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30th.love:告白

 「──昔の私は男口調で、ぶっきらぼうなやつじゃなかった。どちらかというと女っぽくて、誰かに守られてないと安心できないやつだった。自分主体で動くこともない、まぁ、地味な女という感じだったんだ。高校二年生になって、君たちが入ってきた。そのときは君のことは知らなかったし、真枝君のことも知らなかった。しばらくすると一年生が委員会なり部活動なりを始めるだろう?私は整備委員会に入っていたんだが、そこで初めて真枝君、彼と会ったんだ。仕事が彼とダブることがなぜか多くて、よく一緒に作業していくうちに色々と世間話するようになっていった。結構体格もよかったし、何かと頼りになるところがあってな、親密になるのにあまり時間はかからなかった。私も彼に対して浮ついてしまった部分があったんだろう、だから気を許した。告白は彼からだった。私は断る理由もなかったし、何より好きだったから付き合うことにした。彼はとにかく頼りになって、私の指針になる人だった。彼に心を預けると、彼はその心の広さで受け止めてくれた。私はとても心地がよかったんだ。……でも、それはただの夢だった。付き合いが深くなって、何度かデートを重ねて、私は彼に身体を許した。お互いぎこちのない恋だったが、そこまでは問題もなく進んでいった。そこから歯車の調子がおかしくなっていたことに私は気付かなかったんだ。彼の態度が徐々に怪しいものになっていった。素っ気ない態度を取るようになって、私は最初浮気をしているんじゃないかと疑った。でも、それはなかった。だけど、彼の態度はどんどん悪い方向に進んでいった。そのうち、彼は私に暴力を振るうようになった。いきなり、理由もなくたたく。しかも、人目につかないところを狙って。肌が晒されるところはけして狙わなかった。彼ね、急に煙草を吸うようになってね、その火を腕に押し当ててきたりした。今はだいぶごまかせているけど、へこんじゃったのはどんなことをしても隠しきれない。だから君を試着室に連れて行ったのは間違いだった。あのとき、傷のことを一瞬忘れていたんだ。隠さなければいけなかったのに。……いずれは晒そうと思ってたけど。首を絞めるのがとてもうまいんだよ、どこでそんなの覚えてきたのってぐらい。なんでこんな話、笑いながら、泣きながら語ってるんだろうね。でも彼のやり方だと跡に残らないんだよ、ちゃんと封じる場所がわかっているんだろうね。そんなことをしといて、そのあとで彼ははっとなった顔で、ぼろぼろに涙を流しながら謝り続けるんだよ。俺を許してくれって、すがりついてくるんだよ。私も馬鹿で、そんな彼を嫌いになれなかった。頭おかしいだろ、私を失神させようとする男を好きなままでいるんだよ。私は彼と離れることなんて考えもしなかった。だって、暴力を振るうのは時々で、それ以外ではとても優しく力強い人だったからな。きっと、私は彼に依存してしまっていたんだ。依存じゃない、寄生に近いものがあったと思う。もっとも、そんな関係がいつまでも続くわけがなかった。私はついに病院送りにされてしまった。彼が謹慎していた時期があっただろう?あれは喫煙が見つかったわけじゃなく──彼は学校では決して吸わなかったから──私に暴力を振るったことが原因だった。私が辛いから、大事にはしてほしくないと頭を下げて、事件に発展することはなかった。けれど、そこで二人は終わってしまった。私は空っぽになってしまった。彼を失ったからだとかじゃなくて、単純に私には何もなくなってしまった。家では腫れ物当然に扱われた。意外に家族って冷たいものなんだよ、私を汚れたもの──実際汚れてしまったわけだけど──クズ当然に扱うようになった。なんでだろうね、痛い思いをしたのは私なのにね。文句言われたりはしない。ただ人としてみてくれないだけ。食事も餌も変わらない。ただ何かを与えられて、私はそれを享受するだけ。そんな暮らし、逃げたくなるでしょ?結局親戚の家に一時的に預けられることになった。ちょうど叔父さんが武道家でね、色々武術から精神の鍛錬から色々教わった。空っぽなら、違うもので満たさなくてはいけない。枯れたままでいるのはよくないって叔父さんから教わった。厳しい人だったけど、決して暴力や暴言に訴えようとしなかった。性格が変わった私を見てやっと両親は私と向き合ってくれるようになった。ただ、男としての優しさ──あの肌の感触とか、安っぽい言葉──には拒絶反応を起こすようになった。学校でふと優しくしてもらっただけで、私はトイレに駆け込んで吐いた。君は外見上女性だし、思考も女性寄りだったから平気だった。再会してからの真枝君は気を遣ってぶっきらぼうに接してくれたし……勘違いしないでくれ、今はもうあんな思いはごめんだ。昔の自分とは違うんだから。でも、君が男として肌に触れてから息苦しくなって、ついに耐えられなくなった。発狂するしかなかった。拒絶するしかなかった。もう、私はダメなんだ。君が男として優しく接してくる度、私はトイレに行って食べたばかりものを吐き出す。本当はこんなこと言いたくはなかった。だって本当はまだ──。でも、身体がこういう反応を示す以上、君は私にとって足かせにしかならないんだ。君は私のために鬼になれるか?鬼になって、それでも私を愛せるのか?……君がどうするかはまかせる、けど忘れないで。君が優しく接する度、私は吐き続けなきゃいけないんだってことを」

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