あなた
白いベッドの上、あなたはやせ細っていましたね。
あんなに元気だったのになんて私はその時思っていました。
それでもまだお喋りをして動けていたあなただったから、私は『まだ大丈夫だ』と漠然と思ってしまったのです。
まだ、この世にいてくれる。生きてくれているなんて。
けれどもあなたはそれから数日後にこの世から旅立ちました。
あの日、帰りがけに「これ酸っぱくて美味しいよ」と勧めてくれた可愛らしいラムネを一緒に食べれば良かったな。
それが最後なんて思わなかったんです。
「美味しいんならいっぱい食べなよ」なんて、食の細くなったあなたが沢山食べれる様にと、優しさのつもりでした。
「ありがとう」とたった一粒貰うだけできっとあなたは笑ってくれたのに。
私はずっとこの事を後悔するでしょう。
『いつも』であればなんて事ないと流すのに。
だけどあなたがいなくなった今、あなたと会った最後の日や、今までの記憶はなんて事のない物ではなくなりました。
眠りにつく前や、一人でお風呂に入っている時、思い出しては寂しくて涙が溢れます。
もう一緒に散歩に行くことも、話す事も、食べる事も出来ない。
あなたはいないのですから。
棺に入った動かないあなたを見て、真っ白い骨になったあなたを見て、もういないのだなぁと認めるしかありませんでした。
随分と小さくなってしまいましたね。
私の手を引いてくれたあのしわくちゃで温かい手はもう、ないんですね。
あなたの家に遊びに行って、帰る時、あなたはいつも「気を付けてね」と外まで見送ってくれました。
私は「また来るね」と手を振りました。
そんな事ももう出来ない。それが寂しくて堪らない。
あなたが優しかったから、優しさを沢山くれたから、だからこんなにも寂しい。
これから段々と時が経ってこの寂しさは薄らいで行くんでしょう。人は忘れる生き物だから。
けれど、ふとした時に思い出しては偶にこっそり泣くかもしれません。
あなたと過ごした時間は消えてなくなってはいないから。
あなたはかけがえのない人でした。
代わりなんてない。
私にとって『あなた』はあなただけです。
同じ位に大切な人も勿論沢山いるけれど、私のあの日の思い出にいるのはあなたです。
あの時や、あの場所で、過ごしたのはあなたです。
あなたがいないのは悲しくて寂しい。
けれどそう思うのはあなたが優しくしてくれたから。大切にしてくれたから。
だからきっと私は幸せ。
ありがとう、あなた。
沢山優しくしてくれて、大切にしてくれて本当にありがとう。
お読み頂きありがとうございました。
もしかしたら道ですれ違っただけの人が明日から、あるいは一年後、そらよりもっと後にあなたを大切だと思ってくれる人かもしれない。親や、友人にとってあなたは大切な人かもしれない。あなたは確実に誰かにとっての大切な『あなた』です。大切な『あなた』が幸せでいられますように。