29th.love:告白(Intro)
昼休み、中庭で一人食事をとる女生徒に声をかけた。
「隣、空いてますか?」
彼女はボクを一瞥すると溜め息混じりに食事に戻った。
「……勝手にしろ」
ボクはベンチに腰掛けると、戦利品であるカツサンドを口にした。雨は午前中には上がっていて、ベンチも乾いていたようだ。第一そうじゃなかったら女子はここに座らないと思う。ボクは清華さんに適当にな話を振る。当然答えなんか返ってこない。それでよかった。今はゆっくり、関係を構築し直していくほかない。今までの関係は壊れてしまったのだから、新しく作るのが今のところ近道だと思った。
最初なんか相手にされないどころか逃げられてしまった。ただ、この場所が気に入っているのだろう、ボクがここを覗くとだいたい彼女がいた。お互い学習しないもの同士だな、と心の中で苦笑した。いちいち逃げ回るのが面倒になったんだろう、そのうちベンチを離れることはなくなった。
この日もボクは彼女と食事だけをとって、席を立った。明日もきっと、ここに来るだろう。明日は話を切り出してみよう。いいかげん話題もなくなったし。……結構案配は適当だった。そんなに悲観的な状況ではないことは確かだったから。これからボクは彼女のことを聞かなければいけない。それを知って、ボクが耐えられるかどうかだ。つけなければいけないけじめはいくらでもあるんだ。
そして、次の日、ボクはタイミングを見定めて、話を切り出した。
「真枝純平と清華さんの間に、何があったんですか」
いつかは訊いてくることを、彼女だってわかってたはずだ。ボクだっていつまでも、何もわからずじまいにしたくはないのだ。彼女の横顔は、彼女と知り合ってから一番悲しそうな顔をしていた。遠くを見つめる瞳が、焦点を結ばない。唇を軽く噛むのは言いづらいというより言葉を選んでいるときの癖だった。ボクは彼女の返事を待つ。断られてもかまわない。時間はまだある。ただ、一歩を踏み出さなければいけないだけだ。
「話せば、長くなるんだ……放課後、屋上にきてくれないか」
ボクの覚悟はとっくのとうに決まっていた。彼らにどんな関係があろうと、そのすべてを受け入れる。その意志に、揺らぎなんてものはない。ボクは有意義だけど退屈な授業を受けながら放課後までをなんとかやり過ごした。
屋上までの階段は自分の教室からはすぐのはずなのに、いやに遠く感じられた。緊張からくる胸の高鳴りは押さえようがなかった。なんてことはないんだ、と自分に言い聞かせて階段を進んでいく。扉を開け、彼女の姿を探す。梅雨の中休みに入ったようで、空は綺麗な茜色をたたえていた。その日が逆光になる位置に彼女はいた。フェンスにもたれかかって、缶コーヒーを飲んでいる。ボクは彼女に声をかけ、彼女の元まで歩いた。
「私は、元々こんな冷たい性格じゃなかったんだよ」
彼女は、昔話をそう切り出した。