『プロローグ─旧人類史─』
人類は成熟期を迎えていた。
文明は栄え、技術は発達し、過去の人々が積み上げた叡智によって、人類は星の支配者となった。星が蓄積した資源を食い潰すその時まで、人類の時代は終わることはないだろう。
そんな人類の中で、密かに終わりを迎えようとしている者達が存在していた。
魔法使い。
魔力を用いて科学理論から逸脱した奇蹟の現象──“魔法”を操る者達は、確かに地球には実在した。
だが二十一世紀まで人類史を紡いだ現代人達は、誰もそのような存在を信じていない。“いるかも知れない”とは思っても、皆が笑い話として済ませるだろう。
魔法などこの世には必要ない。人類が築き上げ、進歩させた科学によって自由を得た人間は、魔法というまやかしを空想の産物として切り捨てた。
それが原因とは決して言い切れないが、人類が魔法の存在を必要としなくなった時代を迎えると、地球に満ちていたマナが急速に衰退を始めた。
マナとは魔力の源の一つだ。それが魔法使い達にとって絶対に必要なものとは言えないが、彼らにとっては光のようなものだった。人間が光を失えばどうなるか、それは誰にでも解るだろう。
マナの衰退によって魔法使い達は少しずつ数を減らし、二十一世紀に差し掛かると、もはや満足に魔術を扱えないような出来損ないの魔術師ばかりが現代で息を潜めて生きるようになっていた。