第2話 やる事がない
はい、あっという間に15年が経ちました。
いやぁ、言語習得のプロセスとか聞いても面白くないっしょ? 割と短時間で覚えたとはいっても、やってる事は俺に話しかける両親が、何かを指さして何か言うのをひたすら聞き取ってまねして発音するだけっていう地味な作業だからさ。
まあ、そんなわけで、無事に日本語と異世界言語のバイリンガルになりましたとさ。
「おい、ジャイロ。訓練するぞ。」
「すぐ行くよ。そろそろ父ちゃんから1本とりたい。」
「まだまだ負けてやらん。」
「ちぇー。」
元冒険者で戦士の父親。
剣術だけでなく、槍だの弓だの色々教えてくれる。だが、俺の攻撃が父親に当たったことはない。
運動能力を強化すれば簡単に勝てるが、俺は今まで防御力(皮膚や骨の頑丈さ)だけを強化して訓練してきた。筋力でごまかすのではなく、技術として剣術や槍術を覚えるためだ。
たとえば「突く」攻撃で狙いを正確にするのは、筋力ではなく技術だ。手足が今どこにあるのか、関節の角度が今どうなっているのか、無駄のない動きをするにはどうすればいいか、そういったことを学ぶためにやっている。単純な強さだけでは、戦うしか能がないバカになりかねない。
もちろん上達が早くなるようには強化しているが、30年近く戦士やってた父親に、10年で追いつくのはちょっと難しいようだ。学習能力の強化がうまくいってない可能性もある。あるいは、サンプルが足りない可能性もある。模倣と創意工夫の繰り返しだから、兄弟子みたいなのが大勢いたほうが、見て学ぶには適している。サンプルとはそういう事だ。でも、俺は一人っ子。父親は道場やってるわけじゃないから、兄弟子なんていない。残念。
「ジャイロ、お湯を沸かしておいて。」
「母さん、今日は何?」
「ポトフよ。」
父親との訓練が終わったら、母親の手伝い。
やることは家事だが、これは魔法を使う訓練だ。
元冒険者で魔術師の母親。初級魔法で薪に火をつけたり、鍋に水を注いだり。教わって練習するうちに、俺も初級魔法までは使えるようになった。もちろん自重しているが、魔力を大量に注ぎ込めば、初級魔法でも威力はいくらでも高くなる。
両親は、冒険者としては可もなく不可もなくの結末だった。
財宝を見つけたとか、有名になったとか、そういうのは何もない。
その代わり、大きなケガもなく、仲間を失うようなこともなかった。
結婚を機に引退して、田舎で農業。よくあるパターンだ。
で、そんな両親の影響なのか、それとも思春期とかの年齢的なアレなのか、自分も冒険者をやってみたいという気持ちが高まってきた。
「というわけで、冒険者になりたいんだ。」
別に冒険したいわけじゃないが、田舎村に引きこもって農業やって終わりでは、せっかく転生したのにもったいない。
ただ・・・15年すごして分かったが、この世界、割と平和だ。
魔王とかいないし、魔物の氾濫とか起きないし、戦争もしてない。
50年前に勇者が魔王を倒して以来、とても平和なのだそうだ。
だから、せっかくの無敵チートだが、特にやる事がない。
そんなわけで、むりやり何かやる事を見つけようと思う。