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インタールード  作者: 箱丸祐介
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3.第一話 二人だけの血のつながらない家族

皆さんお久しぶりです箱丸祐介です、やっとインタールードシリーズの構想と書きたいことを書けるような力がついてきたので思いきって新作にしてしまったアホ作者です。

皆さんにどれだけ見ていただけるかはわかりませんが、今回は自信作ですので興味があれば最後まで読んでいただければ幸いです。

といっても本格的に描くにはまだまだ勉強の時間が足りない気がするのですが、これから週一程度で更新していければいいなと思っているので続きが気になる方はぜひ首を長くして気長にお待ちください。


「これが俺の使う最初で最後の【消滅の力】だ、俺自身の存在を消せば神が人間の世界に手を出す必要も無くなる。そうすれば世界は全部元通り・・・になればいいが」


 息も絶え絶えの男が呟き、周囲一帯が純白な虚無の空間で大柄な男に見守られながら、倒れていた。


「あとの事はお前に任せるよ、もし万が一俺みたいに力の持つ奴が必要な時が来た時の為にこれを残しておく、俺の事は忘れちまうだろうが、頼んだぞ」


 倒れていた男が力の入らないであろう体を無理矢理動かし、ポケットから取り出した小さな小瓶を大柄な男へと渡した。


「これは?」

「俺の分身って言えば正しいのかな、俺と全く同じの別物だ。消滅の対象外になっているから消えることは無いはずだ」

「こんな小瓶に入ってるものがなんの役に立つ?」

「ある程度は成長させてくれ、蓋を開けたら人間と同じ寿命の者が入ってる」

「なぜ、こんなものを?」

「俺なりの罪滅ぼしのつもりだ、それに何にも縛られず人並みの人生を歩めるならたとえ自分とは違う存在でも歩ませてやりたいのさ。そもそもこの体があの偏屈野郎の借り物だしな」


 ほとんど見えなくなっている目で、大柄の男とそばに同じように倒れているブロンド色の髪色をした女性へと目線を向け、聞こえてはいないであろう声を、聞こえていても忘れてしまう言葉を残す。


「結衣奈、お前との約束もクイーンと千聖さんとの約束も。全部、守れずに残して行っちまうのを許してくれとは言わないが、俺自身の綺麗事で世界の為に使わせてもらうよ。だからせめて、お前は幸せになってくれ」


 地を這いながら少しずつ女性へと近づき、手を伸ばした男の手は。女性へと

 届くことは無く光の粒になって消えてしまった。


「これで世界は元通りになるのか。しかしこの胸騒ぎは一体なんなのだ・・・」


 ※


 西暦2000年、東京都新宿を中心にに突如として現れた巨大建造物。

 後に政府の支配下に置かれ【境界都市新宿】と名付けられたその場所は、一般の人間が立ち入りの出来ない場所となった、倒壊しかけのビルと荒れ果てたアスファルトに覆われたその地と共に現れた身元不明の8001人の日本人達は宮殿と共に日本という島国にほんの少しの間不穏な空気を流すことになる。


 その出来事が風化し始め長い時間が経過したある日。


「優牙くん、今日はお母さん迎えに来るの遅いね」

「うん、いつもお父さんがいない分張り切って働いてるからしょうがない!」

「優牙くんは大人だね~」


 都内のとある保育園、他に園児もいない空間で保育士と一人の園児が絵本を読んでいた。


「でも、お母さんどうしたんだろうね、いつもならこんなに遅くなることないのに」

「うん・・・」


 心配そうな表情を浮かべた保育士の表情を見てか、優牙と呼ばれていた園児は絵本から目を逸らし、俯いてしまう。


「せ、先生少し外みてくるね」


 保育士が部屋から出ていこうとドアへ向かうとドタバタと慌てて走っているような音が建物の中に響いた。


「優牙! 遅れてすまない!」


 勢いよく開いたドアの先には、腰下まで伸びる透き通ったブロンド色の髪に夕焼けのようなオレンジ色の瞳、スラっとしたスーツ姿の女性が額に汗を浮かべて息を荒くしていた。


「あ、雪白さん、いまちょうど様子を見ようと思って外に行こうとしてんですよ」

「仕事が思った以上に長引いてしまって、本当に申し訳ありませんでした」

「いえいえ、雪白さんは片親ですしたまにはいいんですよ」

「お母さん、帰ろ!」

「あぁ、そうだね。それじゃあ先生お世話になりました」

「じゃあね優牙くんまた明日」

「バイバイ! 先生!」


 急かされるように、手を引かれ親子は保育園を去って行った。

 母である雪白結衣奈ゆきしら ゆいなの手を引く黒髪の小さな少年、優牙ゆうがの二人きりの家族を取り巻く神の悪戯のような運命は、複雑に絡み合っていた。


 ※


 それから六年後。

 学校からの連絡を受けた結衣奈は焦るように学校へと走っていた。


「失礼します」


 額についた汗をハンカチで拭い、真剣な面持ちで結衣奈は【校長室】と書かれた部屋の戸をノックした。


 内側から開いたドアの先には、普段は温厚な面持ちの校長先生が少し焦ったような心配そうな表情でドアの前に立ち、その先には向かいあった席に座る優牙とクラスメイトらしき女の子、そしてその母親と思われる女性が座っていた。


「遅くなってすみません、優牙の母の雪白結衣奈です」

「あぁ、お母さまお待ちしておりましたよ、事情は軽く電話でお話ししたような感じでして」

「優牙が女の子に手を挙げたという話でしたけど、、、」

「まぁ立ち話もなんですからお座りください」


 校長に導かれるまま椅子に腰かける結衣奈だったが、見たところ優牙も相手の女の子も下を向いたまま俯いてしまっているようだった。

 相手の女の子には目立った怪我は見えないが、呼ばれる程度には大事なのだろうとある程度は察しがついていた。


「優牙君のお母さまが来られたので、改めて事情を話させてもらいますが。他の生徒の目撃情報とちょうど居合わせいた担任の話ですと、休み時間に二人が言い合いになり、結果的に優牙くんがこちらの葛城美香かつらぎ みかちゃんの顔を殴ってしまった、という事なのですが。

 なにぶん当事者の二人が何も話してくれないんですよ」


 反対側に座る美香とその母親の表情を見るが、母親の表情は怒り心頭という感じではなく、怒ってもいい立場なのに穏やかな表情をしていた。


(あっち側は多少口を開いてくれたのだろうか。でも、優牙は誰に似てしまったのか頑固でこういう時は口を開くようなタイプではないし)


「優牙、怒らないからなにがあったのか教えてくれるかい?」


 結衣奈の問いかけに、優牙は何も言わず首を横に振る。


「そうか」


「校長先生、今日はこの辺にしましょう。子供同士の喧嘩ですし、幸いうちの子はケガ1つしてませんから。当人たちが自分で仲直りするのを見守るのも悪い事ではないと思います、一生埋まらない溝が出来る可能性もありますけど」


 意外のような、事情をある程度理解した上での回答か美香の母から解散しようという提案が出た。


「もうそろそろ夕ご飯の買い物に行かないといけませんし。ほら、いくよ美香」

「うんお母さん、優牙、ごめんね」


 美香が振り絞るように出した心のこもった小さな謝罪の言葉。

 状況だけ見れば、美香側に優牙へ対し謝られることはあっても謝る理由は無いように思えるが。


「僕に謝ったってしょうがないだろっ!」

「優牙!」


 その健気な謝罪は、優牙の耳に届いた代わりに心には響かず、逆に怒らせるような形になってしまったのか、美香は驚いて母親の陰に隠れてしまった。


「一緒の場所に居て話してくれるくらいには許してくれてるみたいですね、それじゃ雪白さん、校長先生失礼します」

「葛城さん今日は優牙がご迷惑をおかけして――」

「気にしないでください、小さいときに誰かと真正面からちゃんとぶつかるっていう経験をした方が、いい子に育ちますよきっと」


 謝罪を遮って自分の考えを真正面から話してくれる美香の母に、結衣奈はその姿を少し眩しく感じた。

 軽く一礼して去ってしまった、葛城親子を見送り優牙の手を取った。


「まだ、話してくれる気にはならないかい?」


 落ち着いた声と言葉で問う結衣奈に、優牙はまた小さく頷いた。


「なら、話してくれる気になったら話して欲しい。優牙自身の言葉で優牙の気持ちを」


「それだと困るんですけど」という表情をしている校長の顔が結衣奈の視界には映っていたが、それを承知の上で優しい瞳で優牙を見つめていた。


「それでは校長先生我々も失礼します、詳しい話が聞けたら学校の方へは連絡を入れさせていただきますので」

「そういうことでしたら、明日は土曜日ですし気長に待つとしますかな」

「はい、お願いします。それでは」


 握りしめたままの優牙の手を引き、結衣奈も校長室を後にした。


「優牙、今日の夜ご飯はなにがいい? 早上がりしたから今日はお母さん時間があるから、優雅の食べたいものでいいよ」


 校舎を出て、家へと向かう帰り道。


 閉ざしたままではなく、少しだけでも何かを話してくれればと思い何気ない会話を切り出した結衣奈だったが、未だに優牙の口は堅く閉ざされたまま。


(頑なに言いたくない理由があるのか、それとも何かを恐れているんだろうか。こういう時に父親が居れば、なんていうのは無いものねだりだな)


 優牙の父の事は正直な話、結衣奈ですらほとんどわかっていない。

 記憶から抜け落ちているのか、生まれたばかりだった優牙の事を引き取り母親変わりになって十数年。

 優牙が父親を望んで居ないことはわかっているが、結衣奈自身はあまり自分の気持ちを表に出さない優牙にとっていい母親になれているのか、そうではないのかそれすらもわかっていない。


(今、優牙が何を悩んでいて、何を恐れてるのか全く分からない。今日葛城さんに会って実感してしまったが、私はあまりいい母親ではないのかもしれないな)


「ねぇ、母さん」

「どうした? 優牙」


 恐る恐るといった声のトーンでやっと優牙が口を開いた。


「本当の事を知っても母さんは僕の事嫌いにならない?」

「もちろんだよ、優牙の口から真実を伝えてくれるならどんなことでも受け止めるさ。むしろ後になって人づてに聞く方がお母さんは悲しいな」

「わかった、なら話すよ」


 相変わらず俯いたままの優牙は、ずっと結衣奈から握っていた手を少しだけ強く握り返した。


「最近転校生が来たって話したよね」

「あぁ、少し前にそんなことを言っていたね」

「その子生まれつきの障害で、耳がよく聞こえないらしいんだ」


(先天性難聴か、そういう人が居るのは知ってるけど実際は初めて聞く話だな。私の時代じゃ、そういうのは生まれ時に・・・あれ、どうしてそんな知識があるんだろうか)


「母さん?」

「あ、ごめんごめん少しだけぼーっとしちゃって」

「それでね、僕最近は昼休みとか休み時間は図書室に通ってるんだけど、転校してきて一週間くらいしたときその子がフラフラっと図書室に来たんだ。それから少しだけ話してくうちに仲良くなっていったんだけど」

「優牙は手話も出来たのか!?」

「違うよ、最初はノート使ってたけど今は普通に話してる、相手の子もそこまで手話が分かるわけじゃないらしいから」


 耳があまり聞こえないという事前情報から考えると、《《普通に話している》》という時点で多少矛盾しているように聞こえるのだが、結衣奈は気にせず話を聞き続ける事にした。


「それで、理由はあんまりわからないんだけど美香はそれが気に入らなったみたいで、二週間くらいしてその子の根も葉もない噂がとか立ち始めてさ。聞こえないのをいいことに好き放題言ってたから、見過ごせなくなってきて」


 優牙の声が少しずつ震えてくる。


「それで、今日・・・」

「じゃあ、優牙は自分のためじゃなくてその子の為に怒ったんだね」

「うん。でも、やりすぎたって思った時にはもう美香に拳を振るってて」


 優牙の足が止まり、結衣奈の視線が優牙へ向いたときは全身が震えていた。


「どうして、殴っちゃったんだろう。自分でもわからないんだ」

「そうか、そういう理由ならって言う方がいいのかもしれないが、あんまり暴力を振るうのはお母さんは感心しないな」

「うん、だから。お母さんに嫌われるんじゃないかって思って、言えなかった」

「そうか、それで言いにくかったんだね」


 俯き震える優牙を結衣奈は何も言わずに抱きしめた。


「優牙は強い子だから、これから一人で悩んで生きる事はたくさんあると思う。でも、誰かを傷つけて孤独になる君をお母さんは見たくない。

 だから、優牙の強い力は誰かを守るために使うんだ」

「う、ん、うん」


 結衣奈がかけた言葉の意味を子供ながらに理解した優牙は、大きな声を上げながら母の胸の中で泣いていた。

 優牙にできる事は起きてしまったことを後悔し反省して、子供らしく泣くことだけだった。母である結衣奈にできることは、たった一人の息子をただ抱きしめることで許し癒すことだった。


 二人の家族を包み込むように夕暮れ時の太陽が光を刺す、二人を見守るように。

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