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ダクト  作者: 静夏夜
4/8

「大」


 高校を卒業した俺は、あの大学に入学していた。


 別にあの噂を調べる為ではなく、単純に俺がやりたい事の分野でこの大学が二番目に有名だったからというのと同時に、家から近い事が決め手だ。


 高校への通学で満員電車を味わって以来、徒歩か自転車で通える所が一番だと気付かされただけ。

 共学の高校だったが好きな子には笑ってフラれ、通学途中に在る女子高との出会いなんか夢のまた夢だった。


 結局モテたのは和希だけで、俺は野郎の友達ばっか増えて尚更男臭くなった友人関係から学んだ。

 学校に恋愛を求めた処で、叶う奴等は友人関係を平気で裏切る(シタタ)かなクソ野郎ばかりと気付かされた!


 ・・・いや、もうどうでもいいや。

 と、諦め半分に一番有名な大学への受験にわざわざ東京の方まで行く気にもなれず、近けりゃ二番で十分とココに狙いを定めて大学は見事に射止めた訳だが……


 和希はスポーツ推薦で難関大学にすんなり入って尚、折角モテるのにわざわざ俺等と遊ぶ方を優先してるせいで彼女が出来ても長続きしない。



 で、俺はと言えば勧誘に負け、ナンちゃって系テニスサークルに入り、家が近いからと駅前での飲み会終わりの宿泊所代わりにされていた。

 ただ、時折女子も交じって来る事も多く、地元仲間に妙な噂を流されたりもしたが、実家である事に女子の寝る場所を親が別け隔てて用意していた為、いたって何事も無い……



 そんなこんなであっという間に大学二年の夏になっていた。


 あの噂の件を覚えてはいたがそれ処ではなく、再び調べ出したのは夏休み直前。

 遊びのテニスサークルなのに何故かその日は真面目にテニスをしていて、ナイター設備まで使って十九時を過ぎた頃だった。



――BURORORORORO――


 構内のテニスコートの端で座り飲み物を口にしていた俺は、エンジン音に何気無く網の外を覗った。


 実は例の建物は北門から近く、外から丸見えな道路に面するこのテニスコート南側の真隣に在り、少し気になって先輩や長く居る教授に建物の事をそれとなく聞いたりもしたが


「ああ、あれ確か中に構内全ての配電設備があるんじゃなかったかなぁ……」


 等と言われて、半ば俺もそれを信じていた。


 流石に中学生の頃の噂話を大学生になってまで引き摺って、オカルトマニアと思われては具合が悪い。

 ましてや配電設備という具体的な事を言われては反論する気にもなれなかった。


 けど、一番気にしていたのは尾見(オミ)の存在だ。

 今も尚この大学で講師をしていると知ってビックリした。


 発見したのは一年の夏休み前の調度今と同じ頃。


「尾見だよ、マジキモいんだけど……」


 食堂の一角で何かを煙たそうに避け他の席へと移動する学生の異様な光景と共に、学生から漏れ出た尾見という名を聞いてソチラを見れば、汚れた白衣を椅子にかけ、品もなくクチャクチャと汚らしい音を立てて無料の漬物をやたらと入れた具の失くなったカレーのご飯に無料のお茶をかけてお茶漬けとして食べている、チェックシャツの男が尾見だった。


 生徒ならまだしも講師がそれをやるのを食堂のおばちゃん達も嫌そうに眺めており、何より卑しい目が本当に気持ち悪く、あの時は暗くて判らなかった顔がこんなにも醜い目をした男なのかと知って尚更に、あの時逃げて正解だったと思わされる。


 捕まっていたら何をされていたか分からない。

 大学の学生を前にしても意に介さずなのだから、中学生だった俺や和希ならと思うと悍ましさに震えが来て、その時向かいに居た先輩に聞いてみたが


「偶に見るけど講師らしいよ、何の分野の講師かは知らないけど」


 と言われ、今更に気付き図書室や資料を漁ったりホームページの教員欄や事務関係まで暫く調べたが、何処の分野にも名前すら見当たらず。

 けれど講師としての登録はされているらしく、偶に見かける事もあり、女子生徒の数人が挨拶をしていたので、都度に何分野の講師かを尋ねたが、その返事は空を切るようだった。


「知らない。何かで遅くなった時に気を付けて帰れ! って言われてから挨拶するようにしてただけだから……」


 皆この調子で、知っているから挨拶しているのてはなく、遅い時間に注意を受けたから何となしに挨拶しているだけだった。

 そんな応えばかりと判って調べるのを諦めていた。



 けれど今、あの日見たのと同じ型の冷蔵トラックがあの建物の前に停まっているのを見た俺は、どうすれば良いのか頭の中に巡る様々な思考で固まっていた。


相楽(サガラ)君どうかした?」


 サークル仲間の女子が俺の座る場所が邪魔なのか、声をかけて退かしに来た。

 ココがテニスコートの中で構内の通路に一番近い事から、南北の風が流れて唯一涼めるスポットだからだ。


「あ、いや、俺ちょっと先に出るわ!」


「え、帰っちゃうの?」


 気があって引き留めてる訳では無い。単にこの後の飲み会終わりの宿泊所をキープしておきたいだけ。


 俺はスグに荷物を纏めてコートの外に出ると、目の前にある建物向かいの共同棟に入り二階へと上がる。

 あの日最後に隠れた地下階段の建物は研究室が在る棟で、俺も使っている部屋が在り、そこから覗こうと考えていた。


 部屋に明かりが点いていて、入ると仲のいい高野(タカノ)が居た。


「悪いけど、電気消しても良いか?」


「え、あぁ片付け終えたし別に構わないけど」


 高野は高校からの友人で、和希と見たあの時の話も知っている。大学入学当初の頃はあの話で今向かいの建物や奥の雑木林のコンクリ棟を見て周ったりもしたが、尾見の存在を知った高野が


「気を付けた方が良くね」


 と、迂闊に口にするのは注意した方が良いぞと警告をして来る程に、俺や和希より噂話を信じて慎重に探していたらしい。

 だからこそ……


「例の冷蔵トラックが今そこに来てんだよ!」


「マジか!!」


 興味津津に急ぎ明かりを消して窓越しにカーテンの隙間から覗き見る。


「窓開けないと音聴こえないぞ!」


 高野に言われて少し開けるが二階は風が入るのかカーテンがなびいて目立つ。


「ああクソっ!」


「大丈夫だよ、今日は隣も三階の角も窓開けてっから」


 高野の話に思い出したのは、何かの研究部が何処かの祭りイベントに参加するのにペイントした看板や何かを乾かすとかで……


「そっか、だからシンナー臭かったのか……」


 テニスコートで時折シンナー臭が鼻を突き、近所で塗装工事でもあったのかと思っていたが。



――BURORORORORO――


 冷房を効かす為か相変わらずアイドリング音を鳴らし続けるトラックに、今夜はヘッドライトを消していて運転手の姿が丸見えだ。

 とはいえ二階から顔まで見える筈もなく、あの日の運ちゃんの顔にしたって覚えてはいない。

 覚えているのはやたらと低姿勢で知性の低さを露呈してボケ倒す会話のみ。



――BURORORORORO――


 それから何分経ったのか分からないが、テニスサークルの仲間は既に着替えて飲みに行ったようだ。


 テニスコートの夜間照明が消えて学生の声が消えた頃、不意に運転手が降りて建物の方へと歩き出す。


――PIRIRIRIRIRI――


 呼鈴のようなドアホンの呼び出し音が鳴る。

 あの日の音、何度か確認したが昔ながらのただ押すだけの物で応答する事も出来ない所謂ブザーだった。

 けど、今になって不思議に気付く。


〈あれ、何で配電設備にブザーが在るんだ?〉


 噂の内容に引っ張られてブザーが在る事に違和感を持たなかったが、配電設備と言うなら中に人が居ないのだから必要ない。


――KATYANN――


 あの日と同じように解錠音と共に鉄扉が開かれ全開の状態で、中から出て来た男が下を向き鉄金を掛けてロックする。


 そして顔を上げたのは、あの尾見だった。



「マジか、マジで尾見じゃん!」

 

 高野が小声で驚きを隠さずにいる。

 俺は尾見よりも、建物の中の階段らしきものが目に入り、あの日の予想が当たっていた事に興奮していた。

 高野に肯きを返し、あの時は無かったスマホという近代兵器でそれを撮ろうとすると、高野が慌てて腕でバツを出す。

 スマホは裏側の画面の明かりが強く、それこそバレるぞ! と言って高野は奥の棚に何かを取りに行った。



「こいつならバッチシ撮れんぜ!」


 そう言って高野が持って来たのは研究記録用に使っている少し古いHDDタイプのムービーカメラだ。確かにこれならズームもあるし覗く部分の小さなモニターしかないから目立たない。

 何度か使って慣れてる高野が撮影するのかと思ったら渡された。


「え、俺?」


 充電してないから電源ケーブルを繋いだり三脚を用意したりと慌ただしく動き回る高野に敬意を払い、俺はその間も下の様子を覗いていた。


 撮影を始めてスグに運転手が動き出し、ヘッドライトを点灯させ後方へと行く。


――GARARARARARA――

――GAKKONN――


 コチラに向けたハイビームで見難いが、尾見が周囲を警戒しつつ、トラックの運転手が病院でよく見る患者を乗せるストレッチャーのような物を出し……



 大人サイズのグレーの袋に入った何かを建物の中に運び入れては戻るを繰り返す。


「それじゃ」


――BATTANN!――


 トラックの荷台を閉めてエンジンを切り、尾見と運転手が中へと入ってドアを閉めると。


――KATYANN――


 あの日と同じ施錠音。

 ただ、今回はムービーが在る。

 後日和希にも見せてやろうぜ、と言おうと高野を見るが浮かない顔だ。


「どした?」

「キビシイかもしれねえ、ヘッドライトは誤算だわ!」


 逆光だ。

 あのヘッドライトは周囲警戒と共にこの建物への目眩ましを兼ねていた。

 カメラは暗所を撮る際に光源があると、フォーカスがオートだと明るい方を基本にしてしまい暗い所は黒く潰れてしまう、手動フォーカスにしても明暗の差が大きいとゲインが粗く入って見難くなる。

 今の高いスマホならある程度は撮れるかもしれないが、画面の明かりで目立ってしまう。


 そこまで考えてのヘッドライトだと理解した途端に、相当に仕込まれた犯罪の匂いがプンプンとして来た……


 

 続く!!!!

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