第4話 家主やべぇ
冒険者なんてサラリーマン。と軽くテンション下がりながら、初仕事。
大工の手伝いで向かった先は、邸宅(跡地)。
家主が「心臓の絵が描いてある謎の本」を研究していて、すでに10回以上こうなった(屋敷ぶっこわれ)らしい。
噂では悪魔が封印されている本だとか。ほんとかよ? まあ、ファンタジーな世界だし、そういう事もあるかもね。
そんなわけで、作者が何も考えずに適当に撒き散らかした伏線を回収していくよ。俺って働き者だなぁ。
「とりあえず、材木足りねーわ。」
「取ってきます。」
親方の予想以上にぶっ壊れてたらしいので、追加の材木を運んでくることにした。
今日の仕事は、これだからね。大工の手伝い。
「取ってくるって・・・おい、誰かついていってやれ。」
1人じゃ運べないと思ったのか、親方が指示を飛ばした。
場所を覚えるのが先ってことで、ここまでまだ仕事らしい仕事してないからな、俺。
あ、でも考えてみたら、筋力を強化するのは初めてかも。
まあ、やってみたら、なんとかなるっしょ。
「よっこいしょー!」
ほら、持ち上がった。
「えええええー!?」
「何本いっぺんに持ってんだ、お前!?」
あるだけ全部だけど?
さて、持ってくか。
持ってったら、居残ってた大工の方々にとてもビックリされた。
反省はしていない。
「まあ、とにかく、これで仕事にかかれる。
やるぞ、お前ら!」
「「へい、親方!」」
大工の皆さんが、てきぱきと邸宅を直していく。
そのな中で1人だけ、俺について回って、あれをこっちへ運べとか、これをそっちに運べとか、指示するだけの人がいた。
どうやら自分たちで運ぶより早いと理解したらしい。
そのまま忙しく指示通りに材木を運んでいたら、いつの間にか夕方になっていた。
「お疲れ。
まさか、1日で終わるとはな。
お前さんのおかげで早かったぜ。」
跡地だった邸宅が、今日1日で元通りだ。
いや、元の形をしらんけども。
そんなわけで、親方は上機嫌である。
「皆さんの腕がいいからっス。
俺は、力はあっても、知識とか経験とかないっスから、指示が巧かったおかげで、俺もうまく動けたと思うっス。」
今日1日、指示を聞きながら動いたせいで、喋り方がうつってしまった。
「よし、飲みに行くか!」
親方はますます上機嫌だ。
酒はあんまり好きじゃないが、付き合うか。またいつか世話になるかもしれないし。
そんなわけで酒場。
「いやあ、まさか1日で直してくれるなんてね!」
家主が来ていた。
ちなみに上機嫌である。
酔った勢いで本について聞いてみることにした。
「悪魔なんて封印されてないよ。
魔法の使い方が書いてあるだけだね。
まあ、それを試して失敗して家を壊すんだけど。」
つまり、本に悪魔が封印されているという噂は、家主の奇行のせいだった。
「家の外でためせばいいのに。」
「だって、面倒くさいじゃん。」
まあ、確かにただ家から出ればいいというわけではない。
隣の家をぶっ壊すのは困る。
だから、町の外まで出ないとダメだ。
徒歩30分。たしかに面倒といえば面倒か。
「でも、それで無駄に金がかかるのは、どうなの?
とか言われないんですか?」
「言われる。」
「分かってもらえないですよね。」
「おっ!? 分かる!?」
家主が食いついてきた。
人生で最も価値があるのは、時間だ。誰でも、残りの人生の中で、今日が一番若い日である。残された時間をより多く使おうとするなら、金で買うしかない。つまり、たとえば人を雇って仕事を任せるとか。
で、この家主は、町の外まで出ていく時間を惜しんで、家をぶっ壊す。家はまた買えばいいから。
だいたい、毎回ぶっ壊すわけでもないのだろう。もし毎回ぶっ壊すなら、町の外に出ていきやすい場所に引っ越すはずだ。
「そう! まさにそうなんだよ!」
家主のテンション爆上がり。
誰にも理解されなかった事が、ようやく理解されて嬉しいのは分かるが。
「とりあえず、テーブルから降りようか。」
酒場のテーブルに乗るとか、マナー悪い。
身を乗り出すにも程がある。
ヤバいぐらいアホな家主だと思う。
でも、物語の登場人物としては、わりとよくあるパターン?