第5話 椅子 友達 巨人
結局、心臓の絵が書いてある本とか、ただの噂だったね。
今日から新しい話だよ。
前回、邸宅の修理をした親方から、また依頼が出ていた。
「お前か! よかった! 助かった!」
「親方、どうしたんです?」
「椅子を作るんだが、手伝ってくれ。」
「椅子・・・?」
すぐ作業場につれていかれて、椅子の材料だと渡されたのは、前回同様の材木だった。柱にするようなやつである。
「え? 椅子ですよね?」
「ああ、椅子だ。
巨人の、な。」
そんなわけで、人間の家ぐらい大きい椅子を作るらしい。
なるほど、それで家具屋じゃなくて大工の仕事なのか。
「前に見た材木とは別の木ですか?」
「分かるか?
家の柱は屋根が乗るだけだが、拠出椅子となると、巨人が乗るからな。かかる重みが全然違うんだよ。」
さもありなん、だ。
ということは、家の柱に使うより頑丈な木材なのだろう。
「じゃあ、とっとと作るか!」
家サイズの椅子を作った。
まあ、俺は指示される通りに材木を運んだり持ったままじっとして作業が終るまで動かさないようにしたりするだけの仕事だけど。
「てか、巨人用の椅子って、巨人の家具職人が作ればいいんじゃないかと思うんですけど、そこは親方のほうが腕がいいとか、そーゆー事ですか?」
「いや、単純に道具の問題だ。
たとえば、巨人が使うサイズのノコギリを作るとするだろ? そうすると、バカデカイ鉄板の端をギザギザにしてノコギリにするわけだ。ノコギリなんて、よく曲がるだろ? バネみたいに。」
「ああ・・・。」
察した。
巨人のノコギリは、つまり、グニャグニャ曲がってしまうから、まっすぐ切れないわけだ。かといってノコギリの厚みを増やすと、材木のロスが多くなる。ノコギリは材木を削って切断するから、ノコギリの厚みの分だけ材木は無駄に削れて失われる。
塵も積もればってやつで、森林破壊になるから、ロスが少ない種族に頼んでいると。なかなかエコな種族らしい。
「それに、友達だしな。」
自分にできる事はやってやりたい、と親方は言う。
身長150cmぐらいの親方と、推定10mサイズの巨人が、どうやって知り合ったとだろうか?
「あれ? 親方、それって・・・。」
日本の宮大工がやる、凹凸で木と木をつなぐ、釘を使わない技法。
椅子の足を作るのに、材木1本では細すぎるのか、数本の材木を合体させている。
「すごい技術ですね!」
「分かるか。」
凹凸をうまく合わせるには、凹と凸を寸分違わず加工する腕前が必要だ。
前世でテレビで見た。
釘で固定するより頑丈になるらしい。
「ヤバいっス!
そんだけ精密に加工できたら、もうなんでも作れるじゃないですか。
彫刻とかも作るんですか?」
「彫刻は作らねえな。
まあ、やってみたら、そこそこ出来るとは思うが。」
「芸術性より実用性ですか。」
「まあな。
つい、使う人のことを考えちまう。
芸術家は、自分の中にあるもんを表現する仕事だろ? 俺にゃ無理だわ。」
なるほど、としか言えない。
ただ、実用性をとことん追求した先には、謎の芸術性が出てくるものだ。刀剣や銃砲なんかは、まさにそう。使いもしないのにコレクションするやつも居るくらいだ。
職人の仕事は、見ているだけでも気持ちいい。
そいて今日も気づいたら夕方になっていた。
うっかり「第4話」になっていた事に気づいたので修正。