行くと、楽し気に地下へと戻って行った尾見。


――KATYANN――




 ムービーを停めた高野が録った映像を確認しながら近付いて来ると、興奮を隠せなくなったかヤバい笑顔をコチラに向けて小声ながらも大きく口を開いて叫びを上げる。


「アキラ、今のカルト臭くね?」


「ああ、何かヤバそうな感じがプンプンする! それより尾見だよ! あの時は逃げる事で頭いっぱいで忘れてたけど、尾見は何時(イツ)アソコを出て来て帰るんだろ? そもそも何時(ナンジ)からアソコに入ってたんかも分かんねえ」


 謎が深まるばかりで、暫く自分の専攻の勉強が(ハカド)りそうもなく、とことん調べて答えを見付ける他に頭の切り替えは出来そうにないと自分自身が一番理解していた。


「あ、このムービーさぁ、タイムラプスモード有るぜ!」


 電源もケーブル繋いでるし電池切れの心配も無く、数分おきに勝手に撮影してくれる機能が有れば時計表示して撮影すれば尾見が帰る時間も判る。


「家近いし俺が明日朝一でここ来て停めるよ!」

「分かった、そしたら四限終わりに飯食いながら一緒に確認しようぜ!」


――PEKEPONN♪――


 突然スマホが鳴って、サイレントモードにしていなかった事に気付かされ、焦りと共に安堵する。


「あっぶねええぇ……」

「ヤバかったけど、タイミング!」


 確認するまでもなくテニスサークルの飲み会への誘いだったが、終電に間に合わなかった折の宿泊所としてメッセージ予約するみたいなノリでのものだろうけど、姑息な事にサークル内で人気の女子に誘わせてる辺りがイヤらしい。

 誘わせるだけで泊まりに来るのは野郎共と、道で寝てても問題無さそうな女子だけだ。

 何だか危険に曝された怒りが、人気女子に誘わせたのだろう奴等に向けてブツケても良いように思えて来る。


甘木(アマギ)の野郎、あの建物に放り込んで献体にしてやろっかなぁ……」


「甘木? ああぁ、合コン先生の本物アキラか」


 俺は相楽(サガラ)でアキラはあだ名、昔色々あってアキラ・テンパーとか言われてたけど、同じ大学入った高野にテンパーは止めろと言った結果だ。

 甘木(アマギ)(アキラ)、スケコマシの嘘吐き野郎なのは一部で知られているが、近隣女子大との合コン話を持ち込んで来る事から重宝されてもいるけど、いけ好かない野郎だ。


 高野がムービーカメラをセットするのにフォーカスを手動からオートに切り替え、タイムラプスモードをセットし、カーテンが被らないように縛り留めて部屋を後にした。



 夜中にメッセージが来たが無視していると、泊まれると踏んでか家の前まで来ていたらしく男女数人の話し声が漏れ聞こえて来る。

 暫くして諦めたのか消え去るが、遠ざかる声の方向からして大学の部室棟や寮にでも向かったのだろう、甘木なら合コンを土産に取り付く島は幾らでもある筈だ。





 翌朝、撮影を停めに来た俺は焦っていた。


 ムービーが既に停止していたからだ。何がどうして停まっていたのか解らず、高野には悪いが先に中の映像を確認して固まった……



 無い、撮影した筈の尾見とトラックと建物の映像が無かった。

 それだけなら撮影ミスや故障かとまだ諦めもつくし笑えるかもだが、三日前の研究に他の人が使った記録は残っていて、恐ろしい事に夜中の二時頃からタイムラプスモードではなく通常撮影されたデータがHDDを満タンにして停止し、スリープモードに入っていたと判った。


 つまり、誰かが昨夜の撮影データを消して上書き撮影をして誤魔化した、という事に他ならない。


 それが出来る者等、尾見しか居ない。


 俺は焦りスグに部屋を出て一限目の教室へと歩み警戒しつつ高野にSNSで連絡する。

 電車の中なのかスグに返事が来て、部屋の何処かにカメラを仕掛けられて逆に撮影されてなかったか? と尋ねられ俺の頭はパニック状態に陥っていた。


 冷静になって考えれば分かる話だ。

 タイムラプスモードでレンズにカーテンが被るのを嫌ってカーテンを縛り留めた事で、三脚に乗せて建物の方を向け狙ったカメラが丸見えに。


 トラックも消え去り尾見が帰る時は外を気にしないだろうと勝手に考えていたが、外へ出る折にも警戒しない筈がない。

 そんな簡単な事に何で気付けなかったのか……


 悔やんでも悔やみ切れない程の後悔を持たせる尾見に、知られた恐怖が全身に広がって行く。

 闇が巣食うようで酷く寒気が止まらない。

 これが怯えなのかと気付けば、自分が草食動物にでもなったような気にもなる。



相楽(サガラ)君、だったかな?」



 背筋が凍るその声に、振り向く事さえ恐ろしく、全身の力が入らず痺れているような感覚で、下手をしたら漏らし兼ねない。

 落ち着かせようとするが近付く足音に動かそうとする部位の筋肉が硬直するばかりで、金縛りと変わらず動かせない。

 身体の自由を奪われたようで呼吸さえも整わず、息苦しさから冷や汗が噴き出しているのか顔を伝う汗と背中を湿らす感覚が恐怖を理解させる。


「どうしたの?」


 尾見が廻り込み俺の顔を覗き見る。

 その悍ましく卑しい目は、怯え震える身体を舐め回すようでヌメっとした感覚が全身を覆い尽す。


「いえ、何も……」


 振り絞って出した声は怯える者と判らせるようで悔しさか募るが、声を出した事でようやく息が吸えるようになり、同時に身体の硬直が解けた。

 とはいえまるで風邪の熱に冒された身体のようでショボショボとしか動きそうになく、喧嘩になっても抵抗出来そうにない。


「君の専攻は、確か……」


 何故名前を知られていたのかすら分からないのに、挙げ句に学部や専攻に及ぶ詮索に、尾見が紐解こうとしているのはカメラをセットした部屋の者か否かの確認以外に無い。

 それを知って近付いて来たのか、知らないからこそ近付いて来たのか、そのどちらにしても目星を付けての事なのは間違いない。


 ムービーには多少自分の声も入っていただろう事は間違いなく、中の映像を確認したからこそなら……



「あの建物の下には何があるんですか?」


 覚悟を決めると聞いていた。

 正直自分でも何故聞いたのかは分からない。


 良いのか悪いのかも判らないが、尾見の態度が変わったのを肌で感じる。

 舐め回す尾見の卑しい目が、ヌメりからジジジッとした見定めるものへと変わり、わざわざ顔を背けて横目に見やり動かない。



「本当に知りたいのか?」


 一瞬迷ったが、覚悟を決めて静かに目を尾見に向ける。



「ほほん、十九時だ」


 吐き捨てた尾見はあの建物の方へと去って行った。


 

 続く!!!!!

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