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(^ω^)【ようです】のようです

【切り裂きジャックがふんどし一丁の英国紳士を狙っている】(^ω^)ようです

作者: 日曜日夕



英国紳士(ますらお)たるもの、戦う時はふんどし一丁でなければならないッ!」



 19世紀末、英国最強の男、マスター・ミヤモトの言葉は、ロンドン市内の紳士を"紳士相撲"へと駆り立てた。



 "紳士相撲"──それは、文字通り筋骨隆々の英国紳士がふんどし一丁で殴り合う、紳士のスポーツ。そのルールは単純明快。膝をつくか、15フィートのリングから外に出たら負け。



 ここロンドンの貧困街イーストエンドは、言わずと知れた紳士相撲の本場。

 

 

 街一番のパブでは、力自慢の英国紳士たちが一攫千金のブリティッシュ・ドリームを獲んと毎週のように賭け試合が行われていた。



「そこだぁッ!いけぇッ!」「ぶっ殺しちまえ!」



(^ω^)「うおりゃッ!」



  ('A`)「なんのこれしきッ!」



 人々で溢れかえったパブの喧騒のなか、紳士たちは試合に熱狂していた。

 

 

 今日の対戦カードはテムズ河畔の造船所に勤めるアリーと、ロンドン塔の警備員(ビーフィーター)ジェイムズ。



 両者とも、自他共に認める紳士相撲の猛者であり、これまでの戦績も五分五分。

 

 

 今日こそはどちらが強いかを決めるぞと二人とも息巻いてはいたが、試合はジェイムズの方が終始優勢であった。



(^ω^)「ッ!ここだッ!必殺・ロンドン投げッ!」



  ('A`)「ぐおぉッ!?」



(・∀・)「決まったァ!フィニッシュはジェイムズのロンドン投げ!」



 レフェリーであるパブのマスターがそう宣言すると、観衆はわっと湧き上がった。



 そして、彼らにアピールするように、勝者のジェイムズは自慢の赤褌をパァンと叩いて叫んだ。



(^ω^)「俺が、英国最強だァッ!誰の挑戦でも受けてやるぞぉッ!」



 彼の言葉に会場は大きく沸き、英国紳士達は稀代の名勝負の余韻に浸った。



 彼らは、これから起こる凶悪事件を、予想だにもしていなかった。





    ◇





  ('A`)「切り裂きジャック?ああ、勿論知っているぜ」



 次の日の朝、アリーが街の診療所のベッドで眼を覚ますと、いきなり刑事がズカズカと入ってきて、彼にそう訊ねた。



 "切り裂きジャック"──それは、最近巷を騒がせている、とある人物の通り名であった。



 相撲レスラーばかりを狙い、ふんどしを切り裂いて公衆の面前で恥部を強制露出させ、その場に居る者全員を不幸にする凶悪犯罪者だ。



 事件はロンドンのパブで無差別に起きており、最初の事件から1ヶ月が過ぎ、被害者数は30を超えているにもかかわらず、市警は未だジャックの正体に関する手がかりを掴めていなかった。



  ('A`)「でも、何故俺なんかに訊くんだ?俺はジャックじゃないぜ?」



(゜Д゜)「実は……今日の未明、ジェイムズが襲われたんだ……切り裂きジャックにな」



  ('A`)「なんだってッ!?」



 アリーは狼狽してベッドを大きく揺らした。ジェイムズは何度も戦ってきたライバル、彼の強さは自分が一番知っている。そんな彼が、自分以外の人間に負けるはずはない。そう信じていた。

 

 

 しかし、刑事は神妙な顔で首を横に振り、事件の凄惨な状況をアリーに話した。なんと、襲われたのはジャックだけでなかった。

 

 

 その場にいた相撲レスラー全員のふんどしが、ずたずたにされたという。



(゜Д゜)「全員、ロンドン市病院に緊急搬送されたよ……だが、酷く精神が衰弱していて、誰も口をきくことさえできないんだ」



 それもそのはず、ふんどしは英国紳士の魂に等しい。それを傷つけられるのは、身を裂かれるに等しい苦痛なのだ。



(゜Д゜)「しかし、君だけでも無事でよかった。昨日何があったのか、分かる限り聞かせてもらえないか?」



 アリーは刑事に言われた通り、知っていることを全て話した。そうして、彼は証言するうちに、心の底から、ジャックに対する怒りの炎がメラメラと燃え上がってくるのを感じた。



 ──許せない。自分のライバルを、大切な店を襲った切り裂きジャックめ。今に正体を暴いて、ぶん殴ってやる!



 こうして、アリーは警察とは別に、自分でも事件の調査を独自に行うと決めたのであった。





    ◇





 その日の夜、アリーがいつものパブに行くと、いつもは人でいっぱいの店に殆ど客がいないことに驚いた。



 カウンターに座ってマスターに話をきくと、やはり事件の影響で客足が遠のいているらしい。



  ('A`)「マスターは、無事だったのか?」



(・∀・)「ああ。私は丁度、つまみの買い出しに行っていてね。だが、帰ってきた時には……」



 あんな光景は二度と見たくない。そう言って彼は眉を顰めた。



  ('A`)「くそッ!切り裂きジャックは誰なんだッ!ジェイムズの代わりに俺がぶん殴ってやる!」



 そう言ってグラスで机をたたくアリーに、マスターは諫めるように言った。



(・∀・)「しかし、相手は、君を倒したジェイムズを倒したんだぞ?」



  ('A`)「違うッ!俺は一昨日、造船所で夜勤だったんだ!それで、疲れが溜まって……」



(・∀・)「体調管理も英国紳士の嗜みの一つ。それに、条件はジェイムズだって同じだ。ロンドン塔を守るビーフィーターには、昼も夜も関係ないんだからね」



 彼の言っている事はもっともだった。確かに、昨日の試合は万全の状態でなかったとは言え、ジェイムズにも事情はあっただろう。それに、完璧なコンディションで試合に臨める日など、無いに等しい。



 そして、切り裂きジャックがジェイムズを下したことも、認めたくはないが事実だ。それは、彼が一筋縄ではいかない猛者であることを示していた。



 アリーが反論の言葉に詰まっていると、マスターは深いため息を吐いた。



(・∀・)「ふぅ。それにしても、ウチも商売あがったりだよ。看板の一人が、たかが犯罪者一人にやられちまったんだから」



 これじゃあ試合はできないな。そう言う彼に対し、アリーは席を大振りに立つと、店全体に響く声で叫んだ。



  ('A`)「俺がいるだろッ!?」



 しかし、マスターの反応は冷ややかだった。彼はグラスをふきながら、顎でホールの方を指した。

 

 

 事件のせいでガラガラのホールだ。



(・∀・)「紳士相撲は一人じゃできないだろう?対戦相手が必要だし、もちろん客も要る」



  ('A`)「なら、集めればいい!俺が知り合いのツテを使って!」



 アリーの言葉に、マスターは肩を落としながら笑顔を作った。しかし、その顔にいつものような覇気は無かった。



(・∀・)「ありがとよ……でも、これだけの大事件だ。相撲レスラーをやる奴らなんて……」



 居ないだろうな、という言葉を彼は呑み込んだ。事実、切り裂きジャックが現れてから、新に相撲レスラーになろうという者は見なくなったし、紳士相撲の試合を執り行う店も減っていた。



(・∀・)「事件がこれ以上続くようなら、俺もこの店を畳まないといけないかもな。切り裂きジャックの奴め……英国紳士の魂を鋏でズタズタにするなんて」



 そう言って、酒を取る為に壁を向いた彼の背中は、ひどく小さく見えた。



  ('A`)「マスター……」



 アリーは、そんな彼にかける言葉を見つけられなかった。



 しかし、ロンドンを震撼させた凶悪犯は、この事件を最後にぴたりと現れなくなった。





    ◇





 切り裂きジャックの不可解な行動に、依然頭を悩ませていた市警だったが、数週間後、事件は急展開を見せることになる。



 ある日、イーストエンド地区の巡査がゴミ箱にて、ジャックの正体に繋がる、"あるもの"を発見したのだ。



 新聞記者は素早くそのスクープを取り上げ、その日の夕刊には号外新聞が市中にばらまかれた。

 


 そして、その記事の情報は、アリーが働いているタワーハムレッツの小さな造船所にも、すぐに届いたのだった。



(゜Д゜)「おい!アリー!ニュースはもう知っているかッ!?」



 事件の日以来アリーと親しくしていた刑事は、彼の下に訪ねてくるなりそう言った。



 もちろん、スクープの事はアリーの耳にも既に入っている。しかし、それは彼にとって単なる事実ではなかった。

 

 

 彼は新聞を握りしめながら、呆然とした表情を刑事に向けた。



  ('A`)「……刑事さん。俺、分かってしまいました」



 アリーの口から力無く放たれた衝撃の言葉に、刑事は目をぱちくりさせた。



(゜Д゜)「な、なにがだ?」



  ('A`)「切り裂きジャックの、正体ですよ」





    ◇





 その日の夕方、マスターが開店の準備をしていると、とぼとぼとアリーが店に入ってきた。



(・∀・)「おや、アリー。今日は随分と早いじゃないか、どうしたんだ?」



  ('A`)「いえね。やっと試合相手が見つかったんですよ」



(・∀・)「ほぉっ!そりゃあいい!それで、どこの誰だい?」



 マスターは諸手を挙げて喜んだが、アリーはそんな彼を冷ややかに見つめた。



  ('A`)「もういますよ。ここに」



(・∀・)「?何を言っているんだ。今日は君が一番客だが……」



 困惑するマスターの言葉を遮って、アリーは店の外に響くぐらいの声で叫んだ。



  ('A`)「今日の対戦相手はアンタだ!マスター、いや、切り裂きジャック!!」



 なんと、アリーはマスターを指さして、彼こそが切り裂きジャックであると、そう告げたのだ。



 そして、いきなり突拍子も無いことを言われたマスターは「なにを馬鹿なことを」と挙動不審に笑った。



(・∀・)「そんな証拠、どこにあると言うんだい?」



 と、身体を震わせながら問い返すマスター。しかし、アリーの視線はぶれることなく彼を差し続ける。



  ('A`)「アンタは昨日、俺にこう言ったよな。"切り裂きジャックはふんどしを鋏でズタズタにした"って。おかしいと思わないか?警察でさえ全く手掛かりがつかめていなかったのに、何故アンタが凶器を知っている?」



 アリーの言葉に、首を横に振って返すマスター。彼は鼻を鳴らすと、吐き捨てるようにいった。



(・∀・)「ふん。そんなもの、私が憶測で言っただけだ。図らずとも、私の推理は当たっていたようだがね?」



 そういう彼の手元には、今日の号外新聞が置かれていた。だが、アリーもこれだけで彼を犯人だと決めつけている訳ではない」



  ('A`)「他にも不可解な点はある。この店で起きた事件の後、何故ジャックは姿を消した?」



(・∀・)「さぁ?私が知るはずないだろう?」



  ('A`)「もしかしたら、この事件での犯行は、ジャックにとっても不測のものだったんじゃないか?」



 アリーは誰も居ないホームを腕を組んで歩き回り、やがて、逃げ道を塞ぐように、入り口のドアの前に止まった。



  ('A`)「それまでは証拠一つ残して来なかったジャックが、今回に限って"凶器"という決定的な証拠を残してしまっている」



(・∀・)「それが何だって言うんだ?私が切り裂きジャックである根拠にはならないだろう!」



 それまでアリーの推理を適当に返していたマスターは、遂に堪忍袋の緒が切れたのか、カウンターに腕を叩きつけて憤怒した。



(・∀・)「全く、そんな的外れな推理で私を犯人扱いかッ!?ホームズ気取りもいい加減にしてくれたまえ!」



 しかし、アリーは全く怖じ気づくことなく、毅然と彼を睨みつけて言った。



  ('A`)「いいや、決定的な証拠は、もうすぐここにやって来る!」



(・∀・)「何いッ!?」



 その時だった。扉が勢いよく開き、刑事が一枚の紙切れを掲げながら、パブに入ってきたのだ。



(゜Д゜)「指紋照合の結果が出たぞッ!アリーの言う通りだったなッ!」



(・∀・)「!!……指紋照合ッ!?なんだそれはッ!!」



 マスターが狼狽するのも無理はない。当時、指紋照合は最新の科学捜査技術だったのだ。


 

 個人毎に異なり、生涯変化しない指の腹模様を犯人特定に利用した技術だが、マスターの様な一介の市民に知られたものでは無かった。



(゜Д゜)「鋏に付着していた指紋と、事前に取っていた貴様の指紋が一致した。これは間違いなく、貴様が切り裂きジャックであることを示しているッ!」



  ('A`)「"戦うときはふんどし一丁"だ。当然、手袋なんてつけてないよな?」



 刑事は拳銃を構えると、マスターに銃口を向けて警告の声を上げた。



(゜Д゜)「さぁ、もう言い逃れはできないぞ!このパブの店主、マスター・ミヤモト!」



(・∀・)「ぐッ……」



 完全に追い込まれたマスターは、酷く顔を歪ませて俯いたが、やがて、肩を震わせながら引き笑いをした。



(・∀・)「ふふ……ふははは!」



 彼の一見ふざけた態度に、「何が可笑しい!」と刑事が怒号を上げた。

 

 

 しかし、彼は開き直って態度を翻すと、身に着けている服のボタンをパチンパチンと一つずつ外していく。



(・∀・)「そうだ!私が切り裂きジャックだ!だが、ここで捕まる気など無い!なぜなら……」



 彼が叫んだ瞬間。刑事の視界からマスターの姿が"消えた"。

  

 

 いや、正確には消えたのではない。彼が行ったのは、単純な"すり足"。



 紳士相撲を極めた者のすり足の初速は音速に近く、素人の目には消えて見えるのだ。



 そして、刑事が次に瞬きをした時、彼の衣服は、バラバラに裂かれていた。



(゜Д゜)「ぐああッ!本官の服がぁッ!」



  ('A`)「なにッ!?速いッ!」



 驚愕の光景に目を疑うアリーに対し、マスターはふんどし一丁の姿で、鋏の刃をぎらつかせながら叫んだ。



(・∀・)「なぜなら、私こそが、英国最強の男だからだッ!」



 そう言うと、音速のすり足でアリーの懐に入り込むマスター。

 

 

 今度は彼のふんどしを狙うつもりである。

 

 

 しかし、アリーも相撲レスラーの一人。彼に対抗できるだけの技術・膂力は持ち合わせている。



  ('A`)「なんのッ!」



(・∀・)「せいッ!」



 執拗にふんどしを狙うマスター。

 

 

 そして、いつの間にか赤褌一丁になっているアリー。



 一進一退の攻防が数分間続いた。



(・∀・)「ぐッ……なぜ勝てないッ!」



 しかし、年齢の所為か、早くも息を荒げるマスター。短期決戦を狙っていたようだが、想像以上にアリーの動きが良くなっていたのだ。



 それもそのはず、アリーはマスターの忠告にしっかりと耳を傾け、いつでも紳士相撲に全力を注げるように、数週間前から万全のコンディションを整えていたのだ。



  ('A`)「当たり前だ!俺はここで、日々英国紳士と死闘を繰り広げてきたんだッ!それが、お前のような、紳士の風上にも置けない奴に負ける訳が無いッ!」



(・∀・)「ぐぬぬっ……馬鹿に、するなぁッ!」



 力強く赤褌をパァンと叩くアリーの姿に、何故か激昂したマスターは、遂に持っていた鋏を投げ捨てると、先ほどよりも速いすり足でアリーに組み付いた。



  ('A`)「何ッ!」



 不意を突かれ、がっぷり四つの体勢になる二人。

 

 

 組み付かれ、ふんどしを握られたアリーは、どっしりと安定感のあるマスターの力に驚愕した。



 見た限り齢50を超す壮年の、どこにこれほどの力が眠っているのだろうか。



(・∀・)「鋏を使っていたのは、貴様らのような弱者に、私が本気を出すのも躊躇っただけのことッ!」



  ('A`)「ぐううッ!」



 アリーを投げようと腕に更なる力を込めるマスター。

 

 

 必死で投げられぬよう、足腰に力を溜めるアリーだが、万力のような彼の力に、限界が近づいていた。

 

 

 マスターもそれを分かっているのだろう。勝利を確信した彼は高笑いを挙げて、アリーを煽った。



(・∀・)「ふははッ!貴様も、後でそのふんどしを切り裂いて、ジェイムズと同じように廃人にしてやるよぉッ!」



  ('A`)「ぐッ!こなくそぉッ!」



 二人がぎりぎりの戦いを繰り広げていると、不意に店の外から大きな歓声が聞こえた。



 意識をそちらに向けた二人が見たものは、数十以上は居る群衆。



 そして、彼らの前に仁王立ちするのは、ふんどし一丁の英国紳士(ますらお)たち!



(^ω^)「アリーッ!助けに来たぜッ!」



 当然、ジェイムズもその中に居た!



(・∀・)「なんだとッ!?お前らはあの時、ふんどしをズタズタにしてやったはずッ!」



(^ω^)「ああ、ふんどしを裂かれた時は絶望したよ。ふんどしは英国紳士の魂だからな……」



(^ω^)「だがなッ!英国紳士の魂は、一度裂かれたぐらいじゃ、くたばらねぇんだよッ!」



 当惑するマスターの隙をついて、組み合いを解き、距離を取るアリー。彼は確信していたのだ。必ず、仲間が駆けつけてくれることを。



 マスターは怒りを鎮めるように深呼吸をし、大きく脚を開いて大地を震わす程の四股を踏んだ。

 

 

 そうして仕切りの型を取った彼は、全身全霊を込めて叫んだ。



(・∀・)「だが、雑魚が何人集まろうと無駄よッ!全員また打ち負かしてやる!私が最強なのだ!」



 それに対し、アリーも仕切りの型をとる。紳士相撲における立ち合いの構えだ。



 言葉で表さずとも、分かっていた。これが、最後の組み合いになる。



 アリーもまた全身全霊を込めて叫ぶ。群衆は、固唾を飲んで彼らの立ち合いの末を見守っていた。



  ('A`)「確かにアンタは英国最強かもしれねぇッ!だが、孤高のアンタには分からない事だってあるッ!」



(・∀・)「ふん、戯言よッ!」



 先に仕掛けたのはマスターだった。彼は先ほどのようにアリーのふんどしを掴むと、上手投げで一気に勝負を決めようとした。



 しかし、アリーを掴んだ腕は上がらなかった。アリーの身体は巨大な艦隊の如く重く、力強く、地面に張り付いていた。



  ('A`)「それは、絶対に引き裂かれない仲間の力だッ!いくぞジェイムズッ!」



(^ω^)「おうッ!」



 彼が合図をすると、ジェイムズが素早くマスターの後ろに回り込み、彼の腹回りをがっちりとホールドした。



 一人では勝てなくとも、二人の力を合わせれば勝てる。

 

 

 そう、二人はこの土壇場で、タッグを組むという紳士相撲の歴史の中で前代未聞の行動に出たのだ。



 それは、ずっと一人で戦ってきたマスターには、思いつかない概念であった。



(・∀・)「くそッ!何をするつもりだッ!」



  ('A`)「ずっと俺たちの戦いを見てきたアンタには分かるだろッ!?」



 二人が協力してマスターの身体を天高く逆さまに抱え上げると、群衆は初めて見るその異様な光景に目を疑った。



(^ω^)「受けてみろ、俺たちの新しい必殺技ッ!ロンドン・バスターだッ!」



 ジェイムズはそう叫ぶと、アリーと共に後方に倒れこみ、マスターを投げばした。



 このように投げてしまえば、あのマスターと言えども受け身は取れないだろう。



 固い地面に身体を叩きつけられたマスターは大きな断末魔を上げ、遂に、失神した──



 余りの試合展開に静まり返る群衆だったが、やがて、誰が発したか、昂った声が沈黙を破った。



「勝者はアリーとジェイムズのタッグ・チーム!フィニッシュは二人の新技ロンドン・バスターだァッ!」



 その瞬間、その場に居た人々は、凶悪事件の解決と、その犯人を打ち負かした二人の英雄の誕生に沸きあがり、街はお祭り騒ぎとなった。



 そして、アリーとジェイムズは、再び共に戦えたことを心から喜び、がっちりと固く握手をし、互いを称えた。





    ◇





 結局、切り裂きジャックというのは、マスターが自分の店で紳士相撲の"賭け試合"を独占しようと企んだことに端を発した事件だということが明らかになった。



 他のパブで行われる試合がなくなれば、自分の店に客が流れて来ると踏んだのだそうだ。



(゜Д゜)「しかし、何故貴様は自分の店で犯行を?それじゃあ意味が無いじゃないか」



 ほとぼりが冷めた後、布で身を包んだ刑事がマスターに手錠をかけながら訊ると、彼は眉間に皺を寄せ、ジェイムズを睨んだ。



(・∀・)「原因は……ジェイムズ、お前だよ」



(^ω^)「え?俺が……?何か悪いことでもしたか?」



 全く心当たりが無いと、呑気なジェイムズの表情を見て、彼は歯を食いしばった。怒りと後悔の入り混じった声だ。



(・∀・)「……お前が、英国最強を名乗ったからだ!」



(゜Д゜)「そんな事の為にか!?」



 刑事は、彼の余りに自分勝手な動機を、理解できないと呆れ果てた。

 

 

 しかしアリーは彼の肩を叩くと、それは違うと彼を諫めた。



  ('A`)「いや、最強を謳う奴がいたら、何もかもを捨ててでもブッ倒す。それが英国紳士ってもんだ」



(゜Д゜)「そ、そうなのか?」



 結局、刑事には理解できていないようだったが、アリーは何処か満足げに頷いた。



 一方、ジェイムズは未だ解せない事があるようで、マスターに詰め寄った。



(^ω^)「だがマスター。俺は同時に言ったぜ?"誰の挑戦でも受けてやる"ってな。なのに、なぜこんな卑怯な真似を?」



 そう、真の英国紳士であれば、売られた喧嘩を正々堂々と買ってぶちのめすのが流儀。それは、紳士相撲の創始者マスター・ミヤモトであれば分かっているはずだ。



 マスターは、空を見上げると、ゆっくりと目を閉じ、深く息を吐いた。

 


(・∀・)「俺の心が、弱かっただけだ。あの試合で俺は、お前らがもう俺より強くなっている事を確信していた。だから……負けるのが、怖かったんだ」



 彼がその時放った言葉は本心だった。年齢といった抗えない時間の流れの中で、衰えを感じていた彼の心の迷いが生み出した、彼の闇の顔、それが"切り裂きジャック"だったのだ。



(・∀・)「じゃあな、アリー、ジェイムズ……お前らはもはや"英国最強のタッグ"だ」



 彼は、去り際に二人にそう言うと、刑事に連行されていった。最後に二人が見た、かつて英国最強と云われた男の姿は、年老いて小さくなった、哀れな男の背中だった。




    ◇





 日が暮れ、感傷に浸るアリーにジェイムズがなんとはなしに話しかけた。



(^ω^)「でもよ、これからどうする?もうこの店で試合はできないし、事件のせいで相撲レスラーは俺たちだけになっちまった。最強なんて名ばかりだ」



 途方に暮れるジェイムズに対し、アリーの態度はあっけらかんとしている。その通り、彼には何か考えがあるようで、彼は揚々とジェイムズに自分の思い付きを語った。



  ('A`)「紳士相撲を"ショー"にするんだ。見ただろう?俺たちが必殺技を決めた時の、街のみんなの盛り上がりを!」



 アリーの考えとは、紳士相撲を、英国紳士の中だけのスポーツでは終らせず、ショーとして、女性や子供まで、誰もが楽しめるものに変えようというものだった。



(^ω^)「でも、そんな簡単にいくか?」



 ジェイムズは、そんな彼の突然の思い付きに及び腰だったが、アリーは絶対に成功すると確信していた。



  ('A`)「なに言ってんだ。俺たちは最強なんだぜ」



 アリーは、自慢の赤褌をパァンと叩くと、親指を立てて見せた。



  ('A`)「それに、ダメだったらやり直せばいい。英国紳士の魂は一度敗れた程度じゃくたばらない。だろう?」



 彼の言葉に胸を打たれたジェイムズは、自分の迷いを振り切る様にふんどしを叩いて、白い歯を見せて笑った。



(^ω^)「そうだな!俺たちは、最強の英国紳士(ますらお)だ!」


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― 新着の感想 ―
[良い点] これはまさに紳士の物語と感じました。
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