表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちら異世界管理課  作者: 賽子
第一案件 新人研修実行中
6/6

五 仕事は見て聞いて書いて覚えよう

「だっはっはっはっはっ!俺その現場行きたかった〜絶対笑える」

「笑えませんよあんなの!!」

「美甘ちゃん青い顔してたから何かと心配したけど面白い案件じゃーん………マジでやばいのは笑えもしないから」

「それは、まぁ、そうなんですが」

今回の案件【転生者が不倫していないかの調査】を当人の上空から監視しつつ雑談に花が咲く。

不測の事態があったとは言え奇行で滅びかけた世界での案件を途中から業務を主導出来ていたと評価された美甘、一人立ちの為に他の職員の仕事の同行を命じられ田中ロッソの仕事に同行している。

早速先日の案件について聞かれたので愚痴ってしまったがよくよく考えれば確かに笑って済む案件ではあったと気づいてしまう。

「量と質がエグい仕事とか振られると顔の表情筋が死んでいくなってのが分かります」

「それなー。量が多いだけとか質がエグいだけとかなら笑えてくるんだけど」

先日の仕事だってほぼデキかけているカップルをけしかければそれで済んだがあれを世界中でやれと言われれば二、三日は死んだ目になる自信がある。

「何やってんだ自分ってのはウチに限らずどんな仕事しててもたまに思う事はあるけど、ウチの場合だとさっさと理解の放棄、事態から目を逸らした方が良いって時が多い」

「それって良いんですか……?」

「無理なもんは無理!日本でスーパーマン見たく地面から飛び立つとかどうあがいても無理っしょ?それより分かることを探す方がオススメ。俺らは俺の常識外で仕事してるんだから」

美甘は仕事においてはまず把握が大切だと思っている。全体の仕事量、仕事内容、機器やソフトの仕様、全てとはいかずとも把握出来るところは仕事を始める段階で把握しておく事でスムーズに進めることが出来る。もちろん全部を理解できるはずもなく分からないものも出てくるが理解できる限り理解しておく事で後に繋がる。

実際それで今までは上手くやってきた。それでも終わらせた矢先に投げつけられる仕事、無謀とも言える目標を掲げる会社、理不尽がデフォルトの上司というブラック環境故に何度も辞めたのだが、美甘の根幹となっていたこの考えはこの仕事向きではなさそうだ。

「奇怪な状況でも笑って流せる対応力が必要ですね……」

「美甘ちゃんマジ真面目。ロッソさんを見なさい………こういう自然体でえぇんよ」

まるでリビングでくつろぐように宙に寝転がっている田中ロッソ。異世界においては神と同等の権限と力を与えられる為飛ぶ程度は造作もないことだがここまでリラックスした姿勢を取るのは心情的にも能力的にも美甘には不可能だ。

「私は田中さんのように器用なタイプではないので……」

「まー車の運転と似たようなもんか。慣れないウチはしゃーない。けど心配せんでいい……俺よりやらかす事はそうそう無いからネ!」

笑顔で言う田中ロッソだったが美甘は見逃さなかった。微笑む数秒前の彼の目はかつてうっかりミスで会社の倉庫を崩壊させた同僚と同じ目をしていたのを。

「………廊下飛び出し以外にも何かあったり?」

「発狂するモン見た結果女の幻覚見て婚約申し込んで今生の別れして課に戻って二時間泣き喚いた」

想像するだけでも恐ろしい。先日までは他人事で済んだ事だが今後自分も同じ目に合わない保証はない。

前回限界に達して正気が飛んだ時は叫ぶだけで治まったが場合によっては幼児退行したり自傷行為に走ったり最悪の場合は歪んだ性的嗜好を持つようになることもあるらしい。理解できない状況に対する本能の自己防衛によるものらしいが下手するとあの場で露出狂の癖を得ていた可能性もあるというのが恐ろしい。

「田中さんは色々酷い目に遭っているのにどうしてこの仕事してるんです……?」

「稼ぎが良いのとモテる奴を合法的に殴れるから。俺三人以上の女の子と関係結んだ男転生者に対するリコール担当だから」

「そのリコール案件酷く少なそうなんですけど……」

「結構いるんだなこれが」

「男って……」

「美甘ちゃん、目、目が怖い」

出来れば避けたい事だがどうしても自重できず悪態をついてしまう。美甘にとって男性のそういった移ろいやすい性質は理解出来ないものであった。異世界に行こうとそれは変わりないという事が大きく溜息を付かせるには充分、そして真下で今まさに浮気を疑われている転生者の存在が悪態に更に拍車をかけた。

「人間許されてる事を我慢する必要ないからなー。異世界の時分は大体中世ヨーロッパクラス、転生者はどんな形であれ実力者や権力者になりやすい。そうなったら複数人女の子侍らせても何にも問題ない、むしろ推奨されてる」

「日本で言うと側室、ですね」

「まぁそんなん関係なくハーレムしてる転生者もいるけど。ハーレムしてても人によっては咎めるかもしれんけど罰せられることは無い。カワイイあるいは美人な女の子に好意向けられて無碍に出来る野郎なんざ希少種よ」

納得できないが、今まさに下にいる転生者が帰宅するはずが待ち合わせていたであろう女性と腕を組み歩き始めたところを見るに田中ロッソの言い分が正しいのかもしれない。

「もっとこう……日本人だと嫁に取った女の子一人を大切にする、って人が多いと思ってました……」

「それこそ野郎が女子高に夢見るのと同じ幻想じゃね。転生者の大半は普通の一般人よ、それが主人公の如く力を与えられてフリーにしていいって言われたら、なぁ?」

女子高への幻想、と言われると納得せざるを得ない。かつて居た会社の同期に女子高の現実を伝えた所奇声を上げながら会社を走って出て行ったことを覚えている。彼の中にあった女子高の幻想と自分の固定概念が一緒と言われると尺ではあるが納得せざるを得ない。

「男って……性欲で生きているものなんですね……」

「それ否定できんのは鏑木さんとか課長くらいなもんよ~」

「田中さんもハーレム作りたいタイプですかそうですか」

「答えを聞こうせめて??」

「じゃあどうなんですか。ハーレム、作るんですか?」

「作らん、ってか作れん。素質が悉くそういう事に合わねーのよ」

素質、四宮との会話でも出てきた言葉だ。言葉としての意味は生まれつき持っていて、性格や能力などのもとになるもの。管理課の求人を見つけられたのも美甘自身が管理課向けの何かしらの素質を持っているらしいが自覚は一切ない。

じきに分かる、と言われ四宮から聞いたこと以外は課長に聞いても四宮に聞いても答えてはくれない。その点田中ロッソであれば優しいしもしかすれば少しでも教えてくれるかもしれない。

「……あの、田中さんの持っている素質について教えてもらう事は」

「教えたい所だけど上司二人に止められてるからごめんなー。強いて言うなら四宮さんが俺に当たり強いのは俺らの相性が良すぎるから、なのよ」

「相性がいいのに侮蔑されるんですか……?」

「露骨に距離取ってないと一回凄い事になりかけたから。四宮さんからの罵倒は俺にとって愛の証なんよ……!」

愛の証だとしても日頃「塵芥」だの「有象無象」だの言われるのは辛くないのだろうか、と心配になる美甘だが思い返せば美甘はかなりの美人、もしかすれば美人からの罵倒は男性にとって嬉しいものなのかもしれない。

「おっ、美甘ちゃん。奴さん宿入っていく」

「アウト、ですかね」

「一応透明化して中覗いてくるわ。ヤってたらそのまま戻って報告ー」

「……しかし、依頼主の神様はどうして浮気調査を望んだんでしょうか?」

「浮気した状態で転生者が奥さんと話している所見ると興奮するんだって」

「……神も神、ですねぇ」

「違いねぇわ。んじゃ、少し待っててなー」

一瞬で姿を消し居なくなる田中ロッソ。一人宿の上空で待機しながら、素質について考える。

だがどれだけ考えようとも美甘には生まれ持って何かしら特別な才能なんてものは覚えが一切無い。もし何かしらあればそれを利用し成功とはいかずともブラック企業を転々をする事も無かったのだろう、とどうしても思ってしまうのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ