15th. love:繋ぐ手
例の如く、ボクたち三人を見て純平が悪態を吐いた。
「ちっ、俺だけ仲間はずれかよ」
「美緒と手を繋ぎたいのですか?」
空いている手を彼に差し出す。彼は腕を組んで、それを拒んだ。
「別にそんなんじゃねーよ」
彼が意固地になると美緒先輩もなぜか意固地になる。ボクの手から離れ、ぐい、と純平へ手を差し出す。
「なんだよ、これ」
「繋ぎたいんでしょう?美緒、そういうのよくわかるです。なめやがるなー! です。」
いや別になめてはねぇけどよ、とつぶやく彼からはもう怒気が抜けていた。美緒の小さな手を取る大きな純平の手。アンバランスな二人だけど、どこかほほえましくもある。少しの時間が経って、ふりほどくように彼女の手が離れる。
「うぉ!?」
「美緒は何か重要なことを忘れているような気がするです!覚えてますかりっちゃんくん」
覚えているも何も、忘れているのは美緒先輩だけだったような気がするんだけど。猫を探しにきたことを告げる。ぽむ、と手のひらを打ち、純平に訊き直す。
「あの泥棒猫はどこいったですか?」
彼女の口癖が段々子供っぽいってレベルじゃなくなってきたんですけどどうでしょうか。しかも泥棒猫ってちょっと意味が違うような……。
「美緒ちんと漫才してたら忘れちまったよ……」
夫婦漫才ですね、とツッコんだら二人に怒鳴られた。そんな本気で否定しなくてもいいじゃない。
「でも確かにこっちへきたんだよ、すぐに見失っちまったけどな」
玄関周辺はまだ誰も探していない場所だったので、みんなで手分けして探すことにした。一人で探し回っているよりも心強い。玄関から校門まではたいした距離もない。コンクリートで舗装されたそこは車を校舎側、校門側と四台ずつ停められるスペースがあって、教職員がそこを利用している。今は二、三台停まっていた。
あとは花壇と植樹された木々が校門を沿うように設置されている。猫が隠れるとしたらそこか車の下ぐらいだと思う。ボクは中庭でしていた要領で隅から捜索に当たっていった。数十分捜索したけど、それらしい姿は見あたらなかった。少しずつ、気がつかないうちに日が傾きはじめていた。
さすがに外を探索するのはためらった。そこまでの時間はボクたちにはなかった。それに追い打ちをかけるように美緒先輩が細い声を出した。
「ありがとうです、みなさん。美緒のためにここまでしてくれて……あとは、自分で探してみます」
表情こそ微笑んではいたけれど、ボクはそうとは取れなかった。でも、手伝えないことがもどかしい。結局、今日はしおりを見つけられないままお開きとなった。それぞれ、荷物を持って校門を出る。美緒先輩が小さく、手を振った。
清華さんとも用があるとすぐに別れた。純平と下校するのは久しぶりだ。彼は朝も放課後も部活をやっているから、一緒に登下校するのはこういう午後休校のときぐらいなものだった。遠い目をする彼は、何か考え事をしているようだ。やがて手のひらを打ち、いきなり訳のわからないことを言い出した。
「俺たち、カップルに見えるか……?」
カップルに見られたいんですか?身なりは女子だけど身体は立派な男なボクと付き合いたいんですか?
「いや、それは想像すら勘弁だ」
ですよねー。でも、よく考えれば見た目でしか判断しようがない人たちにとって見れば、ボクたちはそのように見えるのだろうと思った。
「そういえば、菜月先輩とはうまくやってんのか?」
どう答えたらいいものかと思ったけど、素直に頷いた。夜の逢瀬も相変わらず続いていたし、大きな展開がないかわりに大きなトラブルもなく順調に続いていた。ボクの簡単な話を聞くとそうか、と短い答えが戻ってくる。それっきり彼女との話題が出ることはなかった。ずっと違和感だけが残る。それ以上のことは、やっぱり、いまだに訊けるとは思えなかった。