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ダクト  作者: 静夏夜
2/8

「中」


 中二の夏休み、俺は部活帰りに和希(カズキ)と噂を確かめようと大学の東門から入り、暑さが残る午後の構内で目立たぬようにと紺色ジャージに身を包み探索していた。


「アソコとか、それっぽくね?」


 和希が指す建物の外にある地下への階段は、既に何個か見付けて確認している。


 建物毎に二箇所あり、倉庫になっている方と、電気ガス水道の管理室になっている方、他の建物にもあるようだったがソレじゃない感じの物ばかりだった。


「そこは何か、学園祭に使うような物が入ってたから違う」


 スグに開けて調べられた訳では無く、凡そ一年かけて調べ偶々誰かが開けるのを見たり、建物から出て来た大学生に直接聞いて確認した所もある。


「へぇ〜、サガちゃんスゲー調べてんじゃん! なら後、調べてないのは何処等辺よ?」


「アソコのデカイ講堂と、隣に在る教員が居る建物と、アッチの林になってる奥の調度交番の裏側辺りに建物っぽいのが在るんだけど、それが体育倉庫でもなく古ぼけた汚いコンクリの何かでさぁ、一番怪しいんだよねぇ……」


「じゃあソコ行こうぜ!」


 和希が行こうとするのを俺は止めた。何故ならアソコは夏に行くのはオススメ出来ない雑木林と化した藪の中にあるからだ。


 行くなら秋の終わりに業者が入って伐採した後だ。けれど伐採されると裏の交番の窓から丸見えにもなりそうで兎角厄介な位置に在る。


「じゃあ今日は何処探すんよ?」


 不貞腐れる和希に対して思わず講堂を指した俺は少し後悔する。講堂は中に入らないと意味は無く、入ってる所を見付かれば怒られるのが必至だからだ。


 けれど言った手前に後には引けず恐る恐る中へと入るが、まるで映画館や市町村の公営ナンタラホールにでも来たかのようだった。

 講堂の中へと入る重たそうな扉は閉めきられ、外周の廊下は重厚感のある大理石調の壁に囲まれ赤い絨毯が敷かれている。

 左右の廊下にトイレと待合室みたいな部屋は在るが、音響や照明の舞台装置を扱う関係者用の部屋や階段へも、裏口に繋がるだろう扉に鍵がかかっていて入れない。



「オペラ座モノじゃないんたからさぁ、流石に大学生の授業する講堂の地下で人を切り刻むような真似するかなぁ?」


 和希の言う通りだと思う。学生の若い鼻は大学で教授をやってるような歳の鼻よりは感覚が鋭く、加齢臭を敏感に煙たがるのもそれが理由。下から漏れ昇る血生臭さや腐敗臭の匂いに大学生が気付かない筈がない。


 けれどこの講堂にはアロマや香水のような変わった匂いが染み込んでいる。

 絨毯や椅子の布に染み付く匂いを誤魔化す為の消臭剤にも思えて来れば、不思議とココの何かを隠す為の誤魔化しに思えてならない。


「ここの匂い変じゃね?」


「そっかあ? いや、オレこれ鼻詰まってんな! 今日ミニゲームで走り回ったから校庭の砂で口ん中までジャリジャリ言ってんもん!」


 さっきの話は訂正しよう! 若くても匂いに鈍感な奴も居るから、年取っても敏感な奴も居るんだろうよ……



 さて、何処かに地下への入り口が在る筈! とは思うも、恐らく舞台裏への関係者用の裏口からじゃないと入れないみたいだ。

 こっち側にはそれらしき扉も無ければ、そもそもこっち側に在るなら学生は入りたい放題で、スグに皆にも知られる事となる。


「これ以上ここに居ても意味ないし、とりあえず出ようぜ!」


 そう言って俺が出口扉に手をかけたその瞬間だった。


「おいっ! そこの学生・・・学生か?」


 守衛のおじさんらしき水色の制服が見えて、慌てて和希と走り出した。


「おいコラ、待て! 待ちなさい!!」


 待てと言われて逃げる鉄則に和希と二人、部活練習の成果をココで出す。


「サガちゃんアソコは?」

「知らね、でも調度良いかも!」

 

 和希の指す方には隠れるのに調度良い公衆便所サイズの掘っ立て小屋のような建物、隣には小さな貨物トラックが停まりヘッドライトが点いたままだからか、前方の周囲が明るく後方の建物は目立たない。


 急ぎ建物の脇にある凹みに身を潜め、守衛のおじさんが過ぎるのを待っていた。


「何処行った。ったく!」


 守衛のおじさんが諦めの空気にため息を吐き、講堂の方へと戻って行くのをジャージに頭と体育座りに組んだ足を入れて隠し静かに待つ。

 一応に周囲を見渡すだろうと動かずに、ジャージの粗目な繊維に漏れ見える何となくの物影らしき動きに見当をつけ、その水色っぽい物影が消え去るのを待っていた。



――BATTANN!――


 トラックのドアが開いた音にドキッとするが、守衛のおじさんらしき水色は消え去って行く。

 けれど今度はトラックの運ちゃんだ、隠れ続ける必要は変わらない。


〈大学構内に乗り入れてるトラックの運ちゃんには何も言わねぇのかよ!〉


 とか思うのは、警備の仕組みを理解していなかったからだが、この頃の大学の門は常に開けっ広げで、本当に許可承諾掲示までの流れを汲んでいたのかすら微妙な学校が多かった。


 殊更ここの大学は駅から離れているからか教員の車通勤が多く、正門に車道を敷いていて生徒は脇の狭い歩道を歩いて入る。

 構内も車が走りまくり歩く際には緑地部分を踏み歩く、ある意味子供の安全担保になるのかも微妙な程に、荒い運転の車が構内を縦横無尽に、生徒に後ろからクラクションまで鳴らして退けて帰る教授が、車の中から手を出し振り去る始末。

 後に知ったが、そんな教員の中に交通の安全を専門にしている教授が居たのだから、この国の交通整備の安全がザルなのは仕方がないようにも思えて来る。


――PIRIRIRIRIRI――


 突然呼鈴のような音が鳴る。

 ドアホンのようだった。


「はい、」

「あ、どうも。スゥ~○▲□総合病院の●△■ですぅ。あ、例の検体の件でお伺いさせていただきましたー」

「ああ! あの、あ、いえ、今開けます」


 何か宅配便のような言い回しではあるが、病院と検体と歯切れの悪いドアホンからの声。


〈間違いない、ココだ!〉


 

 続く!!

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