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9th. love:トライアングル。

 教室に戻る途中、不可思議な行動をとる美緒先輩に会った。マロンで遊んでいるのだと思うんだけど、

「よくできましたですよマロンちゃん!ご褒美のカエルです」

 なんだと……!というか持ち歩いているんですかカエルを?やばい、ツッコミどころが多すぎる!マロン(確か人形だったはずだ)は突然口を大きく開けカエルを飲み込んだ。胴体が丸く膨らむ。というか横切る人たちはなぜ通り過ぎていくんだ?カエルの補食シーンですよ?

「はうっ、見ましたですねりっちゃんくん!」

 振り向いた彼女に見つかってしまった。彼女に背を向けると、

「このまま帰すわけにはいかねーです、マロンちゃん」

 そう叫んでマロンに命令した。ねえそれ絶対人形じゃないでしょ、なんでボクの足に絡みついてきたの、こいつ刺さないよね、大丈夫だよね?ハイソックスごしに締め付けるぬるぬるに背筋が凍る。

「たいした毒じゃないから心配しないでくださいです」

「やっぱりあるんだ!?」

「見てしまったからには仕方ないです、マロンちゃんは実は人形ではないのです」

 一目見た瞬間からそんな予感はしていたんだけどね。あのときよく動かず人形のフリができたなと感心する。

「ちなみに将来はスネークマンショウを私と組むのです。そうでしょう、マロンちゃん」

 マロンちゃんは反応したようにいつの間にか回り込んだ美緒先輩に顔を向けた。ああ、まだ消化し切れてないものがこぶになってて気持ち悪いよう……。まじめに具合が悪くなってきたのでとにかく蛇を足から離してもらった。

「な、何でこんなのを飼っているんですか」

「こんなのとは失礼な。マロンちゃんはこの学校のマスコットなのですよ?」

 嘘だっ、と叫びそうになった。その手前で思いとどまり、いつかそんな話があったような気がした。でも、これは何か違う気がする。

「放し飼いで大丈夫なんですか?」

「まあ脱走したときはそのときです」

 にこやかすぎます美緒先輩!だって動物が苦手な人だって学校にはいるでしょう?それをつっこんでものらりくらりとかわされる。気がつけば予鈴が鳴り、美緒先輩とマロンは教室へ戻ってしまった。

 理解できないことがひとつ増えた。


「ぜーったい納得できません!」

 つん、とそっぽを向く美緒先輩と正対するのはボクと清華さん。放課後、美緒先輩の教室まで出向いたボクたちはこのままボクたちの関係を隠し通すのは無理だと判断して、彼女に全部話すことにした。まあ、納得されないのは承知の上だったけれど顔を真っ赤にして怒られるとは思わなかった。

「だって、お姉様は私だけを見てくれると言ったじゃないですか」

 美緒先輩はずいと清華さんに近づいてじっと彼女を見つめた。両手を胸の前でお祈りをするように組んでいる彼女は、清華さんの前だとすごく饒舌になる。次の瞬間には手を広げて訴えるような仕草をしたりと身振り手振りも大きくなり、芝居がかった感じにもみえる。もちろん自然とそうなってしまうのだと思うのだけれど、演劇部の部長をやっているだけあるなと思った。全身から溢れるパワフルさだ。

「あれは、なんというか、言葉のあや──」

「言葉のあやだなんて今更信じられませんっ!あのときの私を見つめる目はとても透明でした、それを言葉のあやで片付けるだなんて……りっちゃんくん」

 軽く傍観しはじめていた矢先ボクの名前を呼ばれたので驚いて身体が震えた。

「な、なんでしょう」

「戦争です」

 彼女は高らかにそう宣言した。これには清華さんも目をぱちくりさせた。というかさすがに物騒すぎる。これ以上彼女のテンションをあげるわけにもいかないので何とかなだめようとした。

「ボクは美緒先輩と戦うつもりはないし、奪い合ったところで清華さんが喜んでくれると思いますか?」

「私は正直、君と律がそういうことをしているのを見たくないな」

 うにゅう……と口ごもったまま黙り込んでしまった先輩。きっと清華さんの一言が効いたのだろう。わかりましたという彼女はやたら疲れ切ったような表情を見せた。

「では、私は金輪際お姉様に近づいてはいけないということなのでしょうか……」

 それは違うよ、とボクは教えた。みるみるうちに表情が輝きに満ちていく。ほんとに子供みたいな人だな、とボクの頬はゆるんだ。

「じゃあ、こういうのはどうでしょう」

 ぽん、と手を叩いた美緒先輩はボクと清華さんの手を取ってぐっと自分のほうへ引っ張った。三人の身体が密着する。もっとも、清華さんに二人が抱きつくかのような形になってしまったけれど。

「ほんとのことを言えば、お姉様もりっちゃんくんも大好きなのです。だからこれでラブラブです」

思わぬ三角形は綺麗な正三角形のようだ。彼女が満足するまでボクたちはこのままの格好でいた。清華さんと目が合う。困ったように眉尻を下げた笑み。でも、まんざらじゃない、そんな感情がなんとなくだけど伝わってきた。


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