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イタイ-青春厨症候群-  作者: 師走
第一章 青くして死ね
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side:士道歩 2

 午後一時、冨羽高校前、


倫子たちが帰ってしまってから数時間経ち、テレビ局の人は撤収して多少人は少なくなったが、それでも張り込みを続ける記者や、入れ替わり立ち代わり現れる野次馬で相変わらず騒がしかった。


 そんな人混みに私立探偵、士道(しどう)(あゆむ)は松葉杖を付きながら近づいて行った。当然そんな目立つ風体の怪しい男を彼らが見逃すはずもなく、


「冨羽高校の教員の方ですか!?」

「事件について何か一言!」

「あなた本当に関係者ですか?」


 すぐさま士道を取り囲み、多種多様な質問を浴びせる。その状況に舌打ちをし、彼らを睨みつけると、


「邪魔だ。どけ」


 そう一言言い捨てる。

 そのあまりの迫力に記者達は退き、続々と彼に道を譲った。それを受けて士道は歩みを再開する。


「全く、どいつもこいつも」


彼は人の多い場所は心底嫌いだが、目的地がこの人込み先にあるのだから仕方がない。ゆっくりと、しかしスムーズな足取りで校門の前にたどり着く。当然校門は閉め切っているが、彼はその横にあったインターホンを躊躇なく押した。


『どうぞ』


 応対した者は、彼に何者かも確認せずにそう一言言って、学び舎の敷地を跨ぐことを許可した。校門には鍵が掛かっていたが、その横の通用口は鍵がかかっておらず、足の不自由な士道でもすんなり開けることができた。

 背後から報道陣が何か言っているのが聞こえるが、士道は完全にそれを無視して校舎に向かって進む。


「士道さん、お待ちしていました」


 校舎の中に入ると、おそらく教頭と思われる五十代前後の男が玄関口に立っていた。士道が彼に軽い会釈を返すと、彼はにこやかに笑い「こちらです」と、士道を校長室へと案内

した。


 校長室に入ると、優しそうな六十前後のご婦人が士道を待ち構えていた。


「どうぞ。こちらへお座りください」

「失礼します」


 彼女に一礼して、高そうなソファにゆっくりと腰を下ろした。


「あなたが、この学校の校長の安明康江先生ですね」

「はい。本日はご足労いただきありがとうございます」


 丁寧に頭を下げる校長に対して、士道はドライに「仕事ですから」と返す。


「それで、士道さんは自殺の調査を専門とされているとお聞きして、依頼させていただいたのですが、いつもどのようにして調査を行っているのでしょう」


 確かに探偵の中でも自殺の原因調査など行っているのはごく少数だ。勿論士道も専門分野がそれというだけで、浮気調査なんかも依頼を受ければ行うのだが、彼がそういう看板を掲げている以上は、調査方法くらいは依頼人として知っておきたいだろう。この探偵が信用に値するのか審査する意味も含めて。


「特別な事はしていませんよ。基本は聞き込みで死ぬ直前までの足取りを辿る。それから自殺者の周辺状況の調査、それくらいですかね」


 調査方法そのものは普通の探偵と何ら変わらない。ただ一点だけ、普通ではない手段を持っているが。


「とりあえず、今回の依頼は三年二組の生徒の集団自殺の原因調査、これで間違いありませんね?」

「はい」

「では、まずは三年二組の担任教師、その人にお話を聞きたいんですが今こちらにいらっしゃいますか?」

「それなんですが……」


 校長は申し訳なさそうな顔をする。


「担任の森本先生なんですが、事件以降連絡が取れなくて……」

「そうですか。なら、連絡先だけでも教えてください」

「分かりました」


 士道はメモ用紙を一枚破り、それを校長に手渡しメールアドレスを書いて貰う。


「では、他の教員の方に生徒さんについてのお話を聞かせて貰ってもよろしいですか?」

「用意はできています。ちょうど職員室に先生方を集めていますので、順番にこちらにお呼びします」

「ありがとうございます」


 それから教員が順番に呼び出され、一人ずつ知っている限り三年二組の生徒について質問した。

 中には部活の顧問などもおり、部での様子なども聞いたのだが、いずれも最終的に行き着く結論は「自殺の兆候なんてなかった」だ。ただ、全く情報がなかったかといえばそうではない。


「では、三年二組の生徒は全体的に仲が悪かったと」

「はい。まあうちの部内での話ですけど」


 しかし、三年二組の生徒が所属するどの部の顧問も、彼らが不仲だと話すのだ。一様に仲が悪いという訳ではなく、何人かのグループに分かれているうち、そのグループ間の仲が悪いということらしいが、数日前にもわざわざ三年二組の生徒に対してカウンセリングが行われたほど深刻らしい。


「ありがとうございました」


一通り話を聞き終えて士道は席を立つ。それに伴い、教頭が扉の方に先回りして、親切に扉を開けてくれた。その教頭の気遣いに礼をして、廊下を出ようとする。


「そうだ」


 そこで士道は立ち止まり、思い出したように口を開いた。


「確か三十八人の中に、一人だけ亡くなっていない生徒がいましたよね」

「ど、どうしてそれを!?」


 まだ報道すらされていない事実を何故この探偵が知っているのか。そんな二人の困惑の表情を見ても、士道は眉一つ動かさずに平然と返す。


「別に、ただ死んでいるように見えなかっただけです」


 話したところで信用を失うだけだろうから明言はしなかった。校長は今の発言だけでもかなり混乱しているようだったので、士道はそれ以上自分の能力について聞かれないように話を進める。


「彼女にも話を聞きたいので、後日面会の場を設けてください」


 それだけ言い残して、士道は冨羽高校を後にした。

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