表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/12

10「月下美人と手駒」

「戸籍の件とは別で、中央へ行くかどうかは、金糸雀かなりあに任せる。それなりに危険が伴うし、大変な思いもきっとするだろう。強制はしない。

このまま東方に残って暮らしていくのなら、それでも構わない。

明日の朝迎えに来るから、決めておいて」


 彼女の返事も待たずに帰ろうとすると、慌てた声が追い掛けてきた。


「待って、あやは。封筒忘れてる」



 しまった、そうだ!



 本気で焦って、金糸雀の手からそれをひったくった。


「そんなに、大事なものなの?」


 興味津々で、封筒を見詰める。

 自分の将来を決めてしまう、大事な書類だとも知らずに。


 心臓が、ゆっくりと跳躍を始める。思考能力が、段々漂白されていく感覚。


 まずい。



 何で言い忘れてたんだ?


 っていうか「一緒に行こう」って、考えてみれば求婚みたいなもんじゃないか。


 この上、まだ「結婚しよう」とか言わなきゃいけないのか?


 こんなに一気に色々言ったら、金糸雀の頭パンクするだろ。


 そうだよ。まだ一緒に行くって決めたわけじゃないし、明日でも良いよな。


 いや、一緒に行くってなっても、俺との結婚が条件だったら辞めるとか言い出すかもしれない。


 それって、相当キツイ状況だろ。惨め度最大だよ。


 そもそも、金糸雀は俺のことどう思ってんだ?


 「愛してる?」とか聞いといて、自分はどうなんだっつー話ですよ。


 嫌われてはないだろうけど、客としてかもしれないし。良いように使われてるだけかも。


 俺だって彼女を利用しようとしてるんだから、そこは同罪だろ。



 あああもうめんどくせぇ!



 一人脳内会話を終了させて、金糸雀に向き直る。



「大事なものだよ」


「それ、なぁに?」


「……婚姻届。俺と、金糸雀の」


「え?」


 金糸雀は、今日何回「え?」と言ったのだろう。その本気のキョトン顔が、胸に痛い。



「ごめん。言い忘れていたんだけど、連れていけるのは、血縁者か配偶者一人なんだよ。だから、その、金糸雀が東方から出るには、俺と結婚することが条件なんだ。隠してたわけじゃなくて、本当に言い忘れただけで、他意はない。ごめん」


 言葉を重ねれば重ねる程、墓穴が深くなっていく。最強にダサい。


 背中の傷よりも、今は顔の方が熱かった。



「私、あやはのお嫁さんになるの?」



 お嫁さん。


 子供じみた単語が、余計に恥ずかしかった。



「なるかどうかは、金糸雀次第だよ。ただ、中央へ行くなら、結婚しなくちゃいけない」


「あやはは、どう思うの?」


「えっ」


「一緒に行こうって言ってくれたのは、お嫁さんになってほしいってこと?」


 頼むから、真顔でそんなこと聞いてくるなよ。普通に分析するなよ。

 何かもう、恥ずかしすぎて涙が出てきそうだった。


「そうだね、わかってるなら聞き直さないでくれよ。すごく恥ずかしいんだ、こういうの。柄じゃない」

「でも、確認しなきゃわからないでしょ? 相手の気持ちを確認しないのは良くないことだって、前にあやはが言ってたのよ」



 いつだかわからんが、その時の俺を殴ってやりたい。



「わかった、うん、そうだな。ちゃんと言わない俺が悪かった。

……金糸雀といると楽しいし、嬉しいよ。守ってやりたいって思う。幸せになってほしいって思う。

……これで良いか」



 額から流れる変な汗と、羞恥のあまり俯いていたせいで、眼鏡がズルズル下がってくる。

 叶うのならば、今すぐここから逃げ出したい。



 俺の願いとは裏腹に、金糸雀の追及は止まなかった。


「ということは、つまり?」


 俺、良いように誘導されてないか? もしかして、遊ばれてる?


 ちらりと窺うと、金糸雀はニンマリとした意地の悪い笑い方をした。



 しまった、そうだ。



 彼女は、一夜の愛を売る、花屋の稼ぎ頭。


 色恋沙汰で、敵うはずがないのだ。



「傍にいてほしい。俺は、金糸雀と結婚したい」



 目を瞑って、半分やけくそで言った。

 理想の求婚像とかは持ち合わせていなかったが、コレはない。ひどすぎる。



 恐る恐る目を開けると、望んでいたものが、そこにあった。



 少しはにかんだ、満面の笑み。



「金糸雀……?」


「ありがとう、あやは」



 舞うように軽やかに俺の手を取り、握り締めた。



「どこへなりとも付いて参ります。私の、旦那様」



 そう金糸雀の声が聞こえて、次に意識が戻った時、俺は床に座っていた。状況から察するに、腰が抜けたのだろう。

 本当に、ひどすぎる。


 呆然とする俺の頭を、「よくできました」と言わんばかりに撫でてくれる。

 完全に手駒だ。


 彼女がクスクス笑うのが悔しくて、腕を掴んで引っ張ってやった。

 非力な金糸雀が抗えるはずもなく、簡単に倒れてしまう。

 

 ちょうど良いので、そのまま抱き締めた。

 いつもより、もっともっと、何百倍も愛しく感じた。

 金糸雀も同じなのか、強く抱きついてくる。



 今度は頬ではなく、唇に口付けた。



「初めてだね、あやはが口にするの」


 また意地の悪い笑い方をする。

 何でそう、言わなくて良いことを口にするのか。



「悪かったな、今まで腰抜けで」


「今も、腰抜けてるけど?」


「金糸雀!」


「ふふっ」



 

 他の花売りと館主に挨拶を済ませ、俺たちは連れ立って花屋を後にした。



 繋いだ手をぶんぶん振って、彼女は至極御機嫌のようだった。

 泣いたり笑ったりはしゃいだり、忙しいな。


「ねぇ、あやは。こういうのは愛とは違うの?」

「さぁ、どうかな? 金糸雀が本心で俺をどう思ってるか、わからないし」


 さっきの仕返しのつもりで、意地の悪いことを言ってみた。


 金糸雀は、月明かりの下、余裕の笑みを見せる。



 月下美人。


 そんな名前の花を、思い出した。夏の夜に、数時間だけ凛として咲き誇る花。

 今の彼女の姿に、少し似ている。



「そうね、もっと上手くなってほしいかな」


 敢えて「何を」上手くなってほしいのかは言わなかった。

 それが余計に男のプライドを直球で抉る。



「……売り飛ばすぞ」


「できないくせに」



 彼女は、一夜の愛を売る、花屋の稼ぎ頭。


 色恋沙汰で、敵うはずが、ない。





話数がようやく二桁突入です。

更新も遅ければ、話の進行速度も遅く、申し訳ないです(;_;)


今回はちょっと毛色の違う雰囲気となりました。新作の影響か否か……。

少しは「ほのぼの」が出せたかな、と思います。

甘々なのは書いてて恥ずかしいです。彩羽じゃないですが、こういうの柄じゃないっ(>∀<;)


さあ、いよいよ旅立ちの時です。乞うご期待!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ