コドモ以上オトナ未満の私たちへ
カツ…カツ…カツ…
就職活動をはじめたての頃は、小気味よく響くヒールの音がなんだかできる女風でアガるだなんて考えていたのに、今ではもう煩わしいことこの上ない。
新宿駅周辺を歩き回ること、はや20分。
ジリジリと照りつける太陽が、真っ黒なスーツ目掛けて降り注いでくる。
それにしても暑い。
8月も中旬、同級生のほとんどがどこかしらに内定をもらっているこの時期に、まだ一つも内定のない根無草の楓が、スーツで歩き回るにはあまりにも暑く、頭からへそを通って、尾骶骨からつま先を貫いているはずの芯のようなものを、ぽっきりと折ってしまうのには十分すぎるほどの日差しだった。
今日の企業は、駅から徒歩5分で到着するはずなのに。
1ヶ月前に移転した新しいオフィスだと言っていたから、まだマップに反映されていないのだろうか。
ケータイを片手に、先ほども見たような気のするスターバックスの前を横切る。約束の時刻まであと10分。とりあえず手近なロッカーにスーツケースを預け、再びマップと格闘する。会社が位置しているはずのその場所には、先ほど訪れた時にはコンビニが建っていた。
しかしいくら考えても、その近辺にあるとしか考えられない。
楓は暑さでぼーっとしてきた頭を働かせ、先ほど歩いた道をもう一度突き進んだ。
すると今度は、ほんの20分前に訪れた時には気づかなかった、小さな路地を見つけた。”新宿スクエア第二ビル”これだ。
楓は安堵し、手に持っていたジャケットを羽織り、シャツの第一ボタンを閉めた。まだ硬い合皮の就活バッグから、女性向けの雑貨屋で購入したグレーのハンカチを取り出し、額の汗を拭う。
-ーよし…!
小さく息を吐き、都会の空に溶け込んだ大きなビルの正面玄関をくぐった。
この日は、楓にとって初めての対面での最終面接だった。
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