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魔法使いのユメ─everlasting blooms─  作者: 神代
プロローグ
6/25

『永遠の家族Ⅱ』

 お昼ご飯をご馳走になってからしばらく経った頃。

 アサヒさんが話していた通り、配送業者の人達が荷物と一緒にこの家へとやって来た。

 みんなの寝室が集まる一角にある空き部屋に運び込まれていたのは、ベッドに机と椅子、洋服タンスといった家具一式だった。

 必要最低限の物だけだけど、まるでこれから誰かがその部屋を使うような準備だ。

「アサヒ様。家具の配置はどうしましょうか」

「そうですね……配置については一任されましたし、一先ずは誰かの部屋と同じ配置にしてみましょう。この家具の数だと、兄様のお部屋と同じような感じにした方が良いですかね……」

 空き部屋の入口に佇むアサヒさんと照さんが業者さんと対しながらそんなことを話しているのを、通りがかりを装って部屋を覗きに来た私は目撃した。

 美人な二人が思案顔で並んでいるものだから業者さん達はなんだか緊張している様子だったけど、二人が家具の場所について指示し始めるとテキパキと仕事を始めていく。

 私はその様子を、物陰からしばらく眺めていた。

 作業は程なくして終了し、業者さん達はアサヒさんに連れられて玄関の方へと去って行く。

 私はそれを見送ると、一人居残って部屋の出来栄えを確認する照さんの元に静かに近付いた。

 静かにとは言っても、照さん相手に気付かれずに近寄れるわけがない。

 優しくとても穏やかな美人という印象が強い照さんだけど、そんな印象とは裏腹に武闘派な一面がある……と言うか、元々はそっち系の人だったらしい。

 キョウ君に聞いた話では、かつてはアサヒさんや謙信さんになにかそっち系の手解きをしていたとか。普段はそんな厳しい一面は全然見られない……いや、読さんを叱ってる時とかはわりと見る気がするような。

 ともあれ私が歩み寄ると、すぐに気付いた照さんがこちらに目を向けて、優しく微笑んでくれる。

「おや、桜様。どうかされましたか?」

「えっと……誰かこの部屋を使うのかな、って気になりまして。つい覗きに来ちゃいました」

「ああ、そう言えば……桜様には事情をまだ話されていないのでしたね。となると、私の方から勝手に話してしまっても良いのでしょうか。むむむ……」

 そう言って彼女が気にしているのは、キョウ君の意見だろう。

 照さんもアサヒさんと同じく、彼のことを尊重……いや、信奉? 崇拝? うん、まあとにかくキョウ君のことを第一に考えて行動する人だ。

 私に隠し事をしているのはどうやらキョウ君の考えっぽいので、それに反することが照さんには引っ掛かっているのだと思う。

「やっぱりキョウ君に直接聞いた方がいいみたいですね……」

「申し訳ありません。私から桜様にお話したいのは山々なのですが、主人の楽しみを私が奪うわけには行きませんから」

「……楽しみかあ」

 照さんがそう表現するということは、つまりそういうことなんだろう。

 ──はぁ。困った人だなあ、彼も……



 というわけで早速、私は単刀直入に居間でくつろいでいる彼に質問してみることにした。

「ねぇ、キョウ君。あの空き部屋、これから誰か使うの?」

「ん。ああ、まあな」

 私が隣に腰を下ろしたのも気にせず、キョウ君はスマホを触りながら適当に答えてくる。

 どうやら誰かにメッセージを打っているようで、短い文章をさっさと打ち込んだ彼は大きなあくびを一つ漏らしてから、スマホを手放して頬杖をついた。

「えっと。そんな話、私は聞いてないんですけど……?」

「そりゃあ我が家の事情なんだから当然だろうよ。桜に伝えるのは後で良いかな、と。その方が面白そうだしさ」

「面白そうって……はぁ、やっぱり」

 面白そうだから、という理由で隠れてこそこそと何かを企むのは、キョウ君の昔からの悪い癖だ。

 イタズラが好きと言うか、裏で手ぐすねを引くのが大好きと言うか。

 交遊のない人とは徹底的に距離を取るだけに、それは親しい人に対する彼なりの愛情表現みたいなものなのだろうけど……どんなに年月が経っても、そういうところは変わらないみたい。

「で、誰が使うの? あ、フェイトちゃんがとうとう一人部屋になるとか? みんなにはちゃんと自分の部屋があるのに、フェイトちゃんだけはアサヒさんと相部屋だったもんね」

「いや、フェイトに一人部屋なんか与えたら、いつまでも片付かなくてただの物置部屋と化すだけだろう……俺以上にものぐさなヤツなんだからさ」

「……えへん」

「褒めてないからな?」

 ぼんやりとテレビを眺めていたフェイトちゃんのボケを軽く流しつつ、キョウ君は少し考えるように黙り込んだ後、渋々と口を開いた。

「桜には、当日を迎えてから話そうと思っていたんだが。しばらくウチで親類の子を預かることになっていてな」

「親類? えっと……むこうの世界にもいるんだっけ、キョウ君の家族……」

 私の知らない世界、知らない長い時間の中で彼が作ったという、アサヒさん達を含めたキョウ君の新しい家族。

 キョウ君が言う『家族』という言葉には、アリエちゃんのような弟子や関係の深い友達も含まれるからややこしいのだけど。

 でもわざわざ親類の子と言葉で表現するくらいなのだから、きっとアリエちゃん達のような関係とは違う人なのだろう。

「ああ、あっちの人間じゃない。何と言うか、こう……説明するのが難しい関係の人間なんだ。光源氏の人物相関図並みに説明が面倒くさくてな」

「なにそれ……」

 誤魔化しているようには見えないけれど、でも肝心な部分は伏せて話そうともしないようなこの感じは、間違いなく私を相手に楽しんでいる(・・・・・・)

 別に悪い気はしないと言っても、私一人にだけ内緒にされるのはどうしても疎外感を感じてしまう。

 彼にそんなつもりはないとは解っているんだけど……

「まあ、あと数日もすればこの家にやって来るから、その時にでも改めて紹介するよ。同い年だし、桜ならきっと仲良くなれるだろう」

「同い年? それって、もしかしてウチの学校に転入してくるってこと?」

 あと数日と言うと、ちょうど春休みが終わる頃だ。

 私達が住むこの神門(みかど)町にある高校は一つだけだし、私と同じ歳だとするとそう考えるのが自然だと思う。

「ああ。両親の事情で、今まで海外を転々としていた娘でな。今回その両親が諸事情でしばらく遠出をしなければならなくなったから、縁あってウチで預かることになったんだ。

 本当は去年の入学に時機を合わせたかったようだが、俺がアリエルの育成で忙しかったからな。無理を言って一年待ってもらっていたんだ」

「ふーん、そうなんだ…………ん?」

 今、さらっと重要なことを言わなかった?

「むすめ? え、なに、女の子なの?」

「そうだが。……何だよ、急に目を()わらせて」

「別にぃ。そっかー、女の子ですか。ふーん、それも私と同じ年頃の……そっかそっかぁ」

「桜が何を言いたいのかはだいたい解るが。俺にそんな心配をしてどうするんだよ。そもそも最近までアリエルが居ただろう、プラマイゼロじゃないか」

「それはそうだけど。……女の人をたくさん周りに集めてる人に言われてもなぁ」

 それも美女や美少女ばっかり。私もみんなとは長い付き合いになって来ているし、もちろん彼が下心で集めた人達じゃないということは理解している。

 けれどここまで見事に美人ばかりを集めているとなると、キョウ君自身に女性を引き寄せるなにかしらの魔力があるんじゃないかと疑わしくなる。

 そう言えば前世(むかし)の頃も、彼の周りには男の子じゃなくて女の子の方が多かったような気がする。……まあ、それは私を含めた幼馴染のことなんですけども。

「ま、桜が妬いてくれるのは悪い気がしないんだが。……ちょっと訳有りの娘でな。正直、俺でも手を焼きそうなんで、同じ年頃の桜にどうにかしてもらいたいんだよ。力を貸してくれないか?」

「……」

 珍しく自信がなさそうに笑う彼に、私は少し興味を覚えた。

 私の記憶にある限り、キョウ君がそういった表情を見せたことはない。どんな事だろうと、いつも涼しい顔で器用にこなすのが私の知っている彼だ。

 そんなキョウ君にこういう顔をさせるような女の子とは、一体どんな人なのだろう。

 数日後にこの家へやって来るというその女の子と会うのが、なんだか楽しみになってきた。


 ………

 ……

 …

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