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イタイ-青春厨症候群-  作者: 師走
第一章 青くして死ね
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side:林屋 凛子 1

 七月二日、集団自殺から一夜明けた朝、冨羽高校の前には大量の人が集まっていた。


「今回の自殺事件について、学校側はどのような対応を取られるのですか!?」

「親御さんへはどのような説明を!?」


 午前九時と本来なら授業中で静かなはずの時間だが、今は様々なテレビ局のリポーター、新聞や雑誌の記者、さらに見物人と多種多様な人が閉じられた校門の前に集まっている。


 その様子を少し離れた距離で、一人の女性が不貞腐れた様子で見つめていた。


「これじゃ全然取材にならないじゃない」


 腰の位置の高い黄色いスカートで歩道の柵に腰かけ、茶色い楕円型の眼鏡越しに人でごった返す校門にうんざりしたような視線を送る。


「しょうがないっすよ。倫子(りんこ)先輩」

 すると、彼女のところに見知った腑抜け顔が近付いてきた。

茂網(もあみ)君、裏門の様子はどうだった?」

「あっちも人でいっぱいでしたよ。まあどのみち門は閉まってるんで取材は無理でしょうけど」

「こんだけ大騒ぎして出てこないんだし、学校側に取材を受けるつもりはないわね」


 倫子は再び視線を学校の方に移すが、外の喧騒に反して中は相変わらず静かなものだ。電気が付いているので人がいないわけではないだろう。現在は今後の対応を検討するための職員会議中といったところか。

 もちろんここで彼らのように教員が出てくるのを待つという手もあるが、この人だかりではそれも難しい。


「全く、こんな状況でどうやって特ダネ持って来いって言うのよ」


 倫子は自分に指示を出した週刊声旬の編集長の顔を思い浮かべる。そもそもここ二ヵ月の間に起きた連続自殺事件を追わせずに、清純派アイドルのスキャンダルなんてものを追わせたのは彼なのだ。そのせいで出遅れたというのにどうしてその尻拭いを自分がしなければならないのか。そんな鬱憤が彼女の中に溜まっていた。


「ていうか、今更学校に取材しても、きっと他と同じような内容にしかならないと思いますよ?」

「そうよね。他の手を考えないと……」

 彼女はしばらく俯いてウーンと唸る。

「あ、そういえばありますよ一つ」

「何よ」

「実はこの自殺、人為的に引き起こされたんじゃないかって言われてるんすよ」

「人為的って……」


 何をバカなことをと、彼女は後輩の言葉を一蹴しようとする。しかし、彼の口から紡がれた次の言葉にそんな考えは吹き飛んだ。


「何でもこの自殺を予告した奴がいるんすよ」

「は!?」


 後輩の発言に、倫子は驚きを隠せなかった。まさか、いつもボーっとしている彼がそんな重要な情報を掴んでいるなんて思っていなかったからだ。


「いや、自分ネットサーフィンが趣味なんで、それで偶然見つけたんですけど、アノニマスって裏サイトに一連の連続自殺を予告しているやつがいるとか。Oneちゃんねるとかじゃ結構有名っすよ。ちょうど今回の集団自殺のスレも立ってるんで見てみたらどうですか?」

「わ、分かったわ」


 茂網に促されて、彼女は自分のスマホを取り出し検索アプリに『冨羽高校 集団自殺』と打ち込んでみる。すると、検索結果の上から四番目にそれはあった。

 Oneちゃんねるとはネット上の掲示板である。時事ネタからアニメの批評まで、幅広い話題についてスレッドが建てられている。最も、昨今はSNSの普及で下火であるが。


「あった。これね」

『569:名無死さん

とりあえずアノニマスのリンク見つけたから貼っとく

http/www.gakuseisougou.anonymous.urauratouls.com』


 そのリンクをタップして、問題のサイトに飛んでみる。しばらくサイトを閲覧していくうちに、彼女の顔色がどんどん悪くなり、しまいにスマホの電源をそっと落とした。


「どうしたんすか?」

「私、記者やってるからこういうのに慣れてるつもりだったけど、世の中ってまだまだ広いわね」


 その返事に茂網はキョトンとした顔を返すだけだった。この様子では彼はサイトの中身までは見ていないらしい。


「何でもないわ。とにかく、このサイトについての記事をまとめましょう」


 この情報を他のメディアより早く公開すれば、これだけでも十分スクープになるだろう。

 そんなことを考えていた彼女だったが、この数時間後、昼のワイドショーでその事が報道されてしまうことなど知る由もなかった。

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