出産の日
初めて目が覚めてからどれだけの日が過ぎただろうか。いや、実際そんなに過ぎてはいないのだろうか。
胎児というのは本当に暇なもので、寝ることしかすることが無い。
というか、まず体がひたすら寝ることを催促してくるようで、少し起きていようとしてみても、すぐに眠りについてしまうのである。
赤ちゃんは寝るのが仕事というが、多分、起きているような無駄なエネルギーを使うのであれば早く体を完成させろ。ということなのであろう。
そんな日々も多分今日で終わりだろう。
というのも、先程から少し押し出されるような感覚がある。加えて、陣痛へと続いているのか、その度に親の声がする。周りに何人か助産師さんなのか、別な人の声もする。
もう遅いかもしれないが、、逆子になっていないか、へその緒が首に絡みついていないかということだけ確認をしたが、問題はなさそうだ。
その後のことは詳しくは言わないが、母子ともに無事安産出来たらしい。
もうひとつ付け加えると、俺は初め、母体を安心させるために泣いておこうと思っていた。しかし、泣くということが遺伝的に組み込まれているいない以前に、産道を通る時に頭が潰れるかと思った。いくら骨の自由度が高いとはいえ、痛いし、いきなり空気中に放り出されたわけだから身体中ひりひりする。また、そうして泣くことで肺が一気に膨らむなど、赤ん坊にとって泣きやすい環境を作られているようだった。
生き物って合理的に出来ていると感じたものであった。
そんなこんなでとりあえず落ち着いたわけであるが、ここは病院の中のようだ。
手首になにかを巻き付けられ、周りから聞こえてくる電子音。飼葉桶ではなく、綿が詰まった肌触りのいい布。何かの薬品のような、清潔に消毒されたような独特の匂い。なかなかに科学技術も発達しているようである。
日本のように。
(とは言ってもまだ目もしっかり開かないし耳もまだ水が入っている感じがする。自分の体になれる…というかまずは首が座って、ハイハイから歩けるようにでもなりたいな。)
前世ではかなりの運動音痴で苦労したから早く慣れておきたいのである。
(あと、訓練してできるようなものか分からないが、音で空間把握ができるやつ。エコーロケーションを習得してみたい。赤ん坊の頃からやっていればだいたい生き物ってなんでもできるようになりそうだからな。)