第6話 優勝 楽器 鵜飼
椅子は無事に完成した。
今日はどーれーにーしーよーおーかーなー・・・これっ!
護衛だ。
「魚釣りにいきますので、その間の護衛をお願いします。」
「魚釣り?」
護衛を必要とする魚釣りとは、だいぶ気合いが入った話だ。
普通は、川釣りなら安全な場所で、海釣りなら漁船に乗って、という事になる。
護衛が必要ということは、前世でいう沢釣りみたいな、秘境に突入して釣る感じだろう。海岸の岩場から釣る可能性もあるが、それは地形的な困難もあるので、依頼の難易度が高くなる。今の俺の冒険者ランクでは受けられない。
「実は、食用の魚ではなくて、楽器に加工する素材になる魚を取りに行くんです。」
三味線の表面に蛇革を使うみたいな事だろうか?
それとも、太鼓の革みたいな?
まあ、楽器演奏の趣味はないから、あんまり知らないし、興味もないが。
「いい素材が手に入るといいですね。」
「ありがとうございます。
まずは、魚釣りに使う鳥を迎えにいきましょう。」
「鳥?
水鳥に魚を取らせて、吐き出させるみたいな?」
鵜飼のイメージだ。
「そうです!
よくご存じですね。すごくマイナーな漁法なんですが。」
「他のやり方を思い付かなかっただけです。
魚を取る鳥がいることは知ってましたから。」
そっから鵜匠(仮)のマシンガントークが始まった。
下手に火をつけてしまったようだ。
しょうがないので、付き合って聞くしかない。
「ここです。
それじゃあ、僕は魚釣るので、護衛をお願いします。」
鳥を連れて、川に到着。
狙う魚も、そのための鳥も、実は魔物の一種という。
まあ、楽器の素材になる時点で、モンスター狩るゲームみたいなノリだろうと思ったよ。異世界の定番だし。
「分かりました。護衛はお任せください。
魚釣り頑張ってくだs・・・えええええ!?」
鳥がなんか凄い勢いで魚とりまくってる!
まるで、肉を見つけたピラニアだ。
鵜飼みたいなおとなしい漁法ではなかった。
鳥の下側のクチバシが、どんどん膨らんでいく。
なんか、あんな感じの鳥がいたな。ペリカンだっけ?
「おっと、こっちも食いついてきたか。」
陸から魔物が迫っている。
探知魔法とかは使えないが、身体強化で聴力を強化してやれば、かなり広い範囲から音を拾える。魔物と人間と馬ぐらいは、足音で判別できる。
あんまり近づかれると依頼人が不安になりかねない。投石で対応しよう。
ぽいぽいぽいっと。
命中すれば吹き飛び、命中しなくても近くに着弾すれば地面が爆発したように吹き飛んで小石やら土やらが破片手榴弾のように飛び散るので、魔物はあっさり片付いた。
でも、もうちょっと制球力をつけたいな。そのうち投擲の練習でもするか。小石やボールなら適当に投げても何とかなるが、ナイフとか槍とかだとまた違ってくる。それに、岩とか丸太とか、両手で抱えるサイズだと、それもまた投げ方が違う。そんなサイズだと普通は持ち上がらないだろうが、俺なら関係ない。
「ありがとうございました。」
夕方まで続けて、大量の魚をとった依頼人とともに街へ帰る。
俺のほうは魔物をいくつか倒したが、素材として使えそうな部分がないほどバラバラに吹き飛んでいるので放置することにした。
手加減して投げる訓練も必要だ。
「いい素材が手に入りましたか?」
「はい。おかげで優勝できそうです。」
「優勝?」
「楽器作りのコンテストがあるんですよ。
品評会というか、その場で即売会になって、上位入賞すると高く売れるんです。」
「なるほど。」
そんなイベントがあるのか。
お祭り気分で行けば楽しいかも知れない。
しかし、素材がいいだけで優勝するのは無理だろう。この依頼人、楽器作りの腕前はすごいという事か。ただの釣りバカではなかったらしい。
うっかり、第5話が「第4話」になっていたので、そのあおりを受けて修正。