13th. love:なくしもの
清華さんがボクの姿を見つけると胸を撫で下ろしたような柔らかな困り顔になった。でもすぐに表情が固まる。なぜ純平と目が合うだけでこうなるのかわからない。純平は小さく息を吐いて、頭をかいた。
「こないだは、律をもってっちゃって、すんません」
清華さんはその言葉に少し頬を歪め、けれどすぐに目を伏せた。
「いや、気にしてない」
「でも、一応」
お互いに関係をよくしようとしているような気遣いが見えた。でもどんな関係だったんだろうか?今は訊けずにいるけど、いつか知るような気がする。それよりも、と純平が話を切り替えた。
「美緒ちん、なんかあったんすか?」
「いや、それがな」
簡単に説明を聞く。二人は図書館で本を読んでいたという。そこに一匹のネコが現れて、美緒先輩が愛用していたしおりを盗んで逃げていってしまったらしい。美緒先輩も色々と説明を補足していったがしゃくり上げたり鼻をすすったりとで何を言っているのかよくわからない状態だった。
まず、美緒先輩に泣きやんでもらうことが先決だった。大柄な男が行っても余計怖がるだけだし、ということでボクが対応することになった。しかし、清華さんでも泣きやませられないのに、いったいどんな魔法を使えばいいんだ?
「美緒先輩、とりあえず落ち着いてください」
そう言いながら、頭をなでてやる。ゆっくり、できるだけ優しく。しゃくり上げる肩が段々落ち着いてくる。涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔をハンカチで拭ってやる。
「ボクたちが、絶対見つけてあげますから、安心してください」
二人は頷いてみせる。ね、と美緒先輩にまなざしを向けると、今度は抱きつかれた。すごい勢いで、背中から倒される。痛みがあって、目を細める。すぐに目を開けると、
──近い。
熱で真っ赤になった頬に潤んだ瞳がすぐ目の前にある。このままの体勢でいるわけにもいかないのでどいてもらうように言う。あわてた先輩がボクからどけてなぜか隣で正座になった。取り乱してすみません、と小さな声。ふと視線をあげると鼻を押さえる清華さんとあっちの方を向いて固まった純平がいた。
「二人とも、ボクたちでよからぬ妄想をしてはいませんよね?」
手をぶんぶんと振り否定する二人。ボクは不審に思いながら急に空腹を覚えた。
「えっと、早く捜索しなきゃいけないんだけど、ボクおなか減っちゃって……」
とりあえず、食堂へ行こうと清華さんが促す。