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福北ゆたか線 二時間の空白  作者: にちりんシーガイア
第九章
9/12

引き返して通り越す

 これであきらめるわけにはいかなかった。

 このアリバイさえ崩れば、城戸の元部下である田中を釈放させることができる。城戸は、そう確信していた。

「香椎、戸畑に止まるソニックが駄目なら、いっそ篠栗から博多まで戻ってみるのはどうだ?そしたら、全てのソニックに乗ることができるんじゃないか?」

「しかし警部、戸畑を通過するソニックに乗ったら、下車は不可能ですよ」

 山西が、そう反論する。

「その心配はする必要がないよ。田中の様に、手前の黒崎で降りて、快速か普通に乗り換えて戸畑へ向かえばいいんだ」

「しかし、それでは時間がかかりませんか?」

「さっきよりは早くなるんじゃないかな。博多まで戻るなら、香椎線の乗り換えの必要がないから、その分接続の時間が短くなると思うんだ。是非、調べてみようじゃないか」

 今度は、南条が時刻表を手に取って調べる。

「先程と同じように、篠栗一〇時二八分発の博多行きに乗ったとします。すると、終点博多到着が一〇時四七分。その十分後の一〇時五七分に特急ソニック十七号が発車しますから、それに乗ることができるでしょう。このソニックは、香椎、戸畑には停車しませんので、一一時二八分に到着する、黒崎で降りる必要があります。そこから乗車可能な戸畑方面の快速列車は、黒崎一一時四一分発の快速小倉行き。この時点で、犯行は不可能です」

 南条は、そう言って時刻表を閉じた。彼の調べた時刻を、以下の様に図示した。

挿絵(By みてみん)

「やはりダメだったか──」

 城戸は、溜息をつく。

 が、直ぐに、

「違う、我々は鉄道だけにこだわってしまった!」

 と、大声で言った。

「それは、どういう意味ですか?」

 門川が、城戸に尋ねる。

「別に鉄道にこだわる必要はないんだ。例えば、レンタカーで九州自動車道を使えばアリバイを崩せるかもしれん」

 城戸は、そう言って、福岡県の地図を広げた。

挿絵(By みてみん)

 篠栗駅から西にずれると、九州道の福岡インターがあった。

「福岡インターから九州道を北上して、八幡やはたインターで北九州都市高速に入って、枝光えだみつランプで降りれば篠栗駅から戸畑駅までレンタカーで移動することは可能だが、果たしてどれくらいの時間がかかるのだろうか?」

 そうすると、パソコンを操作していた川上が、

「ネットで調べると、五十七分と出ましたから、一時間程度で着くと思います」

 と、言った。

「というと、犯行は可能になるな。同級生には、一〇時一七分の快速直方行きに乗るフリをして駅舎に入るが、その後直ぐに出てレンタカー屋で車を借りたんだ。それが十分ほど掛かったとして、一〇時半に篠栗駅を出発したとしても、戸畑駅に着くのは一一時半頃。一一時四〇分に戸畑駅で犯行に及ぶのは可能だな」

「これで、田中を釈放できますよ。大峰に突き付けてやりましょう」

 南条が、そう声高に言うが、城戸はあくまでも冷静だった。

「いや、それはまだ早すぎる。篠栗駅周辺のレンタカー屋を洗って、大峰が車を借りているかと、その車で九州道を利用したかどうか、(エヌ)システムを調べてみよう」

 まず、篠栗駅周辺のレンタカー屋をリストアップしようとしたが、該当は一件しかなかった。

 そこで、タクシーでの移動も視野に入れて調べることにした。

 城戸は、彼の部下を連れて篠栗町へ移動する。彼らで手分けして、駅周辺のレンタカー屋とタクシー会社に当たった。

 数時間後、駅近くの喫茶店んで集合し、捜査結果の情報を共有した。

 しかし、誰も大峰の目撃証言を得たものはいなかった。つまり、城戸のレンタカーで九州道を経由して戸畑駅へ向かうという推理は、成り立たないことになってしまう。

 だが、川上が城戸に向かって、

「大峰の同級生はこの篠栗に居るんですよね?」

 と、尋ねた。

「ああ、君の言いたい事はわかったぞ。その同級生の車を使えばいいという事だな?」

 彼らは、大峰の同級生である野田の自宅を訪ねた。城戸と南条は、二度目の訪問である。

「刑事さん、今度は、どうしたんですか?」

 野田が、不思議そうな顔で言う。城戸は、野田の家に上がらず、玄関で訊くことにした。

「野田さん、今日も八月二日の件でお尋ねしたいのですが、大峰さんに車を貸しませんでしたか?」

「車ですか?貸していませんよ。あの日、大峰さんは車で移動したと言ったじゃないですか」

 城戸の脳裏に、野田が大峰から金をもらって黙っているのではないかという考えが浮かんだ。警察に訊かれても、一切喋るなよと口封じの金をもらった可能性もある。

「これは、殺人事件が絡んでいます。正直に答えてください」

 城戸は、そう言って野田に迫るが、

「そんなことを言われても、大峰さんに車を貸していませんから困りますよ」

 と、平然に答える。

 結局、城戸はそこで折れることにした。だが、駅に戻るときに野田の自宅の建物の横に駐車してあった、白いセダンのナンバーをメモしておいた。そのナンバーが、九州道のNシステムにヒットすれば、彼らの嘘を暴くことができるからである。

 早速、彼らは福北ゆたか線の吉塚よしづか駅の近くにある、福岡県警本部へ向かって、八月二日の福岡インターと八幡インターの間の九州道のNシステムを調べてもらった。

 しかし、野田の車がヒットすることはなかった。

 これで、大峰は、車を使って先回りしていないことが確実となってしまった。

 その日の深夜、城戸は、戸畑署の捜査本部で独り煙草を吸っていた。やはり、大峰のアリバイを図示したホワイトボードを眺めている。

 すると、捜査本部の扉が開き、一人の男が近づいてきた。それは、柴崎だった。

 柴崎は、城戸がいることに気付いていなかったらしく、

「城戸警部、いらっしゃったんですか」

 と、驚いた。

 彼は、城戸の近くの椅子に腰掛け、

「どうやら、警視庁の皆さんは、単独で捜査をしていらっしゃるようですが、何かあったんですか?」

 と、問い掛けた。

「ええ、まあ。戸畑署の皆さんに迷惑をかける訳にはいかないと思って、単独でさせていただいています」

 城戸は、煙草を灰皿の上に置く。

「一体、何があったんですか?」

「前に少しお話したこともありましたが、私は、田中が犯人とは思えないんです。そこへ、我々に、被害者の城島がある政治家の元秘書と接触していたという情報がもたらされて、その政治家が事件に関与していると考えました。しかし、その政治家は大物過ぎるんです。今、田中純一という重要参考人がいる中で、その政治家の秘書にはアリバイがありました。この状況で、その秘書を捜査するのは危険すぎるんです。私は、ここ最近、辞表を常に持ち歩いています。そのくらいの覚悟が必要なくらい、危険な捜査なんです」

 柴崎は、城戸が背広の内ポケットに忍ばせていた辞表を見て驚愕の表情を見せた。

「これが、その政治家の秘書のアリバイです。最初はもろいように思えたアリバイでしたが、意外に強固なものでした。いろいろ考えてみたんですが、なかなか崩せません」

 城戸が、ホワイトボードを見ながら柴崎に言った。

「一体、どんなアリバイなんですか?」

 城戸は、大峰のアリバイを柴崎に説明した。

「確かに、二時間もあれば先回りできそうですが、列車の本数の関係で、接続がうまくいかない事はよくありますからね──」

 柴崎が、言った。

「そうなんですよ。今日一日、いろいろな方法を検討したんですが、ダメでした」

「事件が起きたのが、戸畑駅ですからね。これが小倉駅だったりすれば、博多から新幹線なんかでビューっと簡単に先回り出るんでしょうがね──」

 翌日、再び城戸と彼の部下たちは、大峰のアリバイを検討した。

「警部、正直もう無理なのではないでしょうか。これ以上、先回りする方法は浮かびませんよ」

 門川が、言った。彼の言うように、これ以上考えを持っている刑事はおらず、静かでどんよりとした雰囲気が蔓延していた。

 その時城戸は、昨夜柴崎との会話をふと思い出した。

(新幹線でビューっとか──)

 城戸は、椅子に背をもたらせていたのを、急に浮かせた。その途端、急に声を上げる。

「そうだ、新幹線だよ」

「新幹線ですか?新幹線に乗ったとしても、戸畑付近に駅はありませんし、博多を出ると、次はもう小倉についてしまって、戸畑の手前で途中下車も不可能ですが?」

 門川が、反論したが、

「違うんだ。小倉まで行ってしまって、そこから引き返すんだよ。我々は、戸畑か、その手前で下車することしか考えてなかったんだ。しかしね、新幹線は博多、小倉間を二十分足らずで結ぶ。戸畑を通り越して、小倉で引き返しても先回りが可能かもしれん」

 と、城戸は得意げに言った。

「なるほど、わかりました。早速調べてみましょう」

 山西が、そう言って時刻表を取るために走った。

 城戸は、根拠はなかったが、やっと突破口が見えた気がして、安堵の表情見せた。どんよりとしていた捜査本部に、雲の切れ目から晴れ間がさしてきたような感じだ。

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