表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/43

20th. love:試着室にて

「ぼ、ボクここで待ってます」

 不服だろう、唇を尖らせる清華さん。恥ずかしいから勘弁して欲しいボク。二人に割り込んできたのは笑顔の素敵なメガネの店員さんだった。

「初めてですかぁ?それだと恥ずかしいですよねー、でもご安心ください。私たちスタッフがサポートさせていただきますっ」

 高価そうな白のスーツにタイトスカートの彼女に背中を押され、結局店内へ入ってしまった。いや、むしろこれを機に慣れておいた方がいいのかもしれない。いざ、ランジェリーショップへ。

 白の照明が商品に映える。ボクの目を気にもせず、清華さんは下着を手に取ったりブラを胸のところに当ててボクに似合うかどうか訊いてきた。そんなのうまく答えられるわけがない。でもシンプルな方が彼女には似合うと思ったのでそれは忠告しておいた。

 視線を違うところにむける。女性客が数人の他に、カップルのお客さんもいた。男の人はもっぱら視線をいろんなところにさまよわせていた。ちゃんと見なさいよとふくれる女の人。その光景がほほえましい。

「お客様、お気に召す商品はございましたか」

 驚いて後ろを振り向くとさっきの店員さんが、メジャーを持って立っていた。今日は清華さんについてきただけと伝える。せめてサイズを測っておくことを勧めてくる。サイズと言われても、これはパッドだから測ってもしょうがない。けどなんか引き下がりそうもなかったので素直に測ってもらうこととにした。

 ……。うん、なんだろう、この虚しさは。Bカップと言われたところで何の感動も起きないんだよね。清華さんはもう違うところに行ってるし。ボクはとりあえず礼を言って店員さんから離れた。

 何着か下着を持った彼女は試着室へ行ってくると告げた。それを見送ろうとすると清華さんの足が止まった。

「いやいや、君もきなさいよ」

 はい。──はい?腕を引っ張られるボクは抵抗もできずに連行されていく。誰かこの暴挙を止めてください。女の子同士でもそこまでしないでしょ、普通……!

 一般的な洋服店のそれより広めにとられた試着室。カーテンは全身を隠すようになっていて、向こうからこちらの様子はうかがえないようになっていた。……ちょっとした密室だ。

「少し後ろを向いていてくれ、さすがに素肌を晒すのは恥ずかしい」

 言われなくても後ろを向いていた。衣擦れと小さく漏れる彼女の声。視覚がないぶん、その音は余計強調されて聞こえた。ボクは素数を数えながら(途中で偶数を数えていることに気付いた)彼女が着替え終わるまで待った。

「よし、こっちを見てもいいぞ」

 いやいやいや。着替えたといっても下着姿じゃないか。やっぱりボクは振り向けない。そんなボクに彼女は溜め息一つ。

「ほれ、どうだ」

 ボクの肩を持って強引に振り向かせた。何ですかその握力は。結局彼女の下着姿を拝むことになってしまった。

 淡いピンクのブラ、胸元には花の模様があしらわれている。視線を下に動かしたのは間違いだった。下も肌着一枚で、ブラに合わせるように──おそらくワンセットなんだろう──同じデザインのショーツを穿いていた。素肌はなまめかしいというより健康的な肌色といった感じだった。

「意外にじろじろ見られると……恥ずかしいものだな」

 少しばかり清華さんの頬が赤い。ボクはごまかすように視線をさまよわせる。その内、腕に小さな痣を見つけた。どうしたのか尋ねると、彼女はそれを片方の腕で隠し、苦笑いした。

「体育の時間にな、怪我をしてしまったんだ」

 たいした傷じゃないらしい。ボクはそれ以上気にしないようにすると、それよりも腕で胸が強調されていることに気がついてしまった。意外にがっかりじゃないかもしれない。ってなにやましいことを考えているんだボクは。

「さて、違うのも試してみようかな、……ほれ」

 後ろを振り向くように指示される。それからはさっきのくりかえしだった。正直どれが一番似合うだなんて分からない。ボクにそういうセンスはないし、あっても困る。ボクは無難なコメントを彼女が怒らない程度につけていった。どれも着こなせてしまう彼女。派手なものは似合わなかったけど、黒や紫のようなきわどいものでも彼女にかかれば大人っぽさを強調してくれる。

 次第に彼女の下着姿にも慣れていった。恥ずかしさというものはそれなりに薄れていくものらしい。彼女は最後の下着に手をかけた。

 後ろを向いている途中、衣擦れの音が止まる。う、と小さいうめきが聞こえた。ボクは後ろを向いたまま尋ねる。

「いっ、痛い」

 あまりにも苦しそうだったので、ボクは焦って振り返った。彼女はショーツをはきかけのところだった。どうやら足の指がつってしまったらしい。……いや、ちょっと待って。足下より上を見ちゃいけないんじゃないか?

「絶対顔を上げるなよ!」

 怒号が響く。その声自体に反応してしまってボクは視線をあげてしまった。……言葉にできません。下手に言えば殺されます。

「〜〜〜〜〜〜っ!」

 その前に、ボクがまずい。今更どこに目をやれというんだ。いや、それは大事な部分からは目を伏せたよ。だけど顔は見られない。絶対に。なるべく違う想像をするんだ、何というか、富良野高原の大自然みたいな。もう、いいぞと言われて顔を上げる。って

「うわあっ」

「おおっ、しまった」

 なんでブラしてないんですか!見てしまった。ホテルの浴室で邂逅したときは湯煙でよく見えなかったけど、今回はそれはもう。彼女の叫びと同時にボクの意識は吹っ飛んでいった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ